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拍手お礼小話1 ある日の神楽木姉弟

本編の40~43話あたりの話のはずです。

 

 その日、私は弟のお弁当を持参していた。

 私の手作り弁当だ。愛情をたっぷり込めて作ってある。

 今ではいいとこのお嬢様だが、前世はただの庶民である私は、料理なんて楽勝だと思っていた。

 なにせ、前世の私はカレーライスが得意料理だったのだ。

 カレーが作れればなんでも作れるはず。

 私は料理を舐めきっていた。


 今ではいいとこのお嬢様である私がなぜ料理を作ろうと思ったのか。

 正直に言おう。私の周りの男性陣の女子力が高すぎたからだ。

 気配り上手、手作り菓子作りが上手。そんな男性と一緒にいるのだ。

 私のなけなしの女子力がこのままではいけない、と叫んだ。

 女子力はこう言った。

『あなたは少女漫画のヒロインなのよ!このままでは、そのポジションを男性陣にとられてしまうわ!そうなったら、女子として終わりよ!』

 私ははっとした。そうだ。男性陣に女子力が負けている今の状況に甘んじるわけにはいかない。私は女子なのだ、乙女なのだ。男なんかに、負けてたまるか。


 そう思った私は、今の男性陣が持ち合わせていないであろう、スキル、『料理』を磨くことにした。

 家の人にあまりいい顔はされなかったが、万が一の時のために、そしていつか愛する旦那様のために、お料理を覚えたいの!と、懇願した。

 母はそんな私の意見に賛同してくれたが、父はまだ渋い顔をした。私が料理なんてする必要はないと。

 そんな父に私は上目遣いで言った。

『お仕事でお疲れのお父様のためにも、体にいいお料理を覚えて、お父様に食べて頂きたいの!』

 その一言で父はあっさり陥落。楽勝だぜ、お父様。



 その次の日、私は早速朝早く起きて、お弁当を作ってみた。

 しかし、これが意外と難しく、思うようにできない。

 その日は結局失敗に終わり、我が家の料理人さんに作っていただいた。申し訳ない。料理を舐めてて実にすみません。

 私は必死に料理について勉強をし、練習を重ねた。

 漸くまともな物を作れるようになった私は愛する弟に、お弁当を作ってあげようと思いついた。

 弟に試食してもらうのだ。なんていいアイデア。

 そんな記念すべきお弁当第一弾を持って、私は弟のクラスに足を運び、お昼を一緒にとる。

 私と弟は中庭に出てお弁当を食べることにした。

 木陰の涼しい場所に座り、私は笑顔でお弁当を弟に渡す。

 弟も笑顔でお弁当を受け取る。

 が、私はしっかり見ていた。お弁当を受け取った弟の目が一瞬不安そうに揺れたことを。

 信用してよ。毒は入ってないから。


 弟は慎重な手つきでお弁当の蓋を開ける。

 そこにはきれいに彩られたおかずが並んでいた。

 私、会心の出来である。どうだ、弟よ、姉の料理の腕前は。美味しそうだろう?

 弟は驚いたようにお弁当を凝視して、次に私を見た。

 私は優雅に見えるように微笑む。


「これ、本当に姉さんが作ったの?」

「ええ。もちろんよ。これ全部、私1人で作ったの」

「……へえ。そうなんだ……」


 弟は硬い声で呟く。

 なにか不満でもあるのか?

 私のこの、力作弁当に。


「わかってるけど、一応念のために聞くよ。姉さん、これは、なに?」


 弟はおにぎりを指さして私に聞く。

 私はドヤ顔で答える。


「それは、パンダよ」

「……なんで、パンダなの?」

「だって、可愛いじゃない。ちなみに、そのお弁当のテーマは『愉快な森の動物たち』よ」


 パンダは森に棲んでないよ、という冷静な弟のツッコミは華麗にスルーする。

 そう、私が作ったのは、いわゆる、キャラ弁、というやつだ。

 前から作ってみたかったんだよねーキャラ弁。

 あ、ちなみに私のお弁当も弟と同じ仕様になっております。


「なんで『森の動物たち』なのに、タコがいるの」

「可愛いでしょう、タコさんウインナー」

「……そうだね」

「それより、食べてみて」

「うんわかったよ……」


 弟がなぜか疲れたように言う。なんで?

 弟が煮物を口にする。ちなみに煮物の野菜も可愛らしくカットしました。

 弟は無言でもぐもぐと煮物を食べて、ごくり、と飲み込む。

 私はその様子をじっと見つめて、弟の感想を待った。


「……姉さん、これ、美味しいよ。なんか、優しい感じがする」

「本当?よかったわ。他のも食べて」


 弟は他のおかずもどんどん食べていき、あっという間にお弁当は空になった。

 そしてお行儀よく、ごちそうさまでした、と私に言う。

 私も笑顔でお粗末様でした、と答えた。

 どうやら美味しく食べてもらえたようだ。よかった。

 私もお弁当を食べていると、弟がいつの間にか私の肩に寄りかかって眠っていた。

 最近、体育祭の練習に励んでいるようだし、疲れているのだろう。

 私はくすりと笑って弟の寝顔を見つめた。

 そうしているうちに、私もだんだん眠くなり、ついには眠ってしまった。

 目が覚めたのは予鈴が鳴る少し前。たまたま通りかかった蓮見に起こされなければ普通に寝過ごしていただろう。

 頑張って早起きしたのが悪かったようだ。ちょっと反省……。



 中庭で仲良く一緒にお昼寝をしている私たちを見た生徒たちが、私たちを見るたびに温かい目線を送ってくるようになったり、一部の生徒たちによって私たち姉弟の危ない話が出回るようになるのは、まだ少し、先の話。

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