小話1 よくある生徒会での出来事
飛鳥視点です。本編中のどこかの話です。
俺の同期である神楽木と蓮見はよく喧嘩をする。
喧嘩というより、言い合いと言った方があってるかもしれない。
しかし、その内容が実に些細なことなのだ。
「あんこは、ぜったい、こし餡ですわ!」
「いいや、つぶ餡でしょ」
2人は向かい合って火花を散らす。
事の発端は、俺が作ってきた牡丹餅だ。
俺はきな粉の牡丹餅とあんこの牡丹餅を両方作ってきた。
あんこの方は、つぶ餡を使った物とこし餡を使った物を用意した。
それを食べた神楽木と蓮見が、こし餡派か、つぶ餡派かを討論しだし、それが白熱して今に至る。
実にくだらない。ちなみに俺はどっちも好きだ。
どちらにも違う良さがある。
「つぶ餡はあの粒々して歯にくっつく感じがして好きじゃありません」
「こし餡は逆にあの食感がなくて物足りないだろ」
「あら、それがいいんじゃありませんか。のど越し最高ですわ」
「粒々してないと、あんこじゃないでしょ」
両者一歩も譲らない。
いや、そんな議論をかわす前に仕事をしろ。
君たちの仕事、結構貯まってるぞ。
俺は2人の机に貯まった紙の束を見て、溜め息をつく。
仕方ない、2人を止めよう。
「2人ともいいかげんにーーー」
「飛鳥くんは黙っていてください」
「飛鳥は黙ってて」
……むしろ君たちが黙れ。
そう思ったが口をつぐむ。
きっとこの2人は納得するまで議論を続けるだろう。ならば止めるだけ無駄だ。
そう判断した俺は自分の仕事を黙々とこなすことに専念した。
俺は2人のくだらない言い合いをBGMにペンを走らせる。
ああ、そろそろだな。
俺がそう思って顔を上げたと同時にドアが開く。
「今日も仲良いなぁ、おまえら」
ドスのきいた声が生徒会室を支配する。
先ほどまで言い合いを続けていた2人も、その声の主を凝視して言い合いを中断した。
「あ、朝斐さん……」
「相模さん……」
「そんだけ元気が有り余ってんなら、おまえたちに良い仕事を与えよう」
相模さんは物凄く爽やかな笑顔を浮かべた。
逆に怖い。
「おまえら、隣の部屋、片付けてこい」
「なんで私が……」
「わ か っ た か ?」
「は、はい……」
生徒会室の隣の部屋は物置になっている。
行事などで使われる物が保管されているのだ。
保管されているのはいいが、適当に積み重なっているため、たいへん汚い。
いや、きれいなのだが、整理整頓がされていないため汚なく見えるのだ。
それを片付けろと相模さんは言った。
うん、自業自得だな。
そう思った俺を見て、相模さんは笑顔のまま、告げた。
「飛鳥、おまえも連帯責任だからな」
早く行け、と相模さんが俺たちを生徒会室から追い出す。
なんで俺まで……。
俺は観念して片付けをすることにした。
「わあ……汚い……」
倉庫に入って、神楽木が思わずといったように呟く。
倉庫は、予想以上に散らかっていた。
蓮見も少しみけんにしわをよせていた。
きっと俺の表情も蓮見とそう変わらないだろう。
「……早く終わらせよう」
蓮見がそう言ったのに、俺たちは無言で頷く。
手分けして片付けをしていく。
俺が一生懸命片付けていると、神楽木と蓮見が手を動かしながらまた言い合いをしていた。
「つばき屋のプリンはやっぱり、焼きプリンが一番美味しいと思いますの」
「いや、普通のが一番美味しい」
またか。
というか、君たちは食べ物の話ばかりだな。
俺は注意するのを早々に諦め、片付け作業に集中する。
結局、俺がほとんど片付けることになった。
なぜ俺が。俺は悪くないのに。
「ありがとうございます、飛鳥くん」
「すまない、助かったよ、飛鳥」
2人に笑顔で礼を言われると、悪い気はしない。
「もう巻き込まないでくれよ」
俺が苦言すると、2人は神妙な顔で頷く。
でもきっと、またやるんだろうな。
そして俺が尻拭いをさせられるのだ。
もう、笑うしかない。俺は苦笑を浮かべた。
こんなに迷惑をかけられているのに、俺は2人のことを嫌いになれない。
むしろ、俺はこれはこれで楽しいと感じているのだ。
なぜだろうか?不思議だ。
まあ、もうしばらくこの2人に付き合ってやろう。
2人を見ていると、飽きないからな。
その数日後、2人は俺にプリンを買ってきてくれた。
迷惑をかけているお詫びだと。
俺は2人に急かされ、プリンを食べる。
プリンは2種類入っていた。
普通のプリンと焼きプリン。
俺は一口ずつ食べて2人に感想を言う。
「どちらも同じくらい美味い」
そう言った俺に、2人は嬉しそうな笑顔を向けた。




