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噂とわたし

 ラクガン子爵と共にガスタの街に戻った翌日。

 わたしが宿で本を読んいると宿屋の女将さんから来客を告げられました。

 宿のロビーで待っていると聴き、部屋を出ます。

 階段を降りてロビーに向かうとシルバさんが待っていました。


「お休みのところをお邪魔して申し訳ありません」

「いえいえ、それでどうかされたのですか?」


 シルバさんがわざわざわたしに会いにきたので、始めはミッシェル様に何か有ったのかと思いましたが、それにしては落ち着いています。

 なんの用事で来たのでしょう?


「実はユウ様に治療を依頼したいと言う貴族がいらしてまして、どうか話だけでも聞いていただけないかと」

「貴族ですか……面倒な方ではないのですよね?」

「はい。

 ラクガン子爵様は善政を敷き、民から多くの支持を得られている方で御座います」

「ラクガン子爵?」

「はい。今回、ユウ様に治療を依頼したいと、当主ご本人がガスタの街に来られています」

「もしかして昨日の朝、街に着いた貴族ですか?」

「はい。ご存知でしたか?」

「ええ、ガナから帰る途中に会いました。

 そこから少しの間だけ護衛をして帰って来たんです」

「ああ! この街に来るときに強い冒険者と出会い、護衛をして貰ったとおっしゃってましたが、あれはユウ様の事でしたか」

「多分そうですね。

 まぁ、そう言う事ならお会いしましょう。

 知らない仲では有りませんし」

「お願い致します」


 わたしは席を立ち、歩き出そうとした所で、シルバさんに1つ尋ねてみた。


「ところで、何でわざわざ子爵家の当主本人が危険を冒してまでこの街にやって来たのですか?

 普通は部下を遣わしたり、フレイド様に手紙を送るなりすると思うのですか?」


 今までわたしに絡んで来たのは貴族の部下やこの街に住んでいる貴族ばかりでした。

 他の街から当主が危険を承知で辺境であるガスタの街にやって来るとは驚きです。

 

「それは……その……」


 珍しくシルバさんが歯切れの悪い返事をしています。


「実は……ですね。今、貴族の間ではユウ様に関する情報が噂として出回っているのですが……」


 なかなか嫌な話を聞きました。

 まさかわたしの情報が貴族の間で噂になっているとは。

 

「その噂の中に、ユウ様はとても気難しく貴族嫌いだと……」

「まぁ、当たらずも遠からずってところですね」

「そして、貴族を見ると大斧を振り回し、生き血を啜り、一角兎の角を見ると恐怖し、空を飛んで逃げて行く凄腕の薬師だと言う噂が流れているのです」

「どんな薬師ですか!」

「今、王都では貴族の間で一角兎の角を使った装飾品を身に付けるのが流行っているそうです」

「口裂け女ですか、わたしは!」

「流石にそんな噂を本気で信じている訳では有りませんが、気難しい人物であろうと考えたラクガン子爵様は交渉の為、当主ご本人がガスタの街まで危険を冒してやって来られたのです」

「分かりました。

 わざわざ来てくれたのですからできる限り力になりますよ」

「ありがとうございます。

 では、表に馬車を用意しておりますので、辺境伯家にてお話をお聞き下さい。

 交渉の場にはフレイド様も同席なさいます」

「分かりました」


 わたしはシルバさんが用意してくれた馬車に乗り、最近行き慣れてきた無骨な辺境伯家の邸宅に向かうのでした。

 

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