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俺たちの彼女が可愛すぎる件について

蓮見視点です


 美咲たちが『女子会』を開くらしい。



「…というわけで、こちらは男子会を開くことにしたんだ」


 にこにこと、相変わらずの余所行き用(そとづら)の笑顔を浮かべて、昴が皆をぐるりと見渡してそう告げた。

 ここは昴の家が経営しているレストランで、昴の名前で貸切となり、店内はがらんとしている。

 落ち着いて雰囲気の店で、通常ならこの時間は多くのカップルやら夫婦でいっぱいとなっているはずだが、今は男6人しかいないという、なんともむさ苦しい状態だ。


「なぜそうなった」


 額に手を当て、頭が痛そうに呟いたのは飛鳥だ。その隣で悠斗がうんうん、と飛鳥に同意するように頷いている。

 飛鳥の悠斗とは反対側の隣では、矢吹がとても楽しそうににこにこと笑って「さすがすばるん!」と昴を褒め称えていた。

 そのカイトの隣では朝斐さんが面白そうに「そういうのオレ好きだわ」とにやりと笑みを浮かべている。


 今日集まったのは、昴を始めとする、俺・飛鳥・悠斗・矢吹・朝斐さんの6人だ。

 矢吹はたまたま日本に帰って来ていて、この集まりに参加することが出来た。

 久しぶりに見た矢吹は、前よりもぐっと大人っぽくなったような気がする。前は実年齢よりも幾つか年下に見えたが、今は年相応の落ち着きのようなものを感じる。ただし、雰囲気とか話し方は以前のままだ。

 朝斐さんや悠斗、飛鳥と昴と俺はしょっちゅう会っているので、どうこう思うことはない。


「君の婚約者も美咲たちの女子会に参加してるんでしょ?神楽木さんが誘ったんだってね」

「そうみたいだな。都と神楽木は時々、メールのやり取りをしているようだから」


 都、というのは飛鳥の婚約者の名前だ。現在は受験生でいったん断ったらしいが、凛花が「息抜きも必要よ?」とごり押しをして参加をすることになったらしい。その話を聞いた時、なんとも凛花らしいと呆れたものだ。


「あと、悠斗君の『財布の子』も急遽参加になったんだっけ?」

「……彼女は…綾崎さんは、姉さんと仲が良くて、最近は水無瀬さんとも仲良くなったから、交流会を兼ねて参加することになった、と聞いています」

「ねぇ、ユウ?『財布の子』って誰のことなの?」


 矢吹の質問に悠斗はうぐっ、と言葉を詰まらせた。

 それに昴が訳知り顔で「悠斗君の好きな人だよ」と答えた。


「えっ。ユウの好きな人!?」

「違います!オレの好きな人じゃありませんから!!彼女には彼氏もいるし、綾崎さんはただの姉の友達です!」

「…必死に否定するところが怪しいんだよねえ」

「本当です!」


 揶揄うようににやにやとした笑みを浮かべる昴に、悠斗は必死に「本当の本当に違いますから!」と声を張り上げて主張している。それが面白くて昴は揶揄っているのだ。本当に性格が悪い。

 …という俺も人の事は言えないけど。


「昴。いい加減にしてやりなよ」

「ごめんごめん、悠斗君。わかってるから」

「……」


 悠斗はほっとした表情を浮かべ、次にぎろっと昴を睨んだ。そういうところは凛花にそっくりだ。そういうと、悠斗は嫌な顔を浮かべるのだろうけど。反対に、凛花はとても喜びそうだ。

 矢吹は「なんだ、冗談か~。ちょっと残念…」としょぼんとして呟いた。そんな矢吹にも悠斗はぎろっと睨みつける。


「…おまえら、相変わらず楽しいなぁ」


 くつくつと笑いながら、しみじみと朝斐さんは呟いた。

 一つしか年が変わらないというのに、朝斐さんは大人の色気が出ていて、男の俺でも格好いいなと思ってしまうほどだった。

 いかにも大人の男、という雰囲気を持っている。こういう風になれたらと、ほとんどの男が憧れるのではないだろうか。


「オレは楽しくないです」


 ぶすっとした表情を浮かべて、拗ねたように言う悠斗に、朝斐さんはにやっとした笑みを浮かべてぽんぽん、と頭を軽く叩いた。

 子どもみたいなこと言ってんな、とか、子どもだなあ、というような感じで、悠斗はとても不満そうに叩かれた頭を押さえて朝斐さんを見つめた。


「それで。いったい男子会とはなにをするんだ?」


 話が一区切りしたと判断したのだろう。飛鳥がそう切り出した。

 その飛鳥の言葉に昴はきょとん、とした顔をして瞬きをゆっくりとした。


「なにって………お菓子食べるとか?」

「女子か!」


 思わず、というように飛鳥が突っ込んだ。

 そんな飛鳥に昴は眉間に皺を寄せて不満そうな顔をする。


「他に何がある?」

「何があると聞かれもな…君が言い出したことだろう」

「そうだけど。僕はただ、女子が集まるなら男子も集まれば楽しいかな、と思って…」

「昴、嘘をつくな」


 最もらしいことを言う昴の台詞を遮って言う。

 昴は気まずそうに視線を彷徨わせたあと、観念したように肩を落とした。


「…そんな楽しそうな会に参加できないなんて、悔しいじゃないか」

「それが理由なの?」


 矢吹が目を見開き昴を見つめる。そしてにこっと輝く笑みを浮かべて、肩を落とす昴の傍に行き、その肩をぽん、と叩いた。


「わかるよ、すばるん。その気持ち」

「矢吹君…」

「仲間外れにされたら悲しいもんね。わかるわかる!その悲しさが吹き飛ぶくらい、今日は楽しい会にしよ?おれも今日なら付き合えるし」

「……さすが矢吹君だ。君なら話がわかると思っていたよ」


 パンっとハイタッチをする二人に、俺は生温かい視線を送った。

 変なことで意気投合をしないでほしい。これから矢吹が日本に帰って来るたびに昴がはしゃいで何か騒動を起こしそうな予感がする…。そしてその騒動を鎮めるために奮闘するのは俺なんだろう。勘弁してくれ。


「で?なにすんだ、結局」

「えーっと…」


 朝斐さんの質問に昴は言い淀んだ。

 なにも思いつかないようで、昴は困ったように俺を見つめた。

 ……俺を見つめられても困るんだけど。

 はぁ、とため息をついて、自然と俺に集まった視線の答えるべく顔を上げた。


「別に、何かする必要ないんじゃない?こうして集まる機会もなかなかないだろ。普通にランチを取りながら近状報告すれば十分でしょ」

 

 女子会(むこう)も同じ感じなんじゃない、と言えば皆、それもそうかと納得したように頷く。


「近状報告ね。まず僕から言おうかな」


 昴がさっそくノリノリで体を乗り出した。

 そして近状報告と言うの名の、惚気をし出した。

 曰く、「僕の婚約者はとても美人で可愛くて、世界一、いや宇宙一だ」と。


 自信たっぷりに言い切った昴に、ほとんどの者が呆れた視線を送った。もちろん、俺も。

 ただ、矢吹は「へえ~。まあ、ミクは美人だもんね。自慢したくなるのわかるよ」と同意するように頷いていた。あんな惚気に頷けるとは、矢吹はなんて懐が広い。

 大方の者が呆れる中で、一人だけ異議を唱える者がいた。

 ―――朝斐さんだ。


「それには頷けねぇな」

「……なぜですか?」

「水無瀬がどうこうっていう訳じゃない。勘違いするなよ。ただ、お前にとっての世界一は水無瀬かもしれないが、オレにとっては違うと言いたいんだ」

「どういう意味です?」

「オレにとっての世界一可愛い自慢の彼女は菜緒だからな!」


 今度は朝斐さんが惚気をし出した。

 曰く、「菜緒は素直じゃないが、デレると物凄い可愛いんだ。将来の夢に向かって一直線なのもいい」と。

 俺と飛鳥と悠斗が「お前もか」という視線を朝斐さんに送ってしまったのは仕方ないと思う。


「菜緒が可愛い、ねぇ…」


 幼馴染みである矢吹には何か思うところがあるのか、そう呟いた。

 その呟きは小さいものだったのに、朝斐さんはきちんと拾ったようで、「あぁん?なんか文句あっか?」とどこぞのガラの悪い連中のような口調で矢吹を睨んだ。


「文句があるわけじゃないけど…ただ、菜緒がそういう風に言われているのが新鮮なだけだよ。菜緒はさ、おれやリンちゃんの前ではお姉さんぶっているから」

「…ああ、確かに。そういや、そうだな」


 矢吹の言い分に納得したのか、朝斐さんは頷いた。

 どうやら誤解が解けたようでなによりだ。


「人それぞれ、ということだな」


 飛鳥がしんみりと呟くと、昴が飛鳥を見つめ、ニタァっと笑った。

 そんな昴の表情の変化に、飛鳥は顔を顰めた。嫌な予感がしたのだろう。そしてその予感は外れていない。


「飛鳥君はどうなの?婚約者の子はやっぱり可愛い?」


 にっこりとキラキラと輝く笑顔を浮かべて飛鳥に質問をする昴。とてもノリノリだ。

 飛鳥は眉間の皺を深めて「どうと言われても…」と言い淀んだ。

 きっと婚約者について話すのが恥ずかしいのだろう。しかし昴はそんな飛鳥の心情などおかまいなしに「可愛くないの?そんなことないよねぇ?」としつこく食い下がった。

 昴のその勢いに飛鳥は引き気味だったが、中々引かない昴に根負けし、はぁ、とため息をついて語り出した。


「…可愛いに決まっているだろう。幼い頃から彼女を知っているからな。それに、彼女は俺にとって妹みたいなものだ。可愛くないわけがない」


 弟とか妹を持つとやはり可愛いものなのだろうか?俺にも姫樺という幼馴染みの妹のような存在がいるが、可愛いとはあまり思わなかった。どちからというと、しょうがないな、と思うことが多かった。

 だけど飛鳥が婚約者の事を大切に思っていることは間違いない。婚約者のことを語る飛鳥の表情はとても柔らかく、優しいものだったから。


「あー、その気持ち、なんかわかるかも。下に妹も弟もいないけどさ、おれにとってヒメカがそんな感じなんだよねえ」


 うんうん、と飛鳥に共感するように頷く矢吹におや?と思ったのはきっと俺だけではないはずだ。

 昴を始めとする他のメンバーも興味津々と言った風に矢吹を見つめていた。


「なんていうの?放って置けないというか?うーん…言葉にするのは難しいなぁ。ヒメカはほら、意地っ張りだし、頑固だし、素直じゃないから。心配になるんだよね、たまに。イタリアにいてもさ、ヒメカ無茶してないかなって時々思うし」


 矢吹の姫樺の評価は彼女の幼馴染みとして同意したい。

 姫樺は素直じゃない。本当は欲しいのに、「これ欲しいの?」と聞いても「要りません」と答えるような子だ。

 矢吹と姫樺の繋がりは知っていたが、そこまで気にかけるほど矢吹が姫樺のことを心配しているとは思わなかった。


「…姫樺も矢吹と同じことを前に言っていたけど」

「ほんとうに?おれたち似た者同士だからなぁ。考えることまで同じなんてね」


 ふふっと笑う矢吹はとても楽しそうだった。

 そんな矢吹の様子に俺たちは目配せをして、頷き合う。

 これはもしかして、と。だがそれを口にする者はいない。そういうことは当人同士の問題であって、他人である俺たちが口にすることではないからだ。


「ところでユウは?カノジョとか好きな子いないの?」


 突然の矢吹の質問に、悠斗は飲んでいた飲み物を吹き出しそうになっていた。

 ゴホッゴホッと咳きこむ悠斗に、皆の注目が集まる。


「……どっちもいません」


 回復した悠斗が、少し涙目になりながら答えた。

 そんな悠斗に昴がニヤニヤと笑いながら「あれ?綾崎さんは?」と最初の方の話題をぶり返した。


「だから、彼女とはなんでもないんです!」

「ふーん、それは残念」

「その財布の子はともかく。悠斗、おまえ、もう少し姉離れした方がいいんじゃねえの?」

「オレは大丈夫です。姉さんが弟離れしていないだけですから」


 ツンと澄まして答える悠斗に、皆が苦笑を浮かべた。

 悠斗は大丈夫だと言っているが、どこからどう見ても彼が姉離れを出来ているようには見えない。


「……シスコン」

「うるさいですよ、蓮見さん」


 ボソリと呟いた俺の呟きを拾った悠斗が、ギロリと俺を睨んだ。

 俺は肩を竦める。シスコンというのは否定しないんだな、と。


「……でも意外です。蓮見さんが姉さんとのことを自慢しないなんて」

「ああ、それは俺も思った」

「僕も」

「おれも」

「オレも」


 皆の注目が俺に集まる。

 どうやら次のターゲットは俺になったようだ。


「なんで?」

「なんでって……いつも彼女と一緒にいる奏祐は幸せそうだから、自慢したいんじゃないかな、ってみんな思っているんだよ」


 皆を代表して昴がそう答えた。

 その答えに俺はフンと鼻を鳴らして笑った。


「なにを自慢する必要があるわけ?凛花の可愛いところなんて、俺だけが知っていればいいし、誰かに教えたくもない」


 そう言い切った俺を、なぜか皆唖然とした表情で見つめた。

 俺はそんな皆の表情を疑問に思いながらも続ける。


「それに、凛花が可愛い事なんて、わかりきっていることだろ?」


 真顔で言う俺に、皆は生温かい視線を送ってきた。

 なぜだろう。どれも心からの本心なのに。


 「奏祐がそんなに独占力が強いなんてねぇ…初めて知った」という昴の呟きと、「リア充爆発しろ…!」と言う悠斗の呟きは、凛花からのメールに気付いて気を取られていた俺の耳には届かなかった。





これのガールズサイドもいずれ書く予定です。



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