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そうだ、ケーキを食べに行こう!

高2に一学期のお話です。

凛花視点です。



 一学期の期末テストを目前に控えたある日、私は追い詰められていた。


「神楽木さん、ちょっと付き合ってくれないかな」

「なぜ私が……」


 目の前にいるのは私がもっとも避けたい相手である、東條昴こと王子だ。

 王子はにこにこと笑顔で私の前方を塞いでいる。


「ほら、勉強していると糖分が取りたくなるでしょ?だから一緒にケーキを食べに行かない?」

「糖分が欲しくなることには同感ですが、東條様と一緒にケーキを食べに行く理由とはならないかと思います。他を当たってください」


 これでも私、忙しいんです。

 そう言い逃げをしようとした時、背後に人の気配を感じて振り返ると、そこには──。


「私からもお願いよ、凛花さん。私たちの気分転換に付き合ってくれないかしら……?」

「み、美咲さん……!」


 美咲様は上目遣いで私を見つめ、そうお願いをしてきた。

 くう……!なんて破壊力!上目遣いは反則です、レッドカード退場です!!なにがって私のハートがだよ!!


「美咲さんのためなら喜んでー!」


 美咲様の上目遣いにコロリとやられた私は、気付けばそう答えていた。

 ハッとしたが時もうすでに遅し。美咲さんは嬉しそうに顔を綻ばせて「まあ、ありがとう」とお礼を言い、王子は少し顔を引き攣らせていた。……なんだね、王子。文句は受け付けないぞ。


 王子と美咲様に挟まれながら、王子の家の車がある場所まで歩く。気分はさながら警察に逮捕をされた容疑者。隣に美咲様がいることだけが救いだ。

 二人はニコニコのほほん、とケーキの話に花を咲かせている。

 ああ、和む……二人の間に私が挟まっているのが余分だけどな!出来ることなら二人の少し後ろから観察をしたい……。


 笑顔の二人に押し込められるように車に乗ると、そこにはなぜか蓮見の姿があった。

 蓮見は一瞬驚いた顔をしたあと、同情した目で見てきて、私は察した。

 ──ああ、蓮見も私と同じ状況なのだな、と……。


 美咲様と王子が車に乗り込むと発車した。

 目的地に到着するまでの間、私は美咲様と王子のいちゃいちゃした姿ににやにやし、蓮見が何か言いたそうな顔をして私を見ていても華麗にスルーし、王子にあれこれ話しかけられても「まあ」「そうなんですか」「素敵だと思います」の3つの台詞を使い回してスルーしたり、美咲様とお喋りを楽しんだりと忙しかった。


 気付けばあっという間に目的地であるケーキ屋さんの前にいて、私は美咲様の魅力にひきつけられ、ふらふらと美咲様のあとに続いていたらいつの間にか席に座っていた。

 そして、桜丘学園の有名人である三人に囲まれながらケーキを食べるという、まったくもってよくわからない状況に私は陥った。

 だけど、美咲様はがすごく楽しそうだからいいんだ。意味がわからなくても、美咲様が幸せならそれでいいんだ。美咲様に喜んで貰えるのなら、不可解な状況だって気にしないんだ。


「ここのケーキはいつ食べても絶品ね」


 頬を緩めて幸せそうに美咲様が食べているのはショートケーキ。ここに通う人は大体ショートケーキを頼むらしい。私も美咲様に勧められてショートケーキを頼んだ。

 これがまあ、すごく美味しい。バニラの味がふんわりとするホイップに、ふわふわのスポンジ。上と中に挟まれているいちごは少し甘酸っぱくて、それがクリームの甘さと相殺されてほどよい。うーん、美味しい!


「やっぱりここの店に来たらショートケーキだよね」


 そう言いながら王子も幸せそうにショートケーキを頬張る。

 ……うん、それは別にいいんだけどね。問題なのは、王子の目の前には数種類のケーキがずらりと並んでいることだ。

 これ、全部食べる気なの?胃もたれするのに?というかもうすぐテストだけど大丈夫なの?


「昴……食べるなとは言わないけど、ほどほどにしときなよ」

「わかっているから、心配しなくても大丈夫だよ、奏祐」


 本当かよ、と疑わしげに王子を見つめる蓮見に私も同感です。

 蓮見は頼んだレアチーズケーキを諦めた顔をして、無心で食べ始めた。気持ちはお察し致します。


「昴。あまり奏祐に迷惑をかけてはだめよ」

「わかっているって。僕ってそんなに信用ない?」


 そう問いかけた王子に美咲様と蓮見は揃って頷き、王子は大袈裟に傷ついた顔をして、私を見た。


「ねえ、神楽木さん。二人とも酷いと思わない?」


 いえ別に、と私が答える前に王子は「いつもこうして僕を苛めるんだよ」と喋り出す。……ねえ、私に問いかけた意味は……?

 ぶつぶつと幼馴染み二人への文句を言い出した王子に、美咲様と蓮見は息ぴったりに王子を言いくるめ、王子は不貞腐れた顔をして拗ねてしまう。


 ……本当に仲良いなあ、この三人。

 三人の様子が微笑ましくて、思わずくすくすと笑い出すと、三人揃って訝しそうに私を見つめた。


「……なに笑ってるの?」

「いえ……ただ、三人は本当に仲良しだなあ、と思っただけですわ」


 正直な気持ちを告げると、三人は顔を見合わせて困った顔をする。その表情がこれまたそっくりで、私はさらに笑ってしまう。

 うん、テスト前のいい気分転換になったな。これは美咲様と王子にお礼を言わねばならない。


「誘ってくださってありがとうございます」


 とお礼を言うと、二人は長年寄り添った夫婦かのような同じ笑みを浮かべて「どういたしまして」と答えた。

 そんな二人に私が興奮したのは、言うまでもないことだと思う。

 蓮見が呆れた顔をして私を見てたのは、気付かないふりをしておいた。


 その後、王子が「胃が…胃が痛い…!」と騒ぎ出し、そんな王子を蓮見が「だから言ったのに」という恨みがましい顔をしつつ介抱していた。

 美咲様も困ったような顔をして「いつもこんな感じなの」と苦笑を漏らした。


 「痛い、痛い!」と一人で騒ぐ王子に、なるほど、この二人はいつもこんな大変な目に遭っているのだな、と現実逃避をするように思った。

 学園の人気者の幼馴染みというのも、大変らしい。

 つくづく、私の幼馴染みは普通の人で良かった、と心から思ったのだった。



凛花の幼馴染みが普通…?という突っ込んでいただけたらと!

菜緒はともかく、カイトは普通じゃないと思います(笑)



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