◆大賢者イナミ
その日の夜、わたし達は王都のブラン伯爵邸でお世話になっていました。
大賢者は『今度、ゆっくり話そう』と言い残してランスさんを連れて姿を消してしまいました。
わたしとヴァルさんは傷を簡単に治療すると、第一王子を捕らえたアルさん達と合流しました。
それからのゴタゴタはギルバートさん達、この国の貴族の問題なのでわたしはノータッチです。
コゼットさんの家族も無事救出され、事情を把握した国王が家の再興を約束してくれたそうです。
あと、国王と言えば体調を崩していたそうですが、どうも毒を盛られていたようです。
少しずつ弱らせる毒ので、解毒薬を飲みこれから毒を摂取しないように気を付ければ問題なく復調すると思います。
毒を盛った本人は魔族と言うことになっていますが、第一王子と婚約者には手引きをした疑いが掛けられているようです。
因みにランスさんが暴れて破壊した街は魔族のせいと言うことで決着しました。
わたしは嘘は吐いていませんよ。
ギルバートさん達が勝手に勘違いしたので訂正しなかっただけです。
これからこの国は大きく混乱するでしょうが、そこはそれ。第一王子の不始末として頑張って貰いましょう。
わたしの仕事は終わったので、数日後にはアルさんを連れてガスタに帰るとしましょう。
「ふぁ〜あ」
そろそろ寝ようかなっとベッドに向かおうとした時です。
窓をコンコンと叩く音が聞こえました。
見ると1匹のカラスがくちばしで窓ガラスを叩いています。
「カラス?」
ガチャリと窓を開けるとカラスは飛び立ち、わたしを誘う様に何度もこちらをふりむきます。
「ふむぅ」
わたしは夜天のローブを羽織ると、窓から身を翻しました。
カラスを追って幾つかの建物の屋根を飛び移ります。
するとカラスは一際大きな教会の屋根の上で待っていた人物の腕に止まりました。
「おや、こんな時間に奇遇だな」
「乙女の部屋に使い魔を遣しておいて奇遇もなにもないでしょう」
「はっはっは。それもそうか」
大賢者イナミはそう言って笑ったのです。
「さて先ずは確認ですが……イナミさん、日本人ですよね?」
「ああ、そうだぞ」
イナミさんは意外とあっさり認めました。
「俺は勇者と一緒にこの世界に召喚されたんだ」
「ほぅ、とてもそんなご老体には見えませんね」
「色々あってな。不老不死として悠久の時を過ごしているって訳さ」
「不老不死ですか……」
永遠の若さ、永遠の命、それらに憧れが無い訳ではありませんが、物語とかで不老不死になって幸せになりましたって奴はなかなか見かけませんね。
「まぁ、それで有り余る時間を適当に過ごしていたら今では『大賢者様』さ」
イナミさんが苦笑します。
「大賢者様は良いのですが……ランスさん、彼に一体何が有ったのですか?
だった数年で到達出来るような強さでは有りませんでしたよ。
アレではまるで……」
「まるでチートのようだ、か?」
「…………」
「確かにチートと言えなくも無い。
だが、アイツの力は紛れもなくアイツ自身の努力によって得たものだ」
「…………どう言う事ですか?」
チートではあるが努力の成果でもある。
意味がよく分からない話です。
「少なくとも俺やお前の様に神様からポンっと貰った力では無いって事さ」
「よく分かりませんね」
「俺やお前の強さの根底に有るのは神に貰った才能や能力だろ?
勿論、その才能や能力を伸ばし使いこなすには相応の努力が必要だ。
だが、高い下駄を履かされている事には違いない」
わたしは同意します。
そうですね。
確かにこの世界に来る時に膨大な魔力や召喚魔法、薬師としての才能や精神的な強さ、戦闘技術など、色々と底上げして貰いました。
「ランスさんは違うと?」
イナミさんはゆっくりと頷きました。
「ああ、アイツはな……精霊界へ行ったんだ」




