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クライマックスです。

2話連続更新です。

 年が明ければ3学期が始まる。

 3学期は登校日が少ない。

 まともに登校するのは1月くらいで、2月中旬くらいからは授業もなく、学校に来るだけ、という日が多くなる。

 1月は行く、2月は逃げる、3月は去ると言うように、あっと言う間に学年末テストの日になった。

 私はこれまで勉強してきたこと全部を出し切った。

 これで泣くも笑うも最後。

 あとは結果を待つだけだ。

 やるだけのことはやったし、どんな結果になろうと後悔はない。



 テストの結果発表の日がやってきた。

 私はドキドキと高鳴る胸を両手でぎゅっと押さえつつ、貼り出された順位表を見つめた。

 そして結果は―――――



 1位 神楽木凛花

 2位 蓮見奏祐

 3位 東條昴



 私は信じられなくて、何度も何度も順位表を確認した。

 何回確認しても順位は変わらない。


 そこへ、ちょうど蓮見とヘタレと飛鳥がやって来た。

 そして結果を見る。


「ほう……とうとうやったな、神楽木」

「おめでとう、神楽木さん。念願が叶って良かったね」

「は、はい……!ありがとうございます」


 私はへこりと二人に頭を下げる。

 とても嬉しい。

 ヘタレの言った通り、念願が叶ったのだ。


「……………」


 蓮見はただじっと順位表を見つめている。

 そんな蓮見を私はうずうずとして見る。

 ああ、言いたい。

 念願のあの台詞を言いたい。


「……何か言いたそうだね?」


 蓮見がじろりと私を見る。

 いつもならビビるが、今の私はそれも笑顔でスルーできる。


 いつ言うか?今でしょ!


「1位ではなくて残念したわね、蓮見様?ごめんあそばせ」


 私はドヤ顔でキメて言った。

 ああ、念願が叶った……!テスト勉強頑張った甲斐があった。

 ふふふ、なんだかとても幸せだ。

 ニヤニヤしている私に、蓮見が一瞬悔しそうな顔をしたが、すぐにいつもの無表情に戻る。


「……良かったね、俺に勝てて。おめでとう」


 フンと鼻で笑って、余裕な表情をして蓮見は言う。

 なんだろう。勝ったはずなのに、謎の敗北感がある。

 蓮見が泣いて悔しがる姿を見ることができなかったからだろうか。

 泣いて悔しがる蓮見の姿なんて想像つかないけれど。

 まあ、なにはともあれ、私は蓮見に勝てて満足である。

 最後の最後で勝てて、本当に良かった。




 それぞれの進路が決まった3月。

 みんな希望通りの学部への進学が決まった。

 これで私たちは来月から大学生である。


 私たちは卒業式の予行練習をしている。

 卒業生代表の言葉は、生徒会長だった飛鳥が言う。

 飛鳥は答辞の内容に頭を抱えているようだ。

 そんな飛鳥を励ましつつ、私たちは最後の高校生活を楽しんだ。

 白のこの制服を着れるのもあとわずか。

 そう思うと、とても名残惜しい。

 ああ、そうか。みんなの制服姿を見れるのもあとわずかなのか。

 そう思うととても寂しく思う。

 この慣れ親しんだ教室も、あと少しで入ることができなくなる。

 今こうしてみんなで雑談しているこの様子も、あと少しで見れなくなる。

 わかっていたことだけど、卒業式の日が近づくにつれ、寂しさが増す。



「……あともう少しなのね。とても寂しいわね……」

「ええ、そうね……」

「ねえ、凛花。卒業しても、また一緒にお茶をしたり、ご飯を食べに行ったりしましょうね?」

「ええ、もちろんよ。美咲と一緒に買い物だってしたいわ」

「ふふ、約束、ね?」

「ええ、約束よ」


 私と美咲様は小指を絡ませて、約束をした。

 美咲様との友情が、卒業してからもずっと続きますように、と願いを込めて。



 そして迎えた卒業式―――


 私たち、卒業生は胸のポケットに花を飾り、卒業式に参加した。

 3年間の思い出がたくさん詰まったこの校舎ともこれでお別れ。

 そう思うと涙が込み上げてくる。

 だけど泣くのはまだ早い。


「卒業生代表、飛鳥冬磨」

「はい」


 飛鳥がきりっと返事をし、きびきびとした動作で歩く。

 そして壇上に上がり、答辞を読み上げる。

 1年生の頃の思い出、2年生の頃の思い出、そして3年生の思い出……。

 飛鳥が読む答辞の内容に合わせて、私の中でも3年間の思い出が蘇る。



 入学したてのあの頃、私はこの学校に入学するのが嫌で嫌で仕方なかった。

 漫画の話通りの高校生活になると思っていた。

 私が必死に抵抗した結果、私は蓮見に出会った。

 本来なら、東條(ヒーロー)と出会うべきシーンで蓮見と出会った。

 今考えれば、あの時からもうすでに、私は蓮見に惚れることが決まっていたのかもしれない。

 蓮見とは、いろいろあった。

 喧嘩したり、お世話になったり、からかわれたり。

 まだ恋なんてしてなかったあの頃は、とても楽しかった。

 漫画の通りになんてなるものかと思って、頑張って抵抗し続けた1年生の間。

 その成果が出て、1年の間では東條(ヒーロー)との接触を避けることができた。


 でも2年生では結局、東條(ヒーロー)に出会ってしまって。

 東條(ヒーロー)と蓮見から告白されて。色々悩んだ1年間だった。

 その分、1年がとても濃厚だった。

 ハプニングも多々あったけれど。

 そう、例えば東條(ヒーロー)がヘタレ化したりだとか。

 カイトが転入してきたりだとか。

 劇で蓮見とキスしちゃったりだとか。

 そしてなにより、一番大きな変化は、私が蓮見に恋をしていると自覚したことだろう。

 あの時は苦しかった。

 苦しかったけれど、でもその苦しみは必要だったのだと今は思う。

 その苦しみがあったからこそ、私は認めることができたのだから。


 そして3年。

 3年ではいじめられたりもしたけれど、今ではただの思い出だ。

 思い出すとまだ嫌な気持ちになるが、いつか笑って話せる日が来るだろう。

 カイトの気持ちを知って、お別れをした年でもある。

 この1年では、きっとみんな前に進むことができたと思う。

 カイトも、橘さんも、私も。


 そして、今日は新しい一歩へ踏み出す日でもあるのだ。



「……皆様がたのご活躍とご健勝をお祈りし、答辞の言葉とさせて頂きます。卒業生代表、飛鳥冬磨」


 飛鳥が答辞の言葉を読み終わると、あちこちから拍手が沸き起こる。

 私も拍手をする。

 さっと辺りを見れば、涙を浮かべている子もいた。

 飛鳥が答辞の書かれた紙をたたみ、校長先生へ渡したあと、壇上から降りる。

 その姿がとても凛々しく感じた。


 そして卒業式が終わり、式場から退場すると、私たちは教室へそのまま戻る。

 しばらくして、珍しくしっかりとスーツを着込んだ伏見が教室に入って来た。


「ほら、席に着け。最後のHRだ。最後くらい、しっかりやってやるよ」


 相変わらずダルそうだが、恰好が恰好なのでそれでもちゃんとしているように見えるのが不思議だ。


「なんつーか……俺こういうの苦手なんだよなぁ……。まあ、とにかく卒業おめでとう。これでおまえらも今日から一人前だ」


 伏見はポリポリと頭をかきながら教室中を見渡す。


「少し前まで真新しい制服着込んだヒヨッコだったのに、もう卒業か……時間の流れは早いなぁ、おじさんになるわけだ。おまえらもダラダラしてると俺みたくなるから、俺みたくならないように気を付けろよ?よし、最後に出席をとる」


 伏見はクラスメイトの名前を1人ずつ読み上げる。

 みんなハッキリと返事をする。

 そして最後の一人。


「―――矢吹カイト」


 教室中がしん、とする。

 当然だ。カイトは日本(ここ)にはいないのだから。


「まぁ、ここにはいないが、あいつもクラスメイトだったんだ。気分くらいは一緒に卒業してやってくれ。改めて言うぞ。卒業おめでとう。おまえら、元気でな!たまには遊びに来いよ!」


 伏見はニカっと笑って最後を締めくくった。

 なんとも伏見らしい終わり方。

 私たちのクラスは、笑顔でHRを終えた。




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