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My dear

本編後の凛花と蓮見の話。



 最近わかったことがある。

 彼は案外、独占欲が強いってこと。



「久しぶりね、二人とも」


 にこにこと、穏やかに微笑んでいる美咲様は、美しいを通り越して神々しい。

 きっと元ヘタレ王子こと、東條と上手くいっているから、その幸せオーラが美咲様を神々しくさせているんだろう。


「本当に久しぶり。ちょっと見ない間に、また綺麗になったね、美咲?」


 からかい混じりに美咲様を褒めた菜緒に、美咲様は顔を赤くさせた。

 そんな美咲様も大変愛らしい。ああ…こんな風に美咲様の美しさをバージョンアップさせた東條を讃えればいいのか、それともこんな美咲様を独占できる東條を呪えばいいのか、判断が難しい。


 今日は珍しく予定が合った私・美咲様・菜緒の三人でランチだ。

 人気のカフェで女子三人で楽しくランチです。

 なに頼もうかな〜。

 私は一人でメニューを巡り、ランチのところを見る。

 パスタにピザ。ドリア、グラタン、ハンバーグ。

 メニューに載っている写真はどれも美味しそうで、目移りしてしまう。

 ああ、どうしよう…?私は優柔不断だから、こういうのすぐに決められないんだよねぇ。

 ウンウンと悩んだ結果、私はデミグラスソースのオムライスを頼む事にした。あとは、サラダのセットも頼もうっと。

 私がメニューを閉じると、菜緒は呆れた顔をして、美咲様は微笑ましいものを見るような顔をして私を見ていた。

 …いったいなんですか?


「本当に…凛花は相変わらず、だねえ…」

「そうね。凛花は変わらないわね」

「…それって褒めてます?」

「「褒めているわ」」


 ならいいんですけどね…。


「でも、凛花も綺麗になったわ。やっぱり奏祐のお陰かしら」

「…見た目は綺麗になっても中身が付いていってないみたいだけど」

「…菜緒さん、私に喧嘩売ってる?」

「いやいやいや。とんでもない」


 降参、と言うように菜緒が両手を小さく挙げた。

 まったくもう…。

 私が拗ねた顔をすると、菜緒がご機嫌を取るように私にメニューを見せて、「この店、デザートが美味しいんだって」と言ってくる。

 ふんだ。私がデザートでいつも機嫌が直ると思うなよ!

 そう心の中で文句を言いつつ、ちゃっかりとメニューを受け取ってデザートのところを見る。

 おぉ…本当に美味しそう。ジェラートかあ。あ、チーズケーキもある。他にもゼリーとか、ミニパフェとかもある。ワッフルも美味しそう。アイス乗せも出来るんだ。わあ、絶対美味しいよ、これ!スフレも美味しそうだし、悩むなぁ。どうしよう。


「…やっぱり凛花は凛花のままだわ」

「それが凛花の魅力だわ」


 真剣にメニューを見ていた私に、そんな二人の会話は届かない。

 デザートのお陰ですっかり機嫌を良くした私を、菜緒と美咲様は生ぬるい目で見ていた。



 それから三人分のランチを頼み、待っている間に私たちは楽しくお喋りをした。

 お互いの近況を話すと自然と話題になるのは、それぞれの彼のことで。


「…最近、とても自分が狭量に思えてならないの」

「狭量?美咲が?」


 不思議そうに聞き返した菜緒に、美咲様は真剣な表情で頷く。

 美咲様が狭量?そんな事ないと思うけどなぁ。むしろ美咲様は広量だと思うけど。美咲様ほど器の大きい人こそ滅多にお目にかかれないと思うんだ。


「昴が他の女の子と話しているのが嫌で…つい、邪魔をしてしまうの。昴は私が昴以外の男性と話していてもそんな事しないのに…私はこんなに独占欲の強い女だったのかしらっていつも自己嫌悪に陥るの」


 そう言って悔やむように顔を俯かせた美咲様に、私はツッコミを堪えるのに必死だった。

 あのね、美咲様。それ、ヤツの確信犯ですからね?

 そうやって嫉妬する美咲様が可愛くて、ついついやってしまうんだとペロっと吐いたヤツの顔が思い浮かぶ。それも幸せ全開オーラを漂わせたとても良い笑顔で。

 そもそも、美咲様はヤツが邪魔をしないとか言っているけど、美咲様に下心を持って話しかけた人は、美咲様がやっていることがとても微笑ましいと思えるほど凄惨な目に遭っているからね?他ならぬヤツの手によって。

 「美咲に下心を持って近づくなんて、もう殺してくださいって自ら言っているようなものだよね。きっと彼らは自殺願望者なんだ」と爽やかな笑顔で黒い言葉を吐いたヤツの顔がありありと浮かんだ。

 美咲様に下心を持って近づいた方々は、その後、げっそりとした顔をしているか、姿を消すかのどちらかだという…こわ!ヤツは裏で何をやっているんだよ…怖くて聞けないけどね!


「やだ、美咲ったら可愛い。そんなの誰でも同じだって。そうしちゃうってことは美咲がそれだけ東條くんのことが好きってことなんでしょ?むしろ、東條くんは喜んでるんじゃないかなぁ?」

「そう…かしら…」


 少し期待した表情で言う美咲様に、菜緒が全力で「絶対そうだって!」と頷いて励ます。

 私もその隣で全力で頷く。

 だって実際そうだし。菜緒の言ってることまんまだし。どちらかと言えば菜緒の観察眼の鋭さに震えたね、私は。


「でも、美咲の気持ちもわかるよ。朝斐さんは独占欲が強い方じゃないから、いつも私ばかりって思うもん」

「まあ、菜緒も?」


 意外そうに美咲様が目を見開く。

 菜緒は照れ臭そうに頷く。


「あまり出さないようにはしてるんだけどね。こう、あまりにもあからさまにやられると…つい、ね?」

「まあ…」

「だけど、朝斐さんは私がどんなに馴れ馴れしく男に話しかけられても、私が困ってない限りは割り込んで来ないの。だから、私ばっかり好きなのかもって思っちゃう」

「朝斐さんは菜緒の事を信頼してるのよ。それに、自信があるの。菜緒が自分を好きだから、他の男に靡くことはないって」

「ふふ…確かに、朝斐様はそんな感じね」

「うーん…分かってるんだけどね…でもやっぱり私ばっかりって思っちゃうんだ」


 そう言ってはにかむ菜緒はとても綺麗で、恋って人を綺麗にするんだなぁと、二人を見るたびに実感する。

 私も周りからこんな風に見えているのかな。


「凛花のとこ…蓮見くんもあまり独占欲とか無さそうだよね」

「そうね…奏祐もあっさりとしていそう」

「どっちかと言うと、凛花が好き好き!って攻めてる感じ?」

「そうね、そんな感じがするわ」

「あ、あはは…」


 私は笑って誤魔化そうとした。

 周りからはそう見えているんだなあ。私の方が好き、みたいな。


「で、実際はどうなの?」

「えー…いいじゃない、そんなこと…」

「良くない!私と美咲が話したんだから、凛花も話さないとフェアじゃないでしょ」


 えー…それって二人が勝手に話し出しただけじゃない…。

 そう言おうとしたけど、美咲様も期待した目で私を見ているので、言えない。

 美咲様の悲しそうな顔は見たくない…だから、私も話すことに決めた。


「ええっと…奏祐さんは、どちらかと言えば独占欲が強い方だと思うわ」

「ええ!?蓮見くんが?!」

「まあ…そうなの。少し意外ね」


 驚く二人に私は曖昧な笑みを浮かべる。

 蓮見はクールだから。滅多に表情も変えないし、そう思うのも無理はないのかもしれない。


「でも…きっとそれは奏祐の甘えね」

「甘え…?」

「奏祐は私たちには絶対そんなあからさまな態度を取らないわ。奏祐は、そういうのが不器用だから。あまり自分の感情を人に押し付けたりしない…なのに凛花にそうして態度に表すってことは、凛花ならそうしても許してくれるって甘えているのよ」

「そうなのかしら…」

「絶対にそう。幼馴染みの私が言うんだもの、間違いないわ。私たちにもさせてあげれなかったことを、凛花は奏祐にさせてあげれている。それだけ奏祐は凛花のことを信頼しているってことよ」


 幼馴染みとしては、少し寂しいけれど、と美咲様はからかうように笑みを浮かべて言った。

 その言葉に、私は目を見開いた。

 その発想は、なかった。むしろ、私は信頼されてないんじゃないかって、不安だった。

 だけど、美咲様の言う通りだとしたら。

 私が美咲様を見ると、美咲様は自信たっぷりに頷いた。そんな美咲様に、私は勇気づけられた。


「ありがとう」

「お礼を言われるようなことはしてないわ」


 そう美咲様が返したあと、菜緒がぽつりと、「みんな幸せってことね」と呟いた。

 まったくもって、菜緒の言う通りだと思う。





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