リベンジ
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これは高3の3学期か高校を卒業してすぐくらいの話です。
私は姿見の前に立っていた。
鏡に映る自分に、私はにっこりと微笑みかける。
鏡越しに微笑む自分の姿に満足して、私がくるりと姿見に背を向けた時、ノックの音が聞こえた。
「姉さん?ちょっと入ってもいい?」
「ゆ、悠斗!?」
扉越しに聞こえた弟の声に、私は慌てた。
なんてタイミングだ!
「姉さん?」
「ちょ、ちょっと待っ……きゃあ!」
慌てていたせいで私は床に落ちていた丸い物を踏み、無様にお尻からずてんと転んだ。
いったぁーい!もう、なんなの!
私は八つ当たりするように床に落ちていたものを見ると、それは私が愛用している化粧水が入っていた空の瓶だった。
……そうだ。あとで片付けようと思って、とりあえず床に置いたんだった。つまり転んだのは自業自得……うん、まあ、そういうときもあるよね。
なんて、言い訳をしているうちに私を心配したらしい弟が「姉さん、入るよ」と言って入って来た。
待って、という前にドアが開いた。
「姉さん、なにがあ…………」
「……」
弟は私の姿を見て固まった。
目をまん丸くして、ぽかんと口を開けている。
うん……言いたいことはわかるよ、弟よ。
「……なにしてんの、姉さん……」
「……リベンジ」
「は?」
「文化祭のリベンジをしようと思って……」
あはっ!と笑って誤魔化してみるが、弟の目が段々と呆れたものに変わっていって、居た堪れない。
だって、悔しかったんだもの……。文化祭で私が来たチャイナドレスは、母のサイズに合わせたものだった。そのため、サイズが合わなくてちょっと不格好になってしまった。
だから、今度は私のサイズに合わせたものをこっそり作り、一人で着て自己満足して終わりにしようと思っていたのだけど、どうやらその目論見は失敗してしまったらしい。
「……そんな理由でその格好を……あんなに嫌がっていたくせに」
呆れたように弟は言った。最後の台詞は小声で言っていたが、きちんと私の耳に届いた。
い、嫌だったけど、それとこれとは別なんだって!私にだって女としてのプライドというものが一応存在してだな……!
と、心の中では反論するが、口には出さない。だって、心の底から呆れた顔をされるのが目に浮かぶんですもの!弟にそんな顔されたらしばらく立ち直れないよ!
「髪どころか化粧までしっかりしているし……実は姉さん、ノリノリだったんじゃないの?」
「ナ、ナンノコトカナー」
私が明後日の方を向いて惚けて見せるが、弟にはお見通しらしく、ため息をつかれた。
うう……なんと情けない……。
私の姉としての威厳はどこかに旅出てしまったようだ。
え?前からだって?それは気のせいだよ!……そういうことにしておいて。
「……俺の存在を忘れていないか?」
「あ!」
「へ……?」
不意に響いた第三者の声に私がぽかんとすると、弟がしまった!というように声を出し、申し訳なさそうな顔をして、声の主に謝った。
「すみません、飛鳥さん……折角来ていただいたのに」
「いや、それは別に構わないが……なんというか。変な時に来てしまったようだな」
苦笑を浮かべたその人は私を見ると、爽やかな笑顔を浮かべた。
「お邪魔しているぞ、神楽木」
「あああああ飛鳥くん!?」
なぜ飛鳥がここに!?というか、なんてタイミングなの!?
「ちょっと生徒会のことで飛鳥さんに相談したいことがあって、オレが呼んだんだ。ちょうど姉さんも家にいるし、姉さんにも声を掛けようと思って」
「そ、そうだったの……」
弟の説明に納得するものの、やはりタイミングが悪いと言わざるをえない。
よりによって、どうしてこんな格好をしている時に……!
誰にも見られたくなかったのにー!
「……飛鳥くん」
「あ、ああ……なんだ?」
飛鳥は若干私から視線を逸らしながら答える。
きっと気まずいんだろう。私は飛鳥以上に気まずいけどね!
「このことはどうか内密で、お願いします。誰にも絶対口外しないよう」
「わ、わかった……」
しっかりと頷いた飛鳥に私は満足する。
飛鳥は口が堅いし、きっと誰にも話さないだろう。あの元ヘタレや蓮見に話されたら、片方にはからかわれ、片方には呆れた目をされること間違いなしだからね!そんな羞恥プレイはごめんだ。
美咲様だったらまだいいかなぁ。でも見たいと言われそう……うん、美咲様に見たいと言われたら断れない自信があるので、美咲様に言うのもやめて貰おう。
私は二人を部屋から追い出し、普段着に着替えると何事もなかったかのように挨拶をした。
弟と飛鳥からの何とも言えない視線なんて、知らない!
そして私は心に誓ったのだ。
──もう二度と、コスプレなんてするものか!と。




