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もうすぐ体育祭だ。
桜丘学園にも体育祭がある。
私は運動は残念すぎるくらいできないので、あまりクラスの足を引っ張らない玉入れに参加する。
あとはクラス全員でやる大縄跳びと綱引きのみだ。
競技にはあまり参加しないかわりに、実行委員を引き受けた。
実行委員は体育祭の本番前からいろいろな雑用で忙しい。打ち合わせだとか、競技の名簿の作成だとか、当日の役割分担を決めたりだとか。
実行委員のメンバーに知っている顔を見かけたが、私は知らんぷりをした。
仕事に追われているうちにあっという間に本番の日を迎えた。
私の当日の役割分担は、記録係だ。
言われた通りに記録用紙に書き込んでいく、簡単だが重要な役目だ。私は間違えないよう、正確にかつ迅速に書き込んでいく。
書き終わった記録用紙を渡しに本部テントに行く。そこでなぜか私は点数の計算を任された。なぜだ。
私は目立たないように本部の裏側の木陰で電卓を片手に計算をする。私はうんうん唸りながら点数を書き込む。
なんだか不審な目で周りから見られている気がする。
いやでも気にしないのだ。私は目立ちたくないのだ。
そうしてひっそりと計算を続けていると、蓮見が通りかかった。
電卓を片手に頭を抱えている私を一瞥すると、フッと笑ってそのまま通り過ぎた。
なんなんだ、あいつ。いちいち腹立つな。
私の役目がすべて終わり、最後はクラス別の選抜リレーだ。
これが毎年1番盛り上がるらしい。
運動音痴な私には関係のない競技だが、興味はある。
お友達と一緒にリレーを見守る。
選抜リレーは男女混合のリレーだ。
だが、男子の番は偶数、女子の番は奇数の順番と決まっている。
男子ばっかの順番に女子が混ざったら、それは女子の方が不利だからね。公平に、とのことらしい。
今年の選抜リレーの注目選手は、王子と蓮見らしい。
彼らは中学部時代からアンカーで1、2を争い、大変白熱したバトルを繰り広げていたみたいだ。
いや、王子はともかく蓮見にそんな一面があるとは思えないんだけど。
選抜リレーが始まる。選抜リレーでは、陸上部の顧問が放送係からマイクを奪い、実況解説をし始めた。教師がなにやってんだ。どんだけ力入れてるんだ。
そんな実況なんてまったく聞かずに、私達はリレーを見守る。
私のクラスも大分健闘しているようだ。その調子でがんばれ。
みんながリレーを見守る中、1年生の間では王子と蓮見がどちらが勝つかで盛り上がっている。
1年女子の間では王子派と蓮見派で小さいバトルが勃発していた。
「今年も絶対東條様が勝つわ」
「なにをおっしゃっているの。今年は蓮見様が勝つに決まってるでしょう」
「まぁ、貴女、見る目がないんじゃなくて?」
「貴女こそ、目が悪いんじゃなくて?病院に行った方がいいんじゃないかしら」
女同士の争い怖い。巻き込まれないように私はさっと避難した。
正直、私はどっちが勝ってくれても構わない。
私には関係のないことだから。
関係の……ない?
あれ?なんか私、忘れている気がする……なんだろう。
なにか重要なことがあったような……?
私が悩んでいる間に、リレーはアンカーにバトンが回った。
今のところ、王子と蓮見のクラスが同列1位だ。
王子と蓮見にほぼ同時にバトンが渡された。
と、思ったが、蓮見のクラスの子が蓮見にバトンを渡すのを失敗したようで、バトンを落としてしまった。
バトンを落とした子は遠目に見てもわかるくらい動揺していた。
バトンを拾っている間に、蓮見はどんどん抜かされ、5位まで落ちた。
蓮見は冷静な顔で、励ますようにバトンを落としてしまった子の肩を叩き、走り出す。
そこから速かった。
蓮見はぐんぐん抜かしていき、とうとう王子に追い付いた。
アンカーは走る距離が他の選手よりも長い。だからこそ追い付けたのだろう。
ゴールまであと50メートルくらい。
私はどきどきして2人の勝負の行方を見守った。
勝負に勝ったのは、蓮見だった。
本当に全力で走ったのだろう。いつも余裕ぶっこいているのに、今は息を乱して座り込んでいる。
そんな蓮見にバトンを落としてしまった子が近づいていった。たぶん、謝っているのだろう。蓮見は首を横に振っている。気にするな、と言うことだろう。サービスで笑顔まで見せたっぽい。バトンを落としてしまった子の首から上が真っ赤になっている。
ああ、蓮見信者はこうして増えていくのか。騙されるな、そいつが良いのは顔だけで性格は悪いぞ。
そんな蓮見に王子が近づいていって、手を差し出した。
蓮見もその手を取り、立ち上がった。
2人はなにか喋っているようだ。
たぶん、次は負けないとかそんな内容だろう。
あちらこちらから拍手の音が聞こえ、次第にグラウンド全体で拍手の嵐が沸き起こった。
周りを見れば、王子派も蓮見派も手を取り合い泣いている。ついさっきまで喧嘩してたのに。2人が仲良くしているのに感動したんだろうか。信者心理はよくわからない。
しかし、本当に選抜リレーは白熱していた。
私までうっかり真剣に魅入ってしまった。
うん、王子も蓮見も頑張ったよ。
私もみんなに混ざってひっそりと拍手を送った。
こうして無事に体育祭が終わった。
漫画では体育祭にあまり触れなかったから、どんな結果になるのかわからなかった分楽しめた。
表彰式が行われ、今年の総合優勝は王子のクラスだった。クラス代表で王子が優勝旗を受け取った。それがまた腹立たしいくらい似合うのだ。もうさすがとしか言いようがない。
最後に今年の体育祭で1番活躍した生徒、MVPとして、やっぱりというか、蓮見が表彰された。
そりゃあね、リレーであれだけ目立てばね……。
蓮見は大して嬉しそうでもなく、いつも通りの無愛想で賞状を受け取った。
あー、終わった。あとは片付けをして帰るだけだ。
私は自分の片付け担当の場所に行き片付けを手伝う。
そうしている間にも、なにかを忘れているような気がしてならなかったが、気のせいと思うことにした。だって、思い出せないから。
片付けも終わり、さて帰ろうと回れ右をしたとき、知った顔と遭遇してしまった。
「神楽木」
「飛鳥くん……なにかしら」
彼、飛鳥冬磨は漫画の中で生徒会長になる予定のキャラクターだ。
真面目で紳士。爽やかでイケメン。王子とは違ったカリスマ性を持つ人物として漫画では描かれていた。王子は女子に人気が高い印象だが、飛鳥は男女共に慕われている印象が強い。
そんな彼も残念なことに、凛花に惚れてしまう。そして王子の当て馬役となる宿命を背負っている可哀想な人なのだ。
しかし、飛鳥は王子と違って凛花に一目惚れするわけじゃなく、凛花と接触するうちに凛花を好きになってしまう設定なので、彼は絶対に会っちゃいけない人物でないのが救いだ。
私に惚れさせなきゃいいのだ。飛鳥が凛花を好きになったのは、凛花の弱い面を見て守ってあげたいと思うようになったから。私と凛花は性格が違うし、私は凛花と違って人に弱いところを見られるのがきらいだ。だから、きっと大丈夫だろう。
大丈夫だとは思うが念には念を、ということであまり接触しないようにしてきた。
しかしまさか体育祭の実行委員で一緒になるとは思わなかった。
「忘れてないか?君はMVPのインタビューを聞く係になっていただろう?インタビューはしてきたのか?」
あ。
私はうっかり表情に出してしまった。
そんな私の顔を見て飛鳥は苦笑した。
「やっぱりな。君はしっかりしていそうで、抜けている」
「ごめんなさい。期限はいつまででしたかしら」
「来週の月曜日までだ。それまでには聞いておいてくれよ」
「わかりました」
私はしっかりうなずくと、飛鳥は頼んだぞ、と言って立ち去った。
ああ、なんか忘れているような気がしたのはこれか。
選抜リレーで1位だったクラスのアンカーが大抵MVPに選ばれると聞いていたのだ。
よかった、蓮見が勝って。王子だったら、私、どうしてたんだろ……?なんでこんな係引き受けちゃったんだろう、私。
しかし、蓮見はちゃんとインタビュー答えてくれるかなあ。
ちょっと不安である。
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