表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/152

106

 とうとう2学期が終わる。

 結局、2学期の間に打倒蓮見の目標を達成することはできなかった。

 あともう少し、といったところで蓮見に届かない。

 とても悔しい。

 もう3学期の学期末テストに賭けるしかない。

 死ぬ気で頑張ろう、と私は誓った。



 そして待ちに待ったクリスマスパーティーである。

 新しく新調してもらったドレスを着込み、私はドキドキしながら蓮見を待つ。

 何回も鏡を覗いて全身をチェックする。

 うん、どこもおかしくないはず。

 ドレスは母の見立てだし、メイクはプロにやって頂いたので完璧だ。

 私がそわそわしていると、スーツをしっかり着込んだ弟がひょっこりと顔を出した。


「姉さん、なにそわそわしてるの?」

「そわそわなんてしてないわ」

「……ふーん?」

「本当なのよ?」

「………あ、あれ蓮見さんちの車かな?」

「えっ」


 弟が窓を覗き込んで言った。

 私は思わず窓に駆け寄って確かめる。

 しかし、車なんてどこにもない。

 弟の方を見ると、弟はニヤリと笑った。


「嘘」

「~~~っ!悠斗!!」

「本当に引っかかるなんてね……」

「もうっ、悠斗ったら!姉をからかうんじゃありません!」

「はいはい。ごめんなさい、おねえさま?」

「悠斗!」


 弟はペロっと舌を出す。

 なんて小憎たらしいのだろう。


「……からかうくらい許してほしいな。本当ならオレが姉さんをエスコートしたのに」


 少し不貞腐れたように言う弟に、私は瞬きをした。

 そしてにやける。


「まあ。ふふ……私を蓮見様に取られて嫉妬しているのね?」

「…………」


 弟は何も言わずにふいっと私から顔を背けた。

 その行動が、私の言ったことが正しいと物語っている。

 なんて可愛いのだろう!

 さっきまで小憎たらしいと思っていたけれど、今はその小憎たらしい態度すら可愛いと思ってしまう。


「可愛い……私の弟が、とても可愛いわ」

「……だから可愛いって言われても嬉しくないんだってば……」

「でも可愛いのだもの。悠斗、大好きよ」


 私はぎゅっと弟を抱きしめる。

 弟は戸惑った顔をしていたが、それでも私にされるがままだ。


「……ダンス、オレと踊ってね?」

「もちろんよ。しっかりリードしてね?」

「うん。任せてよ」


 弟はにっこりと笑う。

 どうやらご機嫌が直ったようだ。良かった、良かった。

 ちょうどその時、使用人さんたちが私を呼びにやって来た。

 どうやら蓮見がやってきたようである。

 私は弟と一緒に玄関先に向かう。


 蓮見は珍しく前髪を上げていた。

 去年の文化祭ぶりのオールバック姿に私の心臓が大暴れする。

 残念なことに今年の文化祭ではオールバックをしてくれなかったのだ。

 私は、静まれ、静まるのだ、我が心臓、と内心で唱えながら優雅に微笑み、暴れる心臓の手綱をとる。

 ああ、やっぱり私は蓮見のオールバックに弱い。


 グレーのスーツをしっかり着込んだ蓮見が、私を見て微笑む。

 オールバックにした蓮見の微笑みの破壊力がとてつもないので、いきなり微笑むのはやめてほしい。心臓が破裂しそうである。

 しかしそんなことは表情にはおくびにも出さず、私は挨拶をする。


「ごきげんよう、蓮見様。わざわざお出迎え、ありがとうございます」

「いや……こちらから誘ったんだし、迎えに行くのが当たり前だろ」


 私と蓮見が会話をしていると、弟が間に割って入ってきた。


「こんばんは、蓮見さん」

「あ、ああ。こんばんは」

「今日は姉をエスコートしてくださるそうですね。オレがエスコートできないばかりに、ご迷惑をかけてすみません」

「いや、迷惑では……」

「オレがエスコートできれば良かったんですが……申し訳ありませんが、オレの代わりに姉をよろしくお願いします」

「ああ……」

「姉さん、蓮見さんに迷惑をかけないようにね。あと、足を踏まないように」

「わかってます。……もう、子供じゃないのだから……」


 弟は蓮見にヘコリと頭を下げるとすぐに私の方を向き、注意を促す。

 まるで私が子供みたいだ。

 そんな弟の態度に私は少し拗ねる。

 そして蓮見の方に近づいていく。


「蓮見様、もう行きましょう。早くしないと時間が」

「そうだね。行こうか」


 私は差し出された蓮見の腕を取り、歩き出そうとした。

 しかし、一度後ろを振り返り、弟に微笑む。


「悠斗、またあとでね」

「うん、またあとで」


 弟はにっこりと笑う。

 私は笑顔の弟に見送られながら、蓮見の車に乗り込んだ。

 私が最初に乗って、そのあとに蓮見が乗る。

 蓮見が乗ると車のドアが閉められ、運転手さんが運転席に座る。

 なんとなく落ち着かなくて、私はそわそわしてしまう。

 人の家の車は慣れない。


「緊張している?」

「ええ……少し、落ち着かなくて」

「へえ。君も緊張するんだね」

「当たり前ですわ」


 蓮見は私をなんだと思っているんだ。

 人並みに緊張くらいするぞ。


 そんなことを言っているうちに、車が走り出す。

 私は窓の外の景色を眺める。

 蓮見も私も話さないので車の中は静かだ。

 しかし、その沈黙に私は耐えられなくなる。

 口から出たのは、ずっと気になっていたことだった。


「……あの。橘さんと一緒でなくて、良かったのですか?」

「姫樺に、『今年は違う方と参加しますので、奏祐様も私以外の誰かを誘ってくださいな』って先に言われたんだよ……」

「まあ、橘さんが」


 気まずいのかな?そうかもしれない。

 振られた相手と一緒にクリスマスパーティーに参加するのは、今の橘さんにはつらいのだろう。


「だからって訳ではないけど、君が一緒に来てくれて助かった」

「いえ、そんな……私もちょうど相手がいませんでしたし……お互いさまですわ」


 私がそう言った時、車が静かに止まり、会場に着いたことを知らせる。

 蓮見が車から降り私が続くと、蓮見が手を差し出す。


「お手をどうぞ、お嬢様?」


 悪戯っ子のような顔をして、蓮見が言う。

 蓮見らしくない、少し無理をしたような表情。

 そんな蓮見の表情に私は瞬きを数回して、ぷっと噴き出す。


「ふふっ……ありがとうございます」


 私は蓮見の手を取り、車から降りた。

 しかし、私の笑いは収まらない。

 クスクスと笑い続ける私に、蓮見がむっとした表情を浮かべる。


「そんなに可笑しかった?」

「ええ……だって、蓮見様がそんな顔をされるなんて思わなくて……ふふ」

「………ほら、行くよ。通行の邪魔になる」

「はい」


 不貞腐れた蓮見に促されて私たちは歩き出す。

 私は蓮見にエスコートをされ、会場に足を踏み入れた。

 会場に一歩足を踏み入れると、痛いほどの視線を感じる。

 さすが蓮見だなあ、と私は感心した。

 蓮見はそんな視線をものともせず、堂々と歩く。

 ホールの中心に差し掛かったところで、ダンスが始まる時間になったようだ。

 蓮見は足を止めて、私の方を振り向く。


「……踊る?」

「え?あ、あの……私、ダンスがあまり得意ではありませんの。なので、もしかしたら足を踏んでしまうかもしれませんけれど、それでもよろしいなら……」


 自分で言ってて恥ずかしくなって、私は俯く。

 蓮見はフッ笑って、私と向かい合った。


「大丈夫、ちゃんと避けるから。だから、俺と踊って」

「あ……ええ、喜んで」


 私はドキドキしながら、蓮見の手を取った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ