美咲のあまい1日
※禁断愛的な描写があります。苦手な方はご注意ください。
弟視点と見せかけての、美咲視点です。
拍手お礼小話3「淑女の嗜み」を読んでから読むとなお楽しめるかと思います。
『姉さんと蓮見さんが付き合い出してから早くも一月。
オレも姉さんたちも、慌ただしく毎日を過ごしている。
大学に進学した姉さんは毎日とても楽しそうで、そして前よりも綺麗になった。
きっと蓮見さんが原因だろう。とても綺麗で、キラキラしていて、眩しくて直視できないときもある。
本当は、オレが姉さんをそんな風にしたかった。
そんな想いがぐるぐると胸の中を渦巻いて苦しい。
わかっている。これがいけない想いだということも、決して報われない想いだということも。
頭でわかっていてもどうにもならないというものが感情であることを、オレは身に締めて感じている。
大好きな、姉さん。姉としてではなく、1人の女性として好きだった。
いや、“だった”じゃない。今でも、好きだ。
ずっとずっと、姉さんの隣にいるのはオレだった。姉さんの隣がオレの特等席だった。
なのに、その席はもうすでにオレのものではなくなってしまった。
今の姉さんを見ているのは、つらい。苦しい。
いつも通りに普通にオレに接してくる姉さんの相手をするのが、切なくて、苦痛で、惨めでたまならない。
だからついつい、素っ気なく接してしまう。すると姉さんはとても寂しそうに笑う。
そんな顔をしてないで、姉さん。
オレは姉さんにそんな顔をしてほしいわけじゃないんだ。
生徒会の仕事を終えて家に帰り、自分の部屋へ向かうため廊下を歩く。姉さんの部屋の前を通りかかった時、姉さんの部屋から小さな泣き声が聞こえた。
姉さんの部屋のドアは少し開いていて、その隙間からそっと中を覗き見ると姉さんが泣いていた。
オレはたまらず、姉さんの部屋に入った。
「姉さん、どうしたの」
「あ……悠斗。お帰りなさい」
姉さんは振り向き、真っ赤になった目のまま、笑う。
なんでだよ。なんで笑うんだ。
オレは理不尽な怒りを覚えて、姉さんにつかつかと歩み寄る。
「なんで泣いているんだよ、姉さん」
「なんでもないの。私は大丈夫だから、気にしないで。ね?」
なんでもないって顔じゃないのに、姉さんは強がって笑う。
知っている。姉さんはオレの前では良き姉でいたいのだ。だから、強がる。
でも、そんなの嬉しくない。オレは、姉さんに甘えて貰いたいのに。
「気にするに決まっているだろ!」
「悠斗……」
姉さんが困ったようにオレを見つめる。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいて、瞳は潤んでいた。
「誰のせい?蓮見さん?蓮見さんが原因?」
「違うの。奏祐さんは悪くないわ。私が、悪いの……」
立ちあがり、蓮見さんに文句を言いに行こうとしたオレを姉さんが止める。そして自分が悪いのだと主張する。
そんな姉さんの様子にオレは苛立つ。
なんで庇うんだよ。姉さんを泣かせたことには変わりないのに。
オレだったら。
オレだったら絶対に姉さんを泣かせたりしないのに―――
そんな想いがつい、口から零れ出る。
「……もう蓮見さんなんかやめちゃえよ」
「悠斗……?」
「もっと他の人にしなよ、姉さん」
そう、例えばオレとか。
「でも……」
姉さんは困ったように瞳を揺らす。
そんな姉さんの様子に、オレは絶望的な気持ちになった。
どんなに泣かされても姉さんはやっぱり蓮見さんが好きなのだと、再度思い知らされた。
どうして。どうしてなんだ。どうしてオレじゃだめなの、姉さん。
そんな怒りと絶望でカッとなったオレは乱暴に姉さんの両腕を掴む。
「オレなら絶対に姉さんを泣かせたりしない」
「悠斗……なに言って……」
「ねえ、姉さん。蓮見さんなんかやめて、オレにしなよ」
「悠斗……?」
姉さんの瞳にオレだけが写る。
たとえその表情がどんなに戸惑ったものであったとしても、今この時だけは、姉さんの瞳に写っているのはオレだけだ。そのことが、とても嬉しく感じてしまう。
「オレ、姉さんが好きだ」
「私も悠斗が……」
「違うんだよ、姉さん。“姉”として姉さんが好きなんじゃない。一人の女性として、姉さんが好きなんだ。オレは姉さんに恋をしているんだ」
「悠斗……」
姉さんが大きく目を見開く。
姉弟なんて関係、もう壊してしまえ。
苦しくて苦しくて仕方ないなら、いっそのこと、終わりにしよう。
姉弟としての絆も、これまで築いてきた関係も、すべて。
「だから、オレにしなよ、姉さん――――」 』
「……美咲?」
ハッとして顔を上げると、そこには昴の整った顔がすぐ近くにあって。
私は手に持っていたスマホの画面を胸に当てて隠し、昴に申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさい。集中していて気づかなかったわ」
「……だと思ったよ。面白いのはわかるけど、ほどほどにね?」
そう言って昴は苦笑を浮かべた。
私は昴の言葉にドキリとする。
もしかして、昴は知っているのだろうか。私のこの趣味を。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、昴はにっこりと笑い「知っているよ」と言う。
「美咲は文芸部の子たちが書いているネット小説を読んでいるんだろう。文芸部の子たちが密かにホームページを作ったんだってね、会員制の」
「……知っていたの?」
「まあね。そのホームページを作るのを手伝ったのは美咲なんだろう?」
「それも、知っていたの」
私は昴の言葉が正直ショックだった。バレていないつもりだったのだ。
一昨年、昴と奏祐と悠斗くんに、神楽木姉弟の危ない話が書かれた本を見つかってしまい、その後、その三人によってその本は密かに処分された。
だけど、その本のデータは残っていたのだ。本という媒体では、三人が目を光らせていたため、その話を作るのが難しくなった。
だから私は三人にバレないように、文芸部のホームページを作り、小説を書く場を与えてあげた。
私があの話の続きを読みたかったのも勿論だし、私以外にも楽しみにしている子たちはたくさんいた。だからこそ、私は文芸部に協力することに決めたのだ。こっそりと、だけど。
ホームページは会員制にして、会員以外は閲覧できないようにした。
会員になるのは簡単だが、昴と奏祐、そして何より悠斗くんが会員にならないように、私は会員登録の際に生徒番号を入力することを必須記入事項とした。そして登録の申請が来た時点で、その生徒番号の生徒を調べ、三人の関わりがないことを確かめてから登録作業に入る、という徹底ぶりで、今まで三人にバレることはなかったはずだった。
「ああ…安心していいよ。奏祐も悠斗君もこのホームページのことは知らないし、僕も会員登録はしていないから。だからどんなものがあるのかも知らない。……まあ、想像はつくけどね」
「そう……良かった……」
ほっと息を吐く。その二人に知られてしまったら万事休すだった。
アノ手コノ手でホームページを消しにきただろう。それだけは、免れたい。
「――だけど、ねえ美咲」
「なあに、昴」
「僕を放っておいて、小説に夢中になるのは頂けないな」
「あ……」
私はしまった、と思った。
今は昴と食事をしている最中だったのだ。その最中に昴に電話が掛かって来て、昴が席を立った。食事は終えてしまっていたのですることのなかった私はこっそりスマホを取り出して小説を読むことにしたのだ。
そしてついつい小説に夢中になってしまって、昴が戻ってきたのに気づかなかった。
「……ごめんなさい、昴」
「まあ、いいんだけど……僕よりも美咲が夢中になってしまうその話に嫉妬してしまうな」
そう言った昴に私は瞬きをしてまじまじと昴を見た。
話に嫉妬してしまう?
「狭量なのね、昴」
「そうなんだよ。僕は狭量な男なんだ。こんな僕は嫌?」
少し切なそうに言う昴に私は首を横に振った。
「嫌じゃないわ。……とても嬉しい」
「そう……良かった。狭量な男は嫌いだと言われたらどうしようかと思ったよ」
そう言って安心したように微笑む昴に、私は馬鹿ね、と微笑み返す。
「何年越しの片思いだと思っているの?今更それくらいで嫌いにならないわ」
「そうか……そうだったね」
そうよ、と私が言うと、昴は困ったように笑う。
そして真剣な顔をして言った。
「ずっとこんな僕を想ってた美咲に応えられるようにちゃんと大切にするし、離さないから」
「昴……」
「だから、僕だけを見ていて」
熱の篭った眼差しで私を見つめる昴。
それに私は未だに慣れないでいる。
嬉しくて、恥ずかしくて、くすぐったくて、そしてとても幸せだな、と感じる。
私は頬が熱くなるのを感じながら、精一杯微笑んで言う。
「ええ、ずっと見ているわ」
―――昔も、これからも、ずっと、あなただけを。
リクエストの、美咲と昴のいちゃらぶ…になっているといいなあ、と思います。
コレジャナイと思ったらまた教えてください、リベンジ致します…!
このままでいいのならこれでリクエストとさせてくださいm(_ _)m




