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 あのあと蓮見を捕まえることが出来なかった私は、提出期限日である月曜日にインタビューをするはめになった。

 私は深呼吸をして蓮見のクラスに向かう。

 今は昼休みだ。昼休みの間中に何がなんでも蓮見にインタビューに答えて貰わねばならない。

 私は昼食のお弁当をしっかり抱えてインタビューに挑む。


「あの……申し訳ないのですが、蓮見様をお呼びしてくださいませんか」


 私は入口付近にいた男子生徒に声をかけて、蓮見を呼んで貰うように頼んだ。

 彼は快く引き受けてくれた。よかった。蓮見が近寄りがた過ぎて拒否されるかと思った。


 蓮見はすぐにやって来て、私を見ると珍しそうな顔をした。

 別に来たくて来たわけじゃない。仕事で仕方なく来ただけなのだ。

 私は心の中でそう言い訳をした。


「なんの用?」

「体育祭のインタビューをしに参りましたの。今、お時間よろしいですか?」

「インタビュー……ね。わかった。ここじゃ騒がしいし、移動しようか」

「はい」


 私は大人しく頷き、蓮見のあとに続いた。

 げ。注目されてる。


「で、なんだっけ?」


 蓮見は中庭の目立たない木の影に座り込んだ。

 私もそれに習い、ハンカチを敷いて座る。

 ついでにお弁当も広げる。腹が減っては戦ができぬのだ。


「インタビューです。体育祭のMVPにはインタビューを取るのが毎年恒例になってますの」

「ああ……そう言えばそうだった。で、何に答えればいいわけ?」

「あ、はい。ええっと……」


 私はポケットから紙を取り出す。インタビューする内容が書かれているのだ。

 いちいち言ってメモを取るのは面倒くさいな。

 私は紙とペンを蓮見に差し出し、この質問についての答えを書くようにお願いした。

 蓮見も面倒くさいやり取りをするのが億劫だったようで、文句も言わずに紙とペンを受け取って書き込んでいく。

 私はその間にお弁当を食べることにした。この煮物うまい。

 私がお弁当を食べ終わった頃、蓮見もちょうど終わったようで、はい、と紙とペンを返す。

 私はそれを受け取り、内容を確認する。

 うん、ばっちりだ。このまま先生に提出しよう。


「ご協力、ありがとうございました」


 私がお礼を言うと、蓮見は別に、と答えた。

 そしてそのまま木にもたれかかり、寝るから時間になったら起こして、と言って眠ってしまった。

 あまりにも突然の行動に私は唖然として、本当に眠ってしまったのか確かめる。


 ……本当に眠っているようだ。

 なんだか腹が立ったので、私は蓮見の寝顔をガン見することにした。

  ムカつくくらい整った寝顔だ。だが、寝ていると普段より幼く見える。

 私はなんとなく、蓮見の髪を撫でてみた。

 蓮見の寝顔が一瞬柔らかくなったような気がした。




 美咲様との顔合わせ以来、私は美咲様と連絡を取り合っている。

 学校では美咲様の周りが怖すぎて近づけないが、内緒で美咲様と連絡を取っているという優越感が、私を天狗にさせた。


 ちょっと勇気を出して美咲様にごきげんよう、と挨拶をしてみた。美咲様はにこりと笑ってごきげんよう、と返してくれた。今日も美咲様は天使だ。

 しかし、美咲様の周りがいけない。こわい。

 私が挨拶をしただけで、すごい目で睨んでくる。


 あなたごときが、なにをわたくしたちの美咲様に話かけているの。身の程をわきまえなさい。


 そう目で言ってくるのだ。あまりの眼力に私の中の天狗もすっかりなりを潜めてしまう。

 しょんぼりとしていると、蓮見が現れた。


 元気のない様子の私に「どうしたの?いつもみたいな元気がないと、別人みたいだね」と言った。

 蓮見はいつもいつも一言余分なのだ。

 しかし私はいつもみたく言い返す元気もなく、適当にええ、と頷いた。それくらい、美咲様の周りの眼力攻撃はすごかった。

 そんな私をつまらなそうに蓮見は見る。


「本当にどうしちゃったの、君」

「美咲様の周りの方たちの眼力がすごくて、負けてしまったのです……私の方が美咲様を好きなのに、悔しいですわ……!」

「………君がいつも通りということはよくわかった」


 心なしか、蓮見が可哀想な子を見るような目で私を見ている気がする。

 いや、気のせいだ。私は可哀想な子なんかじゃないし。

 そんなやりとりをしている時、美咲様からメールが届いた。


『今度の休みに私の家に来ませんか』


 え、美咲様の家に行けるの?

 いいんだろうか、私が行っちゃっても。

 いいんだよね?だって誘われちゃったんだし?えへへ。

 私は即行『是非お伺いしたいです』と返す。


 急にニヤニヤしながら携帯を操作する私に、蓮見は引いていた。

 気にしない。蓮見なんか気にしないのだ。


「……元気出たみたいだね……?」

「ええ!ご心配をおかけしました」

「いや別に心配はしてないけど」


 そこは嘘でも心配したって言ってよ。同志でしょ!

 私たちは誰かに見られる前に退散した。




 休みの日、私は美咲様の家に遊びに行った。

 緊張する。門前払いとかされたらどうしよう。

 私は手に持ったお土産を握り締める。

 母に美咲様の家に遊びに行くと告げたら持たされたのだ。

 その前にどうやって美咲様と仲良くなったのかと問い詰められたが、私は蓮見の名前は出さずに適当に答えた。

 母は一応、納得はしてくれた。たぶん、信じてはくれてない。


 覚悟を決めてインターフォンを押して名乗る。

 するとすぐに扉が開き、美咲様が現れた。


「いらっしゃい、神楽木さん」

「お邪魔致します」


 私はへこりと美咲様に頭を下げ、つまらないものですが、とお土産を渡す。

 母が選んだお土産はプリンだ。ここのプリン、ほっぺが落ちそうなくらい美味しいのだ。

 美咲様は笑顔で受け取り、ありがとう、お茶と一緒にお出しするわ、と言った。

 やった。ここのプリンは私の大好物なのだ。


 私は美咲様に連れられ、美咲様の部屋に案内された。

 美咲様のお部屋は、女の子らしい、可愛らしいお部屋だった。うん、美咲様にぴったりだ。


 ちょっとしてお茶が運ばれた。もちろん、プリンも一緒に。

 私達はしばらく他愛のないお喋りを楽しむ。

 喋りすぎた私は喉を潤すためにお茶に手を伸ばす。

 そして一口含んだ時、美咲様が爆弾発言をした。



「神楽木さんは、奏祐のことが好きなの?」



 ………………はい?



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