あなたに首ったけ
またもやお久しぶりです。人気投票第一位の二人、蓮見&凛花の話です。
大変長くお待たせいたしました!
蓮見さん21歳くらいの時の話…だと思って頂けたら。
凛花視点からの蓮見視点です。糖分高めでお送りします!
読んだ方が砂糖を吐きますように!(笑)
その日、私は美咲様とショッピングをしたあと、二人でディナーを楽しんだ。そして美咲様とお別れをし、タクシーを拾おうとしたところで、電話がかかって来た。
電話の相手の名前は『東條 昴』。彼から電話がかかってくるのは珍しい、と思いながら電話に出る。美咲様に何か用でもあるのだろうか。きっと今日私と一緒にいることは伝えてあるだろうから、それで電話をしたのだろうか。それなら残念でしたー!って笑ってあげよう。
「はい、神楽木です」
『あ、神楽木さん?遅くにごめんね。今、大丈夫?』
「ええ、大丈夫です」
『今、美咲と一緒にいるのかな』
「いえ、美咲とは先ほど別れたばかりですが…」
やっぱり美咲様に用だったのだろうか。
これは残念でしたー!って笑ってあげるチャンス!?
廻って来たチャンスに私が少し興奮していると、東條は安心したように『そっか』と呟いた。それに私はあれっ?と拍子抜けをする。
美咲様に用じゃなかったのだろうか。じゃあ、いったいヤツは何の用で私に電話を…?
『それなら丁度良かった。今からちょっとこっちに来てくれない?』
「え?」
『神楽木さんにしか頼めないことなんだ』
私にしか頼めないこと?それっていったい…?
『実は……――――』
私は東條が話したことに目を見開き驚いたあと、すぐにそっちへ行くと返答をしてすぐにタクシーを拾って乗り込んだ。
目的地に着くと、東條が申し訳なそうな顔をして私を出迎えた。
「突然ごめんね、神楽木さん」
「いいえ…それよりも、詳しい説明をお願いします」
「うん、そうだね。とりあえず中に入って、見て貰った方はわかると思うから」
「はい」
私は東條に促されるまま、中へ足を踏み入れる。
そこで見たものは―――
「ほ、本当に潰れてる…」
「僕の言った通りでしょ?いやあ、参ったね。奏祐がこんな風になることなんてなかったから…」
「そんなにお酒飲んだんですか?」
「んー…まあ、それなりに?」
それなりってどれくらいだ。
そんな私の視線に東條はははっと笑い、誤魔化す。笑ったくらいで誤魔化されると思うなよ!人の彼氏に何してくれんだ!!
キッと私が睨むと東條は「ごめん、ごめんって」と急いで謝る。だけどその謝罪に誠意は見えない。謝るのなら誠意を見せろ。
とにもかくにも蓮見をどうにかしないといけない。
今の現状、蓮見は床の上にごろんと寝転がって、左手を顔に当てて仰向けで寝ている状態です。そろそろ夜も冷えてきたから、何か掛けないと風邪を引いてしまうだろう。
「ごめん、神楽木さん。電話でも言ったけど、明日は遠出をしないといけない予定があって、あまりのんびり出来ないんだ。だから奏祐のことを頼んでもいいかな?」
「……仕方ありませんわね。奏祐さんをここまでしてしまった責任は取って頂きたいですけれど…予定があるのなら仕方ありませんわ」
「本当にごめん。このお詫びは改めてするから。じゃあ、奏祐のこと頼んだよ」
そう言って東條は慌ただしく蓮見のマンションから去っていった。
この詫びは高くつくからな、覚悟して置けよ!
…とは言えないので心の中で念じておく。東條に届け~!
そう東條に念を送ったところで、私は改めて寝転がっている蓮見を見つめた。
相当弱っているみたい。蓮見がお酒に弱いという話は聞いたことがなかったけれど…むしろ強い部類に入るんじゃなかったかな。私?私は下戸の部類ですがなにか?カシスオレンジ飲むだけで顔が赤くなるようなレベルですが?
とにかく、このままでいるのは良くない。蓮見を起こさなきゃ。あ、その前にお水飲ませた方がいいのかな…お水を飲むとアルコールの分解が早くなるって聞いたことがある気がする。
私は勝手知ったる様で蓮見の家のキッチンに入り、冷蔵庫からミネラルウォーターの入った500mlのペットボトルを取り出して蓮見のもとへ行く。
蓮見のすぐ近くに座ると、蓮見を揺さぶる。
「奏祐さん、奏祐さん」
「……ん…」
うおっ!?なんて色っぽい声…!ちょ、ちょっとドキドキしてきちゃった…。
いや落ち着け、落ち着くんだ凛花。彼は病人。彼は病人なのだ。聖母マリアのような慈しみの心をもって彼に接するのだ…大丈夫、凛花はやればできる子…!
そう自分を叱咤し、もう一度蓮見を揺さぶる。
「奏祐さん」
「……ん?り、んか……?」
「はい、私です」
「な、んできみが…ここに……?」
いつもよりも掠れてダルそうな声。それがとても色っぽくて…。
ああ、私ダメかもしれない…聖母マリアのような慈しみの心だけで接するのは無理だ…。
そう思いながらも、顔には出さないように必死に慈愛に満ちた笑顔を作る。上手く作れているといいんだけど…。
「東條様に呼ばれまして。奏祐さんを介抱してほしいと」
「……そう…」
何か言う気力もないのか、蓮見はそう答えて黙り込む。
これは相当参っているな。そう思えば、邪な私が消えて、蓮見を介抱してあげなきゃ、という母性本能がむくむくと顔を出す。
「奏祐さん、ここだと風邪を引いてしまいますから、ベッドに行きましょう?あ、その前にお水を飲みましょうか」
「ん……」
蓮見は私にされるがままだ。うーん、相当酔っているんだなあ。
でもこれはこれで可愛いかも。普段は余裕ですって顔して嫌味を言う大人びた蓮見だけど、こうして私の言うことをちゃんと聞いてくれる蓮見は普段よりも年下に見えて可愛い。母性本能がくすぐられる。
ごくごくと蓮見が水を飲み、少し零れてしまった水を手で拭う。そんな仕草ひとつひとつが大変色っぽいんですが、お酒の力ですか?
やだなあ、私肉食系女子じゃないのに……このまま蓮見と一緒にいたら襲っちゃいそうだ。自重しろ、私!
「奏祐さん、ベッドに行きましょう。私が支えていますから」
そう言って蓮見を起こし、立つのを手伝う。
細身だけど蓮見もやっぱり男の人なわけで、蓮見を支えるのがものすごく大変だった。もう意地と気合と根性で支えています。明日筋肉痛にならないといいな…。
なんとか蓮見をベッドまで運び終えると、私はふうと息を吐いてヘロヘロと座り込んだ。重労働でした。人ひとり運ぶのを手伝うだけでこんなに疲れるとは…自分の体力のなさを痛感する。
それでもなんとか立ち上がり、何もかけないでベッドに寝転んでいる蓮見に布団をかける。ちょっと熱いのかな、汗をかいている。お酒飲むと体温上がるもんねえ、それでかな。
汗を拭ってあげようと、タオルを取りに行く。ついでにお水も持ってこよう。起きた時にすぐ飲めた方がいいもんね。
持ってきたタオルで蓮見の汗を拭ってあげる。うんうん、なんか介抱してあげてるって感じがする!そんな自分に自己満足をした後、携帯で時間を確認するともうすぐ午前様になる時間帯だった。いけない!家に連絡しないと!
お父様や弟に連絡すると鬼電がかかってきそうだから、ここはお母様に連絡をしよう。そう思って部屋から出ようとすると、くいっと何かに引っ張られて進めなくなった。
「…どこ行くの?」
「え…?あ、ちょっと家に連絡をしに…もう遅いので連絡だけでも…」
「だめ」
「え?」
「…俺から離れちゃ、だめ」
「え……」
え、ええええ!?
ちょっと、なにこの可愛い生き物!?ちょっと潤んだ目で上目遣いで言うなんて反則じゃないか!?
これ本当に蓮見なの!?ねえ、あなた蓮見奏祐さんですよね!?まさかの偽物!?
ぱくぱくと口を動かして言葉を失っていると、私の視界が揺れた。そして気付いた時には蓮見の顔が目の前にあって、私は蓮見に抱きしめられたままベッドの上に寝転んでいた。
「あ、あああああの!奏祐さん……!?」
「離さないから。俺の傍に居て」
「い、居ます、居ますから、家に連絡だけでも…!んんっ!?」
強引に唇を塞がれる。その時に香る、アルコール独特の匂い。普段の蓮見からは絶対にしない匂いだ。
何度も何度もキスを繰り返し、解放された時にはすっかり私の息は上がっていた。
なにこの蓮見…。デレすぎでしょう。お酒の力って本当に偉大だ…あまりデレない蓮見のデレがオープンされてるんだもん…。
「そ、奏祐、さんっ…あまり、無茶すると……」
酔いが余計に回っちゃいますよ、と言う前に蓮見はくたっとベッドに倒れ込んだ。
ああ、だから言ったのに…。
「…気持ち悪い」
「飲み過ぎですわ。今度から飲む量にはお気をつけてくださいね?」
「……わかった」
素直に頷く蓮見の頭を撫でる。すると蓮見は気持ちよさそうに目を細めた。
まるで猫みたい。そんな蓮見が可愛くて、思わず微笑む。
「…凛花」
「なんですか?」
「……俺の傍にいて」
「ええ、勿論ですわ。ずっと、傍にいます」
だから、ゆっくり眠ってください―――
そう言って蓮見の額にキスをすると、蓮見は安心したように微笑む。そのあどけない笑顔にどきっとしたのは言うまでもない。
そして少しして蓮見から寝息が聞こえた。
蓮見ってお酒飲むとこんな風になるんだなあ、初めて知った。こんな蓮見も可愛いな、と思ってしまう私は相当蓮見にやられているに違いない。
さてと、いつまでもこうしているわけにもいかないし、そろそろ起きよう。
そう思って体を起こそうとしたのだけど、なぜか体は動かない。
いったいなぜ!?と焦ったところで、私は蓮見にがっしりと抱きしめらていることに気付く。
え、まさか、私動けない!?せっかく眠った蓮見を起こすのも可哀想だ。だけど蓮見を起こさないと私が動けない…家にも連絡をしていないし…どうしよう?
困って蓮見の顔を見ると、子供みたいな寝顔を浮かべて眠っていた。それを見たらなんだかいろいろなことがどうでもよくなってきて、まあいいか、と思った。
蓮見が目を覚ましてから考えればいい。それまで私も少し眠ろう。蓮見を運ぶという重労働をしたせいか、とても眠い。
私はそのまま目を瞑ると、すぐに眠りにつくことが出来た。
*
朝、目が覚めると彼女の顔が目の前にあった。
いったいどうして…と考えたところで、昨夜の記憶が蘇る。
そうだ、俺は昴たちと飲んでいて、水と騙されて日本酒を飲まされた。その前でも相当飲んでいた上に一気に飲んだせいで、酔いが一気に回ってしまった。
そこまでは覚えている。その後、どうしたのかが記憶からすっかり抜けている。凛花に介抱して貰ったような気がしなくもない…というか、してもらったのだろう。彼女が目の前にこうして眠っているのがなによりの証拠だ。
俺は素早く服を身に着けていることを確認する。どうやら酔った勢いで…という事態には陥っていないようだ。良かった、と心から安堵する。
とりあえず、この状況はどうしたものかと悩んでいると、「……ん…」と凛花が目覚めた。そして俺と目が合うと、ふわっと笑う。
「おはようございます、奏祐さん」
「…おはよう」
「お加減はいかがですか?」
「もう大丈夫。ごめん、昨日は迷惑をかけたみたいだ」
「いいえ。とてもいいものを見せて頂きました」
にこにこと凛花は笑って言う。
しかし俺はいいもの…?と眉を寄せる。
「俺、なんかした?」
「……秘密です」
「ということは、何かしたんだろう?」
「ですから、秘密ですわ」
「…凛花」
「教えません」
断固として秘密だという彼女に、俺はいったい何をしたのかが気になって仕方ない。
どうすれば彼女から聞き出せるだろうか、と考えて、俺はニヤリとした笑みを浮かべる。
その笑みに何かを感じ取ったのか、凛花がぶるりと震える。
「どうしても言う気はないと?」
「え…いえ、その…」
「そう、なら俺にも考えがある」
「か、考え…?」
恐る恐るという風に聞き返した凛花に俺はにっこりと微笑む。
「いろいろ方法はあるんだけど、どれがいい?」
「ど、どれ…?」
「一番手っ取り早いのは、体に聞くことかな」
「え」
「君の弱いところを責めて責めて、吐かせる、とか」
「え…?え…?」
「ああ…今から一緒に風呂に入るのもいいかな。汗で少し気持ち悪いし、その間に君から聞き出すことも出来そうだし、一石二鳥かな」
「え、ええ…?」
「あとは…そうだな。もう君にお菓子を作るのをやめるとか」
「ええっ!?」
「他にも…」
「いやあああ!!もうやめてぇ!!!」
耐えられなくなったのか、凛花が悲鳴を上げる。
それに俺はにこっと笑みを浮かべる。
「じゃあ、教えて?」
「う……」
否を言わせない笑みを浮かべて言うと、凛花は視線を彷徨わせたあと、がっくりと肩を落とした。どうやら観念したらしい。
小声で俺の昨晩の痴態を告げ、俺は聞くんじゃなかった…と後悔した。俺は少し頭を抱えて項垂れたあと、凛花を睨む。
「忘れて」
「え?」
「昨晩の事は忘れるんだ。わかった?」
「え…そんな、無理です…」
「凛花」
「そ、そんなに凄んでみせたって忘れませんから!だって昨晩の奏祐さん、とっても可愛かったんですもの!忘れたくなんてありませんわ!」
「……可愛いって言われても嬉しくない」
「私は嬉しかったですよ?奏祐さんに子供みたいに甘えられて。……いつも私が甘えてばかりですし…」
ぼそっと言った凛花の一言に俺は目を見開く。
彼女に甘えて欲しいと思うのは男なら当然のことだし、甘えられて嬉しくない男がいるんだろうか。
「だから、たまには私に甘えてくれていいんですよ…?」
恥ずかしそうに言った凛花に、やられた、と思った。そしていろいろなものが弾け飛んだのを感じる。
「…じゃあ、今から甘えようかな」
「え?」
俺が凛花に覆いかぶさると、凛花は顔を真っ赤にした。
「そ、奏祐さん…今、朝ですよ…?」
「知っている。甘えるのはいつでもいいんだろ?」
「え、そ、それはそうですけど…!あ、そう!私まだお風呂に入ってないので…!」
「俺も入っていない。丁度いいから一緒に入ろうか」
「な、なんでそうなるんですか…!」
顔を真っ赤にして抗議する凛花に「…嫌なの?」と問いかければ、凛花は押し黙った。
どうやら嫌というわけではないらしい。
「……嫌じゃないから、困るんじゃないですか…」
「俺は困らないけど」
「お、女心は複雑なんです!」
「そう、大変だね。それで?どうする?」
「……~~~っ!!」
凛花は声にならない悲鳴を上げた。
そんな彼女を楽しく見つめると、キッと睨まれた。だがまったく怖くないし、むしろ可愛いだけなので効果は一切ない。
「…はい、時間切れ。さあ、風呂に入ろうか」
「時間制限あるなんて聞いてないんですけど!?」
「そうだっけ」
「奏祐さん!!」
文句を言う凛花の口を塞ぐと大人しくなる。
「…俺を甘えさせてくれないの?」
「……その言い方はずるいです…」
「ずるくて結構。で、甘えさせてくれるの?くれないの?」
「……わかっているくせに…」
「なにが?」
「本当にずるい…!そんなの、そんなの…良いに決まっているじゃないですか…」
顔を真っ赤にして呟いた凛花が可愛くて、思わずまた唇を奪う。
そしてそのまま、俺は凛花を抱えて風呂場へ移動する。
言質はとったし、問題はない。俺の腕の中の凛花ももうすでに諦めているのか、大人しい。
もう付き合い出して2年近く経っているが、彼女を愛おしく思う気持ちは衰えることなく、むしろ増加している。
早く彼女と暮らしたい。その気持ちが日に日に膨らんでいく。
「…早く一緒に暮らしたいな」
「私も…です」
小さく呟いた言葉に彼女も返してくれて、それだけで満たされた気持ちになる。
そして改めて、思う。
――――俺は君に首ったけなんだと。




