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今回少し短めです。

※少し書き足しました(12/6)

 文化祭が終わり、私たち3年生は生徒会を引退した。

 弟を始め、2年生の子たちと新しく生徒会に入った1年生の子たちとの引継ぎを済ませ、彼らに後を託す。

 無事に生徒会長に当選した弟がこれから中心となって生徒会を回していく。

 私たちのいない、新生徒会が成立をした。

 それが少し寂しいような、とても誇らしく思うような、とても複雑な心境だ。

 しかし私たちにできることはもうなにもない。

 弟たちに後を任せるしかないのだ。

 私たちは最後に、今までありがとう、と言って、慣れ親しんだ生徒会室を後にした。




 そして、私たちは本格的に受験モードに入っていった。

 私の成績なら希望の学部に入れるだろうとは言われているが、気は抜かない。

 私が調子に乗ると碌なことが起こらないのは体験済みだからだ。

 しかし勉強ばかりでは疲れてしまうのも確かである。

 疲れた時に食べたい物、と言ったらやっぱり甘味だろう。


「と、言うわけで、今日はなにを作ってくださったのですか?」

「………」

「………」


 にこにこと私が笑顔で蓮見と飛鳥を見つめる。

 そう、甘味と言ったらこの二人。

 私のパティシエと和菓子職人の出番だ。

 しかし二人はじと目で私を見ている。


「……君の甘味への愛情は歪みないな」

「呆れを通り越して尊敬するよ……」

「やだ。褒めてもなにもでませんよ?」

「「褒めてない」」


 飛鳥と蓮見が見事にハモる。

 そんなに声を合わせて否定しなくてもいいのに。


「第一、俺たちはもう生徒会役員ではないのだから、お菓子の持ち込みは本来禁止なんだぞ?」

「まあ、飛鳥君。そう固い事をおっしゃらずに。校則は守られるべきものですが、それを破ることができるのは今だけですのよ?」

「……本当に、君は……ああ言えばこう言う」

「お褒めの言葉、どうもありがとうございます。そう言いつつも、お二人とも作って来てくださったのでしょう?」


 私が期待を込めて二人を見つめると、蓮見と飛鳥は顔を見合わせてため息をついた。

 ……そんな反応しなくてもいいじゃないの。


「……はぁ。俺はモンブランを作って来た」

「俺は芋ようかんを作ってみた」

「まぁ!モンブランに芋ようかんですか!秋の味覚ですねぇ!」


 私のテンションは急上昇である。

 栗もさつまいもも大好きだ。

 秋の食べ物は基本的に全部好きだ。

 だって、美味しいんだもの!食欲の秋とも言うしね!


 テンションが上がった私を、蓮見と飛鳥が顔を見合わせて笑う。

 そんな二人のことなんて気にせず、私は早速お菓子を頂くことにした。

 まずはモンブランを一口。

 食べた瞬間に広がる栗の甘みに私は思わず笑顔になる。

 しっとりとした柔らかい栗の甘みがとてもちょうどよい。

 まさに秋のお菓子という感じだ。

 一口だけのつもりがあっと言う間に一個平らげてしまった。

 それくらい、美味しかった。


 次に芋ようかんを頂くことにした。

 実は私、和菓子の中で芋ようかんが一番好きだ。

 秋になったら必ず芋ようかんを食べている。芋ようかんを食べなければ秋が始まった気がしないくらい、芋ようかんが大好きだ。

 しかもこれは飛鳥お手製の芋ようかんだ。美味しいことは間違いない。

 ぱくり、と芋ようかんを口に含む。

 ほくほくとした芋の食感を残し、さつまいも本来の甘さが口いっぱいに広がった。

 ああこれだ。これぞ芋ようかん……!

 私はパクパクと芋ようかんを食べる。

 だが、私は大切なことを失念していた。

 モンブランも芋ようかんも口の中の水分を持っていかれるお菓子だ。

 つまり。


「ゴホッ……い、芋ようかんが……のどに……!」

「はい、お茶」


 すかさず蓮見が紙パックのお茶を私に渡してくれる。

 しかもストローまでさしてくれた。なんて優しい。

 私はお礼を言う暇もなくお茶を飲む。

 そして喉につまったものが取れてから、一息をついてお礼を言う。


「ありがとうございます、蓮見様。助かりました」

「こうなるんじゃないかと用意しておいて正解だったよ……」

「本当に神楽木は期待を裏切らないな」


 うんうん、と飛鳥は感心したように言った。

 ……その期待って良い意味じゃないですよね?

 しかし、期待通りの事をしてしまった自覚があるので文句が言えないのが悲しい。

 私は話を逸らすべく、クリスマスパーティーの話題を出す。


「そういえば、始まりましたわね。クリスマスパーティーのエントリー。お二人とも、今年はどうなさいますの?」

「俺は……考え中だな。誘う相手もいないしなぁ……」

「飛鳥くんならお相手はたくさんいるのではなくって?」

「それを言うなら蓮見の方がたくさんいるんじゃないか?」

「俺に振るの……?」


 蓮見が戸惑ったように言う。

 飛鳥がなにかアイコンタクトを蓮見に送っている。

 ん?なんだろう?


「蓮見様は、今年はどなたと参加されますの?今年も橘さんと?」

「あ…いや……」


 蓮見がらしくなく、はっきりしない答えを返す。

 蓮見は橘さんと参加しないんだ……。

 そのことに少しほっとしている自分に気づいて、嫌になる。

 私は、少し期待していたのだ。蓮見が誘ってくれないかと。

 そんな都合のいいことあるわけがないのに。


 あ、でも今年は弟が生徒会長になったから、弟とは一緒に参加できない。

 となると、私も飛鳥と同じく相手がいない、ということになる。

 参加したいんだけどな……いっそのこと、私から飛鳥を誘うか……?


 私がそんなことを考えていると、蓮見が意を決したように、私の名を呼ぶ。


「神楽木」

「なんですか?」

「その……クリスマスパーティーなんだけど……」

「えっ……」


 私の心臓がどきりと飛び跳ねる。

 もしかして。もしかして、これは。

 でもそんな。そんな都合のいいことがあるのだろうか?


「良かったら、クリスマスパーティー、俺と参加してくれない……?」


 あった。

 そんな都合のいいことあったよ……。


 少し弱気に私を誘う蓮見に、私の心臓が早鐘を打つ。

 どうしよう。すごく、嬉しい。


「あの……私で、よろしいのですか……?」

「君がいいんだ」


 きっぱりと答える蓮見に、どうしようもなく胸が高鳴る。

 嬉しすぎて、どうにかなってしまいそう。


「……私でよろしいのでしたら、一緒に参加してあげますわ」


 なんでそんな偉そうなの、私。

 嬉しすぎて普段の蓮見の口調が移ったのか?

 しかし蓮見はそんな私の口調なんて気にせず、嬉しそうな顔をした。

 蓮見のその顔に、私の胸がきゅん、と音を立てる。


「ありがとう」

「い、いえ……よろしくお願い致しますわ」

「こちらこそ」


 私たちのそんな会話を静かに聞いていた飛鳥が、ポン、と蓮見の肩に手を置く。


「良かったな、蓮見?」

「……なんか癪に障るけど、まあ、礼は言っておく。ありがとう」

「俺がなにもしてないさ」


 飛鳥が爽やかに笑う。

 私は男同士の謎のやり取りに首を傾げた。



 ああ、クリスマスパーティーが楽しみだ。

 そうだ。ドレスを新しいのを買ってもらおう。

 母に頼めば喜んで買ってくれるはずだ。

 ついでにアクセサリーも揃えて貰おうかな?


 私は一足早く、クリスマスパーティーの日に、想いを馳せた。






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