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拍手お礼小話3 淑女の嗜み

※姉弟愛を超えた表現があります。そういうのが苦手な方はご注意を。

時期的には48~56話くらいの話。

弟視点と思わせてからの、美咲視点です。

 



 オレは姉さんに手を伸ばす。

 オレが姉さんに触れると姉さんがびくりと体を震わせた。


「悠斗……」

「姉さん」

「だめ、悠斗。離れて……おねがい」

「どうして」


 姉さんは泣きそうな顔でオレを見る。

 いつもは色んな人に向けられている瞳に今はオレしか写っていないことに、オレは小さな悦びを感じる。

 今だけは、姉さんはオレのものだ。

 この想いがいけないものだとはわかっている。

 でも、もう知らないふりもできない。

 それくらいオレの中では姉さんに対する想いが大きくなっていた。


「姉さん、オレ……」

「だめよ、いけないわ、悠斗。お願いだから、なにも言わないで……」


 潤んだ瞳でオレを見つめる姉さんを見てオレは感じた。

 姉さんも、オレと同じ想いを抱いている、と。

 知ってしまったら、もう我慢することなんてできない。

 オレは姉さんを抱き締めた。


「悠斗……!」

「姉さんも、オレと同じ気持ちなんだろ?ねぇ、本当のことを言ってよ」

「あなたは、私の弟よ。それ以上でもそれ以下でもないわ」

「……嘘つき。姉さんは嘘つきだ」

「嘘なんてついてな……!んっ」

「もう、黙って」


 オレは姉さんの口を塞いだ。

 嘘つきな姉さんの言葉なんて聞きたくないから。


「んんっ……悠斗っ…やめて……!」

「オレは、姉さんを愛してる。弟としてじゃなく、1人の女性として。姉さんも、オレと同じように想ってくれてるんでしょ」

「悠斗……っ」


 中々素直になってくれない姉さんの唇を貪る。

 涙目になってオレを見る姉さんが可愛くて、愛おしくてたまらない。

 いやだ、やめて、と言いながら、姉さんはオレに本気で抵抗しない。

 それが姉さんの気持ちを物語っているということに、姉さんは気づいているんだろうか。

 どちらにしろ、オレはもう姉さんを手放す気はない――――――




「美咲?おーい、美咲?」

「あ、あら……昴?」


 私は読んでいた本を思わず隠す。

 この本は一部の乙女たちに大流行している本だ。

 神楽木姉弟をモデルにした禁断愛を描いたラブストーリーである。

 私も先日手に入れたばかりで、つい夢中になって読んでしまった。

 だから、昴に呼ばれているのに気付くのが遅れた。


「なに読んでいるの?」


 横からひょいっと奏祐に本を取られ、私はしまった、と思う。


「返して!」

「そんなに隠さなくても……」


 奏祐が苦笑して私に本を返そうとしてくれた。

 しかし、その本を今度は昴がひょいっと横取りする。


「隠されると気になっちゃうのが人間の(さが)だよねぇ。ええっと……なになに」

「昴!」


 私が慌てて昴から本を取り返そうとするも、遅かった。

 昴は本の内容を呼んで、固まった。

 そんな昴の様子を怪訝に思った奏祐も、昴が開いたままにしている本を覗いて、固まった。

 ああ、やってしまった……。一番見られてはいけない二人に見られてしまった……。


「美咲?この本は……なに?」


 奏祐が珍しく笑顔で私に問いかける。

 しかし、目が笑っていない。


「えっと……これはその……」


 私はしどろもどろになる。

 すると、たまたま凛花さんとその弟の悠斗くんが通りかかり、私たちを見かけて声を掛けてきた。


「皆さんおそろいで……どうしたんですの?」

「凛花さん……」

「美咲さん……もしかして、蓮見様にいじめられていたんですか?」


 凛花さんはきっと奏祐を睨む。


「蓮見様!美咲さんをいじめてはいけません!」

「別にいじめてないけど……」

「こんなに困った顔をさせておいて……しらばっくれないでください」

「だからいじめてないって言ってるだろ」

「ではなぜ美咲さんはこんな困った顔をしているのですか」

「それはこの本が……」

「本?」


 凛花さんと悠斗くんは奏祐の指差した本を見つめる。

 そして昴から本を取ると、本をパラパラとめくり、読む。

 あ……また見られてはいけない人に……。


「なに、これ」


 凛花さんは本の内容に固まった。

 私が絶望しそうになった時、凛花さんが笑い出した。


「フフッ……なにこれ……フフッありえないわ……あぁ……あり得な過ぎて笑えるわ……!」


 ツボにはまったようで、凛花さんがクスクスと笑い出す。

 予想外な反応に、私は思わずぽかん、とした顔をしてしまう。

 そんな私を悠斗くんはじっと見つめて、姉そっくりの笑顔で私に言った。


「これ、オレに貸してもらえませんか?」

「え……?」

「フフ……想像とはいえ、オレの姉さんのこんな破廉恥な姿を想像するなんて……フフ。お仕置きをしないと……」


 昏い笑みを浮かべて言う悠斗くんに、私はゾクリとする。

 そしてわかった。一番見せてはならないのは、昴でも奏祐でもなく、悠斗くんなのだと。

 私は悠斗くんの昏い笑みが怖すぎて、コクコクと頷き、本を悠斗くんに渡す。

 本を受け取った悠斗くんの肩に、昴と奏祐が手を置く。


「僕たちも手伝うよ」

「悠斗、こんなものを作った奴らを懲らしめてやろう」

「はい。フフ、どうしてくれましょうか……」


 一番組んではいけない3人が組んでしまった。

 私は味方を探して周りを見るが、いたのはいまだに笑っている凛花さんだけだった。

 この本を作った人たちに私は同情の念と申し訳なさを覚えつつ、こっそりわからないように製作者たちを守ろうと決意する。

 だって、面白いんだもの。続きも気になるし。



 後日、昴・奏祐・悠斗くんの3人により、この本はこの世から消滅した、と思われた。

 しかし、3人に見つからないようにこっそりと乙女たちの間でこの本は受け継がれた。

 そして、その騒動をネタにした本が乙女たちの間で流行り出した。

 私は今日も3人に見つからないように、こっそりと、淑女の嗜みを読み続ける。


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