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拍手お礼小話2 蓮見の葛藤

本編70話の没を改稿したもの。最初が70話とほぼ同じであとは違う話になっています。時期的には本編57~61話のあたりの話。

蓮見視点です。


『俺が君を振り向かせてみせるから』


 俺はそう、彼女に言った。

 言ったのはいいのだが、どうやって彼女を振り向かせればいいんだろう……。

 俺は考えたがいい考えが浮かばない。

 今まで、自分から誰かに好かれようとしたことがなかった。

 だからどうすればいいのかがさっぱりわからない。


 昴みたいに、真正面から行く?

 いや、俺にはそんな真似、恥ずかしくてできない。

 なにか、良い方法はないか。

 考えても思いつかず、結局前と変わらない態度をとってしまう。


 なにやってるんだろう、俺……。


 それに、最近、彼女に避けられている気がする。

 いや気がするのではなく、確実に避けられている。

 そうあからさまに避けなくてもいいじゃないか。

 俺は知らず知らずのうちに仕事の手を止め、ため息をこぼした。


「蓮見がため息なんて珍しいな。悩み事か?」


 俺のため息を聞いていたらしい飛鳥が、爽やかに笑いながら問いかける。

 そういえば、飛鳥に嫉妬していたときもあったな、と思い出す。

 今となってはただの思い出だ。


「……別に」

「当ててやろうか?」


 いや、当ててくれなくていいけど。

 飛鳥は楽しそうに笑いながら言う。


「神楽木のことだろう?」

「………」


 俺は無反応だったつもりだったが、僅かに体が動いてしまった。

 それを見た飛鳥がニヤリと笑う。飛鳥もこんな笑い方するんだな、とどうでもいいことを俺は思う。


「最近、神楽木も悩みがあって悩んでいるようだぞ」

「……悩み?」

「ああ。最近、二人に告白をされたらしくてな。そのうち一人は熱烈にアピールをしてくるけど、もう一人に関しては何も態度が変わらないが本当に好かれているのか?と疑問に思っているようだ」

「…………へえ」


 俺は顔が引きつるのを自覚する。

 これって、昴と俺のことだよね?それをわかっていて飛鳥は俺に言っているんだよな?


「神楽木は、きちんと態度に出してほしいようだ」

「へえ……そうなの」


 きちんと態度に、か……。

 俺には少し難しいような気がするが、頑張ってみよう。

 飛鳥がニヤニヤと俺を見ているのを無視して、俺は仕事を手早く片付けていった。



 次の日に機会があったので、早速やってみる。

 今まで避けられていたことの憂さ晴らしを兼ねて、彼女の食べかけの団子を食べる。

 ふんわりとお茶の味が口の中に広がる。

 飛鳥の和菓子の腕前は大したものだ。


 彼女は茫然として俺を見ていた。

 そして俺がにっこりと笑ってご馳走様と言うと、椅子ごと後ずさった。

 その反応が面白くて、ついついからかってしまう。


 いけない。態度に出さないといけないのだった。

 しかし、彼女が顔を真っ赤にしているところを見ると、それなりに俺の好意が伝わったんじゃないだろうか。

 いや、もしかしたら怒っているだけかもしれない。その方が可能性が高い。

 だけど、俺は敢えてその可能性に目を瞑り、好意が伝わったのだと思うことにした。



 それから無理矢理デートに誘ってみた。

 だけどきっと彼女はデートだなんて自覚はないに違いない。

 彼女にそのつもりがなくても俺はデートのつもりだ。

 デートの結果は、上々だったと思う。彼女も楽しそうだった。

 途中で姫樺に会うといったハプニングがあったが、些細なことだ。

 ただ、彼女が姫樺になにかされないか、それだけが心配だ。

 姫樺は俺の周りにいる女性に良い感情を抱かない。きっと兄のような存在である俺を取られてしまうと勘違いしているのだ。

 幼い頃から姫樺は俺にべったりだった。だから、きっとそうなのだ。



 制服が夏服に変わると、すぐにテストだ。

 俺はいつもより勉強に力を注いだ。

 昴と勝負をしているからだ。それに、前回は危うく彼女に抜かれるところだった。

 正直、彼女がここまで勉強ができるとは思っていなかった。普段の行動から見ても、とても頭が良さそうには思えない。

 前回のテストの時、ヒヤリとした。態度にこそ出さなかったが、彼女に抜かされなくてほっとした。

 やはり、彼女より上でいたい。男の意地というやつだ。

 だから、今回も負けるわけにはいかない。


 そして期末テストの発表の日、俺は昴と共に結果を見に行く。

 俺は昴に負けた。それよりも、彼女と同率2位だったことの方がショックだった。

 結構頑張って勉強したのだが、彼女に追いつかれてしまった。

 次はもっと真剣に勉強しよう、と密かに決意をした。



 昴から「海に行こう」と誘われた。俺は深く考えずに、たまには海もいいかと思い、頷いた。それが、罠だったとは。

 男同士で気楽な旅行と聞いていたのに、美咲と彼女と大月さんまで一緒だとは聞いていない。

 だけど、結果として、旅行は楽しかった。

 彼女が海に落ちたり、顔面レシーブしてしまったりとハプニングはあったが、1日目は楽しかった。

 2日目では美咲が海に落ちてしまうという事故が起きた。

 昴が美咲を助けに海に入ったときは、本当に肝が冷えた。

 下手をしたら昴の命も危なかったのだ。

 二人とも命に別状はなくて済んで良かったものの、危うく大惨事になるところだった。

 海の怖さを実感した。


 その日の夜、彼女と昴がなにか話していた。

 気にはなったが、翌日、二人ともスッキリとした顔をしていたので、二人の間でなんらかの決着がついたのだろうと思う。

 俺が安心していると、昴に彼女と共に追い出された。

 そして綺麗な景色が見れる場所に行くことになった。どうしてこうなった。


 しかしながら、彼女と他愛のない話をしながら歩くのは、楽しかった。

 途中で彼女と手を繋いでしまっていることに気付いたが、手を放すのは勿体ないような気がして、気付かないふりをした。

 足場の悪い場所を歩くとき、彼女が手を強く握られ、驚いた。


 いや、落ち着け俺。

 足場が悪いから力が入ってしまっただけなんだ。


 彼女はずっと手を繋ぎっぱなしなのに、嫌がるそぶりを見せない。

 これは、少し、期待してもいいのだろうか。

 そう考えていると、不自然に体が強張ってしまった。


 洞窟を抜けた先は、一面花で覆われていた。

 そんな景色を見た彼女が、目を輝かせて思わずといったように笑顔になった。


「綺麗ですね、蓮見様」

「ああ、そうだね」


 笑顔の彼女と一面の花。なんて、絵になるのだろう。

 俺は言いかけた言葉をぐっと押しとどめる。

 俺らしくない、ありふれた言葉。

 言ったらきっと彼女は気味悪がるのだろう。

 だけど、俺は今、心から思う。


 ―――花よりも、君の方が綺麗だと。



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