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 あの会議のあと、嘘みたいに平和な日が続いた。

 学校に行って、美咲様と王子を見守って、お友達と楽しくおしゃべりをする。

 平和だ。蓮見に関わらないとこんなに平和なのか。

 こんな日がずっと続けばいいのに。


 近いうちに中間テストがあるが、予習復習はきちんとしてるので、私は慌てない。

 普段しっかり勉強していれば、テストで慌てることはないのだ。

 前世の私は思いっきり慌ててたけどね!

 一夜漬けとかよくやってたなぁ。

 でもテストが終わるとすぐ忘れちゃうんだよね。


 そんな代わり映えしない日々を過ごしているとあっという間に中間テストの日がやってきた。

 私はすらすらと答案用紙に書き込んでいく。

 勉強ができるって、素晴らしいわ。二回くらい見直ししても時間が余る。

 私は問題なく中間テストを終えた。


 桜丘学園ではテストの5教科の合計の順位が上位20位まで貼り出される。

 20位以下の人たちも、各個人に配られる紙に平均点とともに順位が書かれているので、みんな自分の順位を知ることができるようになっている。

 その順位が今貼り出されたらしい。

 みんな廊下に出て貼り出された紙を見ている。

 私もお友達と一緒に見に行った。

 私の名前あるかなぁ。


 私はドキドキしながら貼り紙を見つめる。

 下から順に名前を見てくと、12位に美咲様の名前を発見し、さすがだわぁ、と尊敬し直す。容姿よし、性格よし、家柄よし、頭よし。ミスパーフェクト。美咲様すてき。

 そして3位に王子の名前があった。うん、歪みない。ミスターパーフェクトだ。

 そして……。


「まあ!すごいわ、凛花さん!2位だなんて!」

「いえ……きっとまぐれだわ。たまたまなの」

「そんなことないわ。だって凛花さん、しっかり勉強なっているもの。今度からはわからないことは凛花さんに聞こうかしら」


 なんと、私が2位だったのだ。

 まじか。確かに手応えは良かったけど、こんなに順位が上だとは思わなかった。


「1位が……蓮見様なのね。流石だわ」

「あの方は常に上位にいらっしゃるものね。いつも東條様と1、2を争っていらしたもの」


 蓮見が首位だった。

 蓮見と王子に挟まれた私。

 やばい、目立つ。


 というか、早速注目されている気がする。

 まさかあの二人に挟まれるほど点数がいいとは思わなかったのだ。今度からは気を付けよう。

 でもかといって手を抜くのは……と悩んでしまう。

 勉強ができるって素晴らしいことだけど、それで目立つのは困るのだ。


 私はこれ以上注目を浴びる前に退散することにした。

 逃げるが勝ち、だ。



 テストが終わり、1週間くらい経ったあと、蓮見から連絡が来た。

 どうやら美咲様とご対面できる日が決まったようだ。

 その日は気合いを入れなきゃ!憧れの美咲様とお話ができるのだ。ばっちりお洒落して、良い印象を持ってもらいたい。

 私はその日に会わせてエステと美容院の予約を取った。

 ああ、今からその日が楽しみだ。




 ついにこの日がやってきた。

 私はついに美咲様とご対面するのだ。

 仲良くなれるだろうか。上手く話せるだろうか。

 待ち合わせはこの間、蓮見と会議をした喫茶店である。

 私は緊張しつつ、店に入る。

 この前と同じように優しそうな店主さんが出迎えてくれて、この前と同じ席に案内してくれた。

 蓮見も美咲様もまだ来ていないようだ。

 とりあえず私は席につく。

 鞄から鏡を取りだし髪のみだれがないか確認する。

 よし。ばっちりだ。

 そのまま私は姿勢良く待機をした。



 いまだに誰も来ない。

 もう30分くらいは待っている気がする。

 最初のうちはそわそわしていたが、待ち合わせ時間から10分くらい経った時点で不安になってきた。

 私、時間間違えた?

 携帯を取りだし、待ち合わせ場所と時間を確認するが合ってる。

 私は首をかしげつつも、じっと待機する。

 それから5分くらい経った時、蓮見から連絡がきた。


『緊急事態発生。もう少しかかる』


 ……緊急事態って、なに。

 何が起こったのだ、蓮見よ。

 私はお待ちしております、と返信し、店のメニューを開く。

 揃ってから頼もうと思っていたけど、遅れるなら先に飲み物を頼んでしまおう。することないし。飲みながらのんびり待とうではないか。


 メニューを開いて、ドリンクメニューを確認する。

 どうしようかな、カフェオレにしようかな。

 でもこの間飲んだ紅茶も美味しかったし、蓮見がおすすめと言ったコーヒーも気になる。

 うんうん悩んだ結果、カフェオレを頼むことにした。私は優柔不断なのだ。すんなりメニューを選べない人種なのだ。


 私は今度は軽食のメニューも見てみる。

 頼む気はないが、暇潰しだ。

 あ、エッグベネディクトがある。私、エッグベネディクト好きなんだよねー。

 フレンチトーストも、サンドウィッチも美味しそう。

 そして私は、禁断のスイーツメニューを見てしまった。


 ケーキの種類が豊富だ。

 ショートケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキ、シフォンケーキ、ガトーショコラ、タルト……やばい、よだれでそう。

 プリンや焼き菓子セットなるものまてある。

 ……食べたい。私は洋菓子が大好きなのだ。

 和菓子も好きだけど、洋菓子の方が好きだ。

 特にケーキが大好きだ。

 5号くらいのホールケーキなら一人で食べきれる自信がある。もしかしたら6号もいけるかもしれない。

 ああ、ケーキが食べたい。

 でも我慢だ。ここは優雅にカフェオレを飲みながら美咲様たちを待つべきなのだ。


 私はすっと手をあげ、店主さんに注文をする。


「すみません、カフェオレとこの焼き菓子セットをください」

「カフェオレと焼き菓子セットでございますね。畏まりました、少々お待ちくださいませ」


 店主さんはにっこりを笑って一礼をすると、奥に入っていく。



 なにやってんだ、私!!

 カフェオレだけって決めてたでしょ!

 なに焼き菓子セットなんて頼んでるんだ!


 無意識ってこわい。でもどうせ頼むならケーキにすればよかったのに。なにやってんだ、私。

 私は一人で反省会を開いていると、カフェオレと焼き菓子セットが運ばれてきた。


 焼き菓子セットは数種類のクッキーと一口サイズのマドレーヌとカップケーキが1つずつのセットだった。

 とうやらマドレーヌとカップケーキは日替わりで違う物に変わるらしい。

 私はパクりとクッキーを頬張る。

 美味しい。

 私は1人寂しいティータイムを過ごした。



 蓮見が来たのは約束の時間から1時間過ぎた頃だった。


「遅くなってごめん」

「いいのです。蓮見様にもご都合があるのでしょうし。私は全然、全く、何にも、気にしてませんわ」

「………気にしてるだろ」

「気にしてません」

「だから、悪かったって……」

「ですから私は気にしてません」

「…………」


 私はつーんとそっぽを向く。

 結局、ドリンクで悩んだ物は全部頼んで飲み干した。

 お陰でお腹はがぼがぼだ。

 今日はワンピースを着てきて良かった。

 スカートやズボンだったら、お腹がパンパンで苦しかったに違いない。


「ところで、美咲様はどうされました?」

「……あぁ、美咲は、来れなくなった」

「え……?」


 美咲様が、来れなくなった、だと……?

 それじゃあ私、なんのためにここに来たの。

 私はショックのあまりに放心していると、蓮見に手を引っ張られた。


「ほら、行くぞ」

「え?」


 私がぼんやりしていると、蓮見は私を立ち上がらせて手を掴んだまま、歩き出す。

 何がなんだかわからないまま、蓮見は勝手にお会計を済ませてそのまま外に向かって歩き出した。


「あのっ……お会計……!」

「気にしなくていい。待たせた詫びだと思って」

「でも……」

「とにかく行くぞ」


 蓮見はぐんぐんと進んで行く。

 蓮見と私では歩幅が違うので私は小走りになる。

 車の通りが多い道に出ると蓮見はタクシーを止めて乗り込む。

 私が躊躇していると「早く乗って」と手を引っ張られ、乗り込むはめになった。

 蓮見が運転手さんに場所を告げるとタクシーは発車した。



「あの……何処に行くのですか?」

「美咲のところ」

「美咲様の……?」

「緊急事態なんだよ……」

「まさか……美咲様になにか?」


 私は嫌な予感がして、蓮見の顔を覗く。

 蓮見は少し疲れた顔をしていた。


「いや、美咲はなんともない」

「じゃあ緊急事態って……」

「昴だよ」

「……はい?」

「昴が、突然やってきて……『美味しいスイーツを食べに行こう』って美咲を誘いにきた」

「はあ……それで?」

「美咲はもちろん断った。人と会う約束をしているから、と。そしたら昴が『じゃあその人も一緒にスイーツを食べにいけばいい』と言い出した」


 私は遠い目をした。

 だいたい理解した。

 つまり、蓮見が遅れたのは王子を説得させるのに時間がかかったからで、美咲様が来れなくなったのは王子が原因で。


 ……あの野郎……!


 私は本気で王子をぶん殴りたいと思った。

 できることなら、今履いているヒールで殴りたい。





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