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楽しく書けました。
コスプレネタとか苦手な方は回れ右でどうぞ!
私と弟は美咲様の家に招かれた。
私と弟は例のごとく母に持たされたお土産を手に美咲様の家を訪れた。
今回は美咲様の家の使用人さんが出迎えてくれた。
私たちは使用人さんに案内された部屋に入り、座るように言われた椅子に座る。
椅子は2つしか用意されていない。あれ?美咲様の分が足りない。
私と弟は顔を見合わせる。
使用人に聞こうと思ったが、使用人さんはサッと部屋から出ていってしまった。
残された私と弟が首を傾げていると、トントン、とノックの音がした。
そして入ってきたのは――――
「いらっしゃいませ、ようこそ、お茶会へ」
ティーセットを手に持った美咲様だった。
いや、ティーセットを手に持っているだけならいいのだ。問題は美咲様の服装だ。
「み、美咲さん……?その格好は、どうなさったの?」
「ふふ。似合っているかしら?」
美咲様が着ているのは、いわゆる、メイド服というやつだ。
白と黒を基調にした装飾の少ない膝上丈のエプロンドレスだ。ヴィクトリアンメイド風だろう。きちんとホワイトブリムまで着けて髪もきっちりとまとめてある。
こんなメイドさんのいるメイド喫茶があったら私は毎日メイド喫茶に通う。絶対通う。そしてオムライスにお絵かきをして貰うのだ。できればツーショット写真も撮ってもらいたい。
「姉さん、現実に戻ってこい」
「はっ」
いけない。あまりのメイドの天使っぷりに私は妄想の世界に旅立っていたようだ。美咲様、なんて恐ろしい子。
「今日は私たちが精一杯おもてなしをさせて頂くわ。ゆっくりしていってね」
「わたし…たち……?」
たちって、どういうこと?
私が首を傾げそうになったとき、タイミングよくノックがされる。
私たちは自然とドアに視線が集まる。
「……失礼します」
そう言って入ってきたのは、蓮見だった。
「ははは、は、す、み……さま……?」
「まじかよ……」
私と弟は蓮見の姿に動揺した。
何故なら蓮見は、執事の格好をしていたから。
しかもいつもは下ろしている前髪をきっちり上げている。
そしてまた、執事の格好がとんでもなく似合うのだ。
まさに有能な執事、といった様である。
クールな外見を活かす姿だ。彼がいる執事喫茶はきっと行列になる。そして蓮見ばかりに指名が集まり、同僚から嫉妬と羨望の眼差しを向けられるに違いない。
しかし、なんてことだ。ここに、天使メイドと有能執事が揃っている。そうか、ここが天国か。
2人揃って並んでいる姿は眼福である。写真撮りたい。
ありがとう、コスプレを生んだ人。
「姉さん……気持ちはわかるけど、戻ってきて」
「はっ」
あまりの衝撃に私はまたしても妄想の世界に旅立ってしまったようだ。
弟が一緒で良かった。弟がいなければ私は一生妄想の世界から帰ってこれなかっただろう。
「お2人共……どうしてそのような格好をされているのですか?」
「ちょっとした、お礼よ」
「お礼?」
私はなにか美咲様たちにお礼をされるようなことをしただろうか?逆ならあるが、お礼をしてもらえるようなことをした記憶はない。
「心当たりがないって顔をしているわね。あなたに心当たりはないかもしれないけれど、私たちにはあるのよ。だから、今日は私たちに精一杯おもてなしをさせて頂戴ね?」
「はあ……わかりました」
「オレは……?」
「悠斗君は、受験勉強を一生懸命頑張っていると凛花さんから聞いているわ。だから、今日は骨休めに私たちに付き合ってほしいの。あなたは来年、私たちの後輩になる子だもの、今のうちから交流しても損はないと思わないかしら?」
「まあ、確かに……そうですね」
「それに、凛花さん自慢の弟を見てみたかった、というのもあるの」
「美咲さん……!」
「は、はあ……」
私と弟は2人揃って照れた。
いや、事実だけどね。やっぱり本人の目の前で言われるのは恥ずかしいじゃないか。
「さあ、お茶会を始めましょう」
美咲様は楽しそうに、紅茶を淹れ出す。
蓮見も美咲様に倣い、紅茶を淹れ出した。
私の紅茶を蓮見が、弟の紅茶を美咲様が淹れる。
「お召し上がりくださいませ、ご主人様」
私と弟は飲みかけていた紅茶を吹き出しそうになった。
ゲホゲホとむせる私たち姉弟の背中を、美咲様は心配そうに、蓮見はいつも通りの無表情で擦ってくれた。
「み、美咲さん?」
「なんでしょうか、お嬢様?」
美咲様は楽しそうだ。美咲様が楽しそうでなにより、といつもなら思えるが、今日は無理だ。
「こういうことをどこで知ったのですか?」
「周りのお友達が話しているのを聞いたのよ。流行ってるんですってね」
誰だ、美咲様に要らん知識を与えた奴は。私が天罰をくだしてやる。
メイドの格好をして、普通にお茶を淹れてくれるだけなら、まあいい。
でも、ご主人様呼びはだめだ。アウトだ。私の気持ち的に。
美咲様は私の憧れなのだ。憧れの人にご主人様と言われて喜ぶのは、そういう世界の人だけだ。
私は、無理だ。そういう世界に足を突っ込む気はない。
「美咲さん……ご主人様って言うのはやめてもらえないでしょうか……」
「どうして?なにか、おかしかったかしら……」
おかしいです。大いにおかしいです。美咲様が言って良い言葉じゃありません。
とは、落ち込んでいる様子の美咲様には言えない。
「おかしいと言いますか……違和感を感じると言いますか……弟も衝撃のあまり固まってしまいましたわ……私たちの心の安寧のためにも、ご主人様はやめてくださいお願いしますご主人様以外なら大丈夫ですので!」
「そう……?残念だわ……」
残念そうにしながらも、美咲様は諦めてくれたようだ。よかった。
美咲様のご主人様呼びを止めている間に、蓮見は小さいワゴンを持ってきていた。
いつの間に。蓮見がいなくなったのに気付かなかったぞ、私は。さすが有能執事だ。
「こちらは、私どもが揃えたケーキでございます。お嬢様、お好きな物を遠慮なくお申し付けください」
聞き慣れない蓮見の丁寧な口調に、今度は私がフリーズした。
え?この目の前にいる人、だれ?
え?蓮見?これ、蓮見なの?まじか。
固まっている私を見て、蓮見はため息をついた。実に不満そうだ。
しかし、私に石化の魔法をかけたのは君なんだぞ。
「私のお勧めは、こちらのアップルパイでございます。お嬢様、もし決まらないようでしたら、是非こちらをお召し上がりくださいませ」
「え、じゃ、じゃあそれを頂きます……」
私が辛うじてそう答えると、蓮見はにっこりと笑顔を浮かべた。今まで1度もそんな笑顔見たことないんですけど、もしかして、これ営業スマイルか?
そこまで執事になりきるか!?
蓮見は切り分けてあったアップルパイを1切れ皿に乗せて、私の前に置いた。
その動作がいちいち優雅で、本物の執事のようだった。
本当に、蓮見ってなんでもできるな、と私は半ば感心して、取って貰ったアップルパイを一口食べた。
「美味しい……!」
思わず私は笑顔を浮かべる。
蓮見がお勧めと言ったアップルパイは、今まで食べたアップルパイの中で1番美味しかった。
パイ生地のパリパリとした食感と苦味、林檎のフィリングの甘味と酸味が絶妙に合わさって、本当に美味しい。これならホールで……いや、いけない。ここは余所の家なのだ。我が家ではない。だからホール食いはだめだ。はしたないと母に叱られる。
「良かった」
笑顔でアップルパイを食べている私を見て、蓮見は微笑みを浮かべて安心したように言った。
「このアップルパイ、とても美味しいです。どこのアップルパイなんですか?家でも食べたいですわ」
「これは……」
蓮見は少し困ったように口ごもる。
どうしたのだろう。蓮見らしくない。
そんな蓮見を見た美咲様がくすくすと笑っている。
笑っている美咲様を蓮見は軽く睨む。
うん、仲良いな。仲良きことは良いことかな。
「これは……その……俺が作ったんだよ……」
やっと口を開いた蓮見から聞いた衝撃の事実。
なんですと……これを蓮見が作った……だと?
私はうっかり、ぽかん、と口を開いて蓮見を見た。
すかさず横から「口閉じて」と叱責を受けるが、私はそれどころじゃなかった。
だって、このアップルパイを蓮見が作っただなんて信じられるか?答えは否だ。
本当ならプロ顔負けの腕前だ。すぐにパティシエになって店を開けるレベルだ。
私は弟に無理矢理口を閉ざされるのも気にせずじっと蓮見を見続けた。ちょっと息苦しい。
蓮見は居心地悪そうにしている。
そんな蓮見の様子に、私はまじか、と心の中で絶叫した。
「このワゴンに並んでいる物は全部奏祐が作ったのよ」
美咲様は未だに笑いが収まらないようで、笑いながら言った。
え?これ全部、蓮見が作ったの?
弟もびっくりしたように蓮見を見ていた。驚いたせいか、私の口を閉ざしていた手が離れた。よし、これで口から息ができる。
私はすかさず蓮見にワゴンに並んでいる物を1つずつ取ってもらうように頼む。
ワゴンに乗っていたお菓子は、クッキー、フィナンシェ、マフィン、パウンドケーキ、アップルパイの5種類である。
私は先に食べたアップルパイ以外も食べる。
……どれも美味しい。
どうしよう、なんか蓮見の方が私より女子力高い気がする。いつもハンカチ持ってるし。
なんなんだ、この敗北感は。
蓮見の女子力は無限の可能性を秘めています、たぶん。




