表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/152

19

 私は半強制的にホラー映画を蓮見に観せることに成功した。

 映画は、本当に怖かった。あちこちで悲鳴か上がった。

 私も怖すぎて弟に抱きつこうとしたが、目を輝かして映画を真剣に見ている弟が怖かったので、悲鳴をあげるだけに止めた。

 しかし、映画が佳境に入るに従って怖さが増していく。とうとう我慢できなくなった私は蓮見に抱きついた。

 蓮見は固まっていた。怖すぎてフリーズしてしまったのだろうか。もはやただの人形に成り果てている蓮見に私は遠慮なく抱きついた。


 映画が終わってすぐ、私たちは外に出た。

 私は恐怖のあまり涙目だ。弟は機嫌が良さそうだ。

 蓮見は………そっとしておいてあげよう。

 ごめん、蓮見。私が悪かった。ネットの評判は伊達じゃなかったのだ。



「姉さん、あれ、東條さんたちじゃない?」

「本当だわ。あとを追いましょう」


 私と弟は美咲様たちを追うために歩き出そうとするが、蓮見は固まったままだ。

 私は蓮見の手を握って蓮見を引っ張るように歩き出す。

 まったく、手間のかかる。まあ、私が悪いのだが。

 そんな私たちを弟は複雑そうに見ていた。


 美咲様たちはこのあとショッピングをするようだ。

 百貨店に入っていく。

 あ、まずい。エレベーターに乗られたら何階に行くのかわからなくなってしまう。

 一緒のエレベーターに乗るわけにはいかないし。

 どうしよう。

 私が困っているのを見かねた悠斗が「オレが東條さんたちと一緒にエレベーターに乗って、何階で降りたか確かめるよ」と言ってくれた。

 助かる。頼もしい弟を持ってお姉ちゃんは幸せだよ。

 私と蓮見は弟の連絡を椅子に座って待つことにした。

 蓮見はいまだに復活していないようだ。

 私は近くの自販機でお茶を買って、蓮見に渡す。


「……なに?」

「お詫びです。無理をさせてしまって、申し訳ありませんでしたわ」

「…………べつに」


 蓮見はお茶を受け取ると蓋を開けて飲む。

 私は黙ってそれを見つめる。


「ふぅ……そういえば、悠斗は?」

「弟は美咲様たちのあとを追って貰ってますわ。エレベーターに一緒に乗るわけにはいきませんので」

「そう」


 私と蓮見は沈黙する。

 なにをするわけでもなく、ぼんやりと座って連絡を待つ。

 私はふと隣を見ると蓮見の顔色が悪くなっていることに気づいた。


「蓮見様?顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」

「あぁ……なんとか」

「なんとかって感じじゃありませんけれど……横になったらどうですか?」

「こんなところで?」


 今私たちが座っている場所は目立たないところとはいえ、人が通らないわけではない。

 それにクッション性もよくないので寝心地もよくないだろう。


「膝枕をしてあげてもいいですわよ?」


 私は冗談めかして言った。

 蓮見も「遠慮しておく」としばらく頑張っていたが

 、やがて堪えられなくなったようで、私にもたれ掛かってきた。


「ごめん……ちょっとこのままでいさせて」


 かすれた声で蓮見は言う。

 よほど具合が悪いのだろう。やっぱりホラー映画がまずかったのだろうか。

 いつになく弱々しい蓮見が可哀想に思えて、蓮見の頭を私の膝に乗せた。


「あまり寝心地はよくないかもしれませんが……少し眠ってください」


 ホラー映画を無理矢理観せた私のせいだ。

 恥ずかしいが、我慢しよう。


「ごめん」


 蓮見は弱々しく言うと目を閉じた。

 やがて規則正しい寝息が聞こえる。

 私は蓮見の髪を優しく撫でた。

 この間も思ったけれど、蓮見の髪は触り心地がいい。ずっと撫でていたくなる。

 早く蓮見の具合が良くなりますように。

 出来れば私の足が痺れる前に良くなってくれ。




「姉さん、東條さんたちは……蓮見さん、どうかしたの?」

「ホラー映画でね、気分が悪くなってしまったみたい。今はそっとしておいてあげて?」

「…………もう、姉さんは、甘すぎる」

「なんのこと?」

「わかんないならいい」

「悠斗?」


 弟はそれっきりムッツリと黙りこんでしまった。

 なにを怒っているのだろう?今日の弟は怒りっぽい。







「ってことがあったんです」

「まぁ、そんなことがあったの」


 私は美咲様に、美咲様のデートの日にあったことを報告した。

 美咲様は楽しいデートができたようだ。ショッピングのあとはレストランでディナーをして帰ったらしい。そのレストランは王子が選んでくれたらしく、海辺の近くの夜景が綺麗なところだったそうだ。

 美咲様が楽しめたようで何よりです。


 私たちはあのあと、結局蓮見の具合があまりよくならなかったので帰ったのだ。

 弟は自分のせいだ、と青い顔をして蓮見に謝っていたが、蓮見は「悠斗は悪くない」と弟を責めなかった。

 そうだとも、蓮見がホラー映画を苦手だとわかっていて無理やり観せたのは私なのだ。私が悪い。

 私が本気で落ち込んでいるのを見て蓮見はポンポンと頭を撫でた。まるで気にするなと言うように。


「本当に、蓮見様には申し訳ないことをしましたわ……」

「うーん……でも、奏祐にとっては怪我の功名になったんじゃないかしら」

「怪我の功名ですか?」

「ええ。……ふふ。悠斗君の苦労がわかる気がするわ」

「は、はあ……」


 美咲様は楽しそうに笑っている。

 美咲様が楽しそうなのは結構だが、弟の苦労って一体なんだろう?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 悠斗君はシスコンかな それに蓮見落とされそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ