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女子会は我が家で開かれることになった。
それぞれがおすすめのお菓子を持ち寄って食べ合うという趣旨だ。
色々予定が合わず、女子会の開催が夏休みが半分も過ぎた頃になってしまったが、それでもなんとか開催することができた。
私はお茶会用に、テーブルクロスを敷いたり、花を飾ってみたりと忙しい。
ああ、お茶の準備もしなくちゃ。
お茶は自分で淹れるより、使用人さんが淹れてくれた方が美味しいので、使用人さんに頼む。
バタバタと支度をしていると、菜緒がやって来た。
もうそんな時間なのか。
菜緒は大きめの紙袋を使用人さんに渡していた。
何を持ってきたの、と訊ねると、ないしょ、と言われた。何を持ってきたんだろう。菜緒が選ぶお菓子には外れがないので楽しみだ。
菜緒をお茶会の部屋に案内してすぐに美咲様もやって来た。美咲様は手ぶらだった。
美咲様が申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい、お菓子は間に合わなかったみたいで、あとで届くことになっているの」
「まあ、そうなんですか?美咲様の用意されたお菓子、楽しみにしてますね」
「ええ。味は保証できるわ。楽しみにしていて」
そんな会話をしつつ、美咲様を部屋に案内する。
菜緒と美咲様の初顔合わせだ。私がきちんと紹介しなくては!私は気合いをいれる。
「美咲さん、こちらが私の幼馴染みの大月菜緒ですわ」
「初めまして、大月菜緒です」
「菜緒、こちらが水無瀬美咲さんよ」
「初めまして、水無瀬美咲と申します」
菜緒と美咲様は握手をする。
うん、うまくいったようだ。良かった。
私はほっとして椅子に座るように2人を促そうとしたが、椅子の脚に引っ掛かって転びそうになる。
なんとか背もたれをつかんで転ぶのを回避する。
2人は驚いたように見ていたが、私が転ぶのを回避した姿が可笑しかったのか、笑いだした。
「あははっ。凛花おもしろいっ……!」
「まぁ……ふふっ……さすが凛花さんだわ」
さすがってどういうことですか、美咲様。
私はちょっと拗ねたように2人を睨む。
それがまた可笑しかったようで、更に2人は笑いだした。
もう、なんなんだ……。
それから2人はすぐに意気投合した。
主に私の話で。
「凛花ったら、ちょっと?いや、結構変わってるでしょ?迷惑してない?」
「それも凛花さんの魅力だわ。だから、平気よ」
「そう、ならいいんだけど。……それにしても、凛花の変わっているところが魅力って言える水無瀬さんってすごいわ」
「ふふか。どうか、美咲って呼んで頂戴」
「じゃあ遠慮なく。美咲も私のことに菜緒って呼んでね?」
「わかったわ、菜緒」
ちょっとお2人さん、私の存在忘れてませんか。
私は盛り上がる2人を尻目に1人寂しくお茶を飲む。
2人が仲良くなれたようで何よりです。……べ、別に寂しくなんかないんだからね!
私が少し拗ねていると、使用人さんが私を呼ぶ。
「お嬢様、少しよろしいですか」
「ええ、なにかしら」
「水無瀬様にお客様がいらっしゃいました」
「美咲さんに、お客様?」
誰だろう。そういえば美咲様はあとでお菓子が届くことになっていると言っていた。
そのお菓子が届いたのかもしれない。
私は盛り上がる2人の会話に入り込むことにした。
別に置いてきぼりにされた嫌がらせとか、そんなことはない。
「盛り上がっている中、すみません。美咲さんにお客様がお見えになっているそうですわ」
「まあ。やっと届いたのね。申し訳ないのだけれど、その人をここまで連れてきて貰えないかしら」
「ここに、ですか?」
「ええ」
「わかりました。では、そのように致しますわ」
「お願いね」
「はい。私は少し席を外しますね」
私はそう言って席を立ち、使用人さんにお願いしてそのお客様のもとへ向かう。
お客様が待っているという部屋にたどり着くと私はノックして、部屋に入る。
「失礼致しますわ」
私は軽く礼をして、そのお客様を見る。
「美咲さんに頼まれてあなた……を……え?」
私は台詞の途中で固まった。
だって、そこにいたのは。
「蓮見様……?どうしてここに?」
「……美咲に頼まれたんだよ」
「美咲さんに?なにを?」
「お菓子を持ってくるようにって言われて、渡された紙に書いてあった住所に来たんだけど、君の家だったとはね。表札を見て驚いたよ」
「まあ……そうだったんですか」
ちょっと待って。理解が追いつかない。
つまり、蓮見は美咲様に頼まれて我が家にお菓子を届けに来た、と。つまりそういうこと?
「え、えぇっと……お久しぶりですね、蓮見様」
「ああ、終業式以来だね」
「夏休みはどこかに行かれましたか」
「父について、ヨーロッパの方に行ってきたくらいかな」
「まあ、ヨーロッパですか」
「ああ。ところで、なんでこんなにお菓子が必要なの?結構な数を頼まれたんだけど」
「今、女子会をしているのです。ああ、そうだわ。美咲様に蓮見様を連れてくるように、と言われているんですの。案内しますので、付いて来て下さい」
「は?なんで俺が……」
「さあ……ただ、美咲様に頼まれていますので」
さあ、こちらです、と有無を言わせず蓮見を案内する。
美咲様の言うことは私の中では絶対なのだ。
私は蓮見が持ってきたと思われるお菓子の箱を持とうとすると「俺が持つから」と蓮見に取り上げられた。
他にも紙袋があったので、それを持とうとするとそれも蓮見に取り上げられる。
持たせてくれそうにないので、私は諦めて蓮見を案内することにした。
部屋に戻ると相変わらず菜緒と美咲様が楽しそうに話していた。ちょっとジェラシーを感じる。
私は大袈裟に咳払いをする。
呆れたような目で私を見る蓮見なんて気にしないのだ。
「美咲さん、お客様をお連れしましたわ」
「まあ。ありがとう、凛花さん。そして、ご苦労様、奏祐。こんなにたくさん作ってくれてありがとう」
作ってくれて?
ということはまさか……。
「このお菓子、全部蓮見様が作ったんですか?」
「あ、うん、まあ……。美咲にどうしてもって頼まれて」
「ふふ。凛花さん、前に仰っていたでしょう?奏祐の作るケーキが食べてみたいって。だから、頼んで作ってもらったのよ」
「蓮見様のケーキ……!その箱がそうなんですか!?」
「あ、ああ……そうだけど」
「今すぐ食べましょう!」
私の勢いに蓮見が引いている。
私は構わず使用人さんを呼び、ケーキを切り分けるように頼む。
ケーキを作るように頼んでくれた美咲様に感謝だ。
「あのぉ……もしかしてそこにいるのが?」
菜緒がおずおずと言う。
あ、菜緒は蓮見と初対面だった。
「ええ。こちらが美咲さんの幼馴染みの蓮見奏祐様よ。蓮見様、こちらが私の幼馴染みの大月菜緒ですの」
「いつも凛花がお世話になっているそうで」
「まあ、世話をしてやってないこともない、かな」
なにを偉そうに。世話しているのは私の方だ!
私は蓮見に世話をされた覚えはない!……たぶん。
菜緒も美咲様も笑ってないで否定してくれ。
とりあえず、私は立ちっぱなしの蓮見から荷物を受け取った。
受け取った荷物は使用人さんに頼んでお皿に並べてもらうことにした。菜緒のお菓子と一緒に。
「とりあえず、蓮見様もお座りになってください。お茶をお出ししますわ」
蓮見は遠慮したそうだったが、私は有無を言わさず座らせる。
だって、お客様にお茶を出すのは、当然のことでしょう?




