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楽しい女子会はあっという間に時間が過ぎてお開きになった。持ち寄ったお菓子は食べきれなかったので、受験勉強に励んでいる弟に陣中見舞いとしてあげようと思う。
女子会が終わるとあっという間に夏休みが終わった。
夏休みの最後の週に菜緒が寮に戻ってしまって寂しかったけど、また休みに入ったら帰ってくると約束してくれたので、私は泣く泣く菜緒を見送った。
2学期が始まって半月が経った頃、私は先生に呼び出された。
まあ、呼び出された理由はなんとなく想像がついている。
「神楽木さん、生徒会に入ってみないか?」
「生徒会……ですか」
ああ、やっぱり。
セカコイで、凛花は1年で生徒会に誘われるという話があった。私は成績優秀だし、生活態度も良好だ。
そんな私に生徒会入りの話があるのは、まあわかる。だが、私はできれば目立ちたくないのだ。生徒会なんて入ったら目立ってしまうではないか。
私が断りの体勢に入ろうとすると、教師が泣きついてきた。
「頼むよ、神楽木さん!君くらいしか他に生徒会に入ってくれそうな人はいないんだ……」
「先生……あの、申し訳ないのですが、私には……」
「いいじゃねぇか、入れば」
私と先生の会話に割って入ってきた声に、私と先生は振り向く。
そこには長身でがっしりとした、スポーツマンらしい外見をした男の人が立っていた。ワイルド系なイケメンである。整っているというよりも、漢らしいと言う方が合っている風貌の持ち主だ。
私はその人物に見覚えがあった。
「生徒会入れよ、凛花。楽しいぞ?」
「朝斐さん……!?」
「あれ、神楽木さん、相模くんと知り合いだったのかい?」
「え、ええ……朝斐さんは私の従兄なんです」
「そうなんだ。ならいいじゃないか。相模くんは来期の生徒会長だよ。従兄がいるなら心強いよね?だから生徒会に入ろう。ねっ?」
ねっ?っていい歳したオジサンに言われてもなんとも思わないんですけど。むしろ気持ち悪いんですけど。
私は困ったように朝斐さんを見ると、彼はにっと笑った。あぁ、だめだ。この人がこの顔を浮かべた時は私の味方になってくれた試しがないのだ。
「オレがいるのに、なんで生徒会に入るのを躊躇うんだよ、凛花?」
「え、いや……私には荷が重いというか……」
「おまえ、そんなこと思うような奴じゃねぇだろ?お兄様の命令だ。凛花、生徒会に入れ」
「うっ……」
私はこの従兄が苦手だ。
俺様でゴーイングマイウェイな従兄に昔から逆らえないのだ。
先生からの期待の眼差しと、従兄からのプレッシャーに負けた私は首を縦に振ってしまった。
ま、負けた……あぁ、私の平穏な学園生活が……。
私はがっくりと肩を落とすと、従兄が私の肩に手を置き、にっこりと笑顔で言った。
「これからよろしくな、凛花?楽しくなりそうだなぁ」
全然、楽しそうじゃない。
私はただ、従兄を力なく睨むことしかできなかった。
生徒会執行部に入ることが決まったのはいいが、まだ引き継ぎをする時期でもないし文化祭も近いということで、しばらくは生徒会に関わらなくても大丈夫だと言われた。
よし、しばらくはあの従兄と関わらなくてすむ。そのしばらくがいつまでなのかはわからないが、今のうちに従兄に振り回されない平和な学園生活をエンジョイしよう。
そう思ったのに。
「凛花、ちょっと今から付き合え」
なんであんたがここにいるー!!
今まで関わってこなかったくせに、なんで今になって接触してくるんだ!?
「嫌です」
「あ?」
す、凄んでも負けないんだから……!
負けるな私。平穏な放課後を過ごすために!
「私だって都合というものが……」
「おかしいなぁ、一応伯母さんに電話したけど、凛花の予定は特にないって言ってたけどなぁ?」
なに情報漏らしてんだ母めー!私がこの従兄苦手だって知ってるくせに!
嫌がらせですか!?嫌がらせなんですか!?
「ほら、悠斗も待たせてんだ、早く行くぞ」
結局私の都合は無視か!この俺様め!
しかし弟という人質を取られた私は素直に従うほかない。
渋々と私は平穏な放課後にさよならをした。
相模朝斐という人は、実はセカコイの登場人物だ。
セカコイで凛花は彼を兄のように慕っていた。凛花が生徒会に入ることを決めた理由もこの従兄の影響が大きい。
セカコイでの彼はみんなの兄貴分で、男子生徒から慕われているという設定だった。だから私もセカコイを読んでいた当初はこんな兄がほしい~!なんて思っていたが、実物は漫画となにか違っていた。
一番の違いは俺様なところだろう。なんでも俺が一番。俺の意見を押し通す。漫画ではそんな描写はなかったのに。私の理想の兄像がガタガタと崩れ落ちた。
そんな俺様であっても、朝斐さんの懐は大きい。
一度認めた相手はとことん信じるし、必要があればすすんで守る。とても頼りになる存在だ。
だから私は苦手だと思いながらも、嫌いになれない。朝斐さんはとても人間味のある人なのだ。
そんな朝斐さんを弟も慕っている。もしかしたら私以上に。私が朝斐さんを苦手だと思う原因は、弟を朝斐さんに取られるかもしれないという恐怖からきているのかもしれない。
今だってそうだ。
「朝斐兄さん!久しぶり!!」
「おぉ、悠斗。久しぶりだな。ちっと背ぇ伸びたか?」
「わかる?」
「わかるわかる。目線が前と違うからな」
そう言って朝斐さんはくしゃくしゃと弟の頭を撫でる。弟は朝斐さんに頭を撫でられて嬉しそうだ。私の時は嫌がったのに。
別に拗ねてないし僻んでもないし悔しくもない。いいんだ、私が悠斗の姉であることには変わりないんだから。涙なんか出ていない。
「……………」
私には見せない子供っぽい表情で朝斐さんに話しかけている弟を見て私は改めて思った。
やっぱり私は朝斐さんが苦手だ。
私より弟と兄弟らしいなんて、許せない。
「姉さん?なに拗ねてんの?」
「べつに」
「凛花は本当に悠斗が好きだなぁ。おまえ、昔からオレと悠斗が話してると拗ねてたもんな」
「そんなことないです」
つーんとそっぽを向く私に弟と朝斐さんが苦笑する。
そしてグリグリと2人して私の頭を撫でた。
「ぎゃっ。ちょ、ちょっと2人ともやめて……!髪がボサボサになるでしょう!」
「あーあ、凛花は本当にかわいいなぁ。バカな子ほど可愛いっておまえのためにある言葉だよ」
「うん、姉さんかわいい」
「だ、だから~……やめてって!」
2人とも誉めてるつもりだろうが、それ、誉めてないからな!
それでも単純な私のご機嫌は直った。
いや、本当に私って単純……。
すっかり朝斐さんと弟の術中にはまった私であった。




