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薬師のユウさん、大斧担いで自由に生きる  作者: はぐれメタボ
第二章《暗躍する魔族》
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◇悪役?令嬢

「貴様との婚約は破棄する!衛兵!この女を捕らえよ!」


 その日、ゼラブル王国の王宮で行われていたパーティーの会場にそんな声が響き渡った。


 招待された貴族達がざわめくなか、会場の警備に当たっていた衛兵達が騒ぎの中心地へと向かい、戸惑いながらも1人の少女を拘束していた。


 少女の名はユーフラジー・レオパルト。

 美しい白い髪と雪の様な白い肌を持つ雪豹族の少女ユーフラジーはレオパルト公爵家の令嬢であり、王太子である第一王子ジャヴェール・ライオネルの婚約者である。

 いや、婚約だったと言うべきだろうか。

 ユーフラジーは王立学院の卒業を祝うパーティーの席で、婚約者であるジャヴェールに婚約の破棄を言い渡されたのだ。


 突然、衛兵に拘束され唖然とするユーフラジーにジャヴェールが冷たい視線を向けながら告げる。


「貴様は醜い嫉妬にかられエポニーヌ嬢を害そうとした。その行いは最早許容すること事はできない!」


 そう言うジャヴェールの周囲には宰相の嫡男、騎士団長の次男、伯爵家の嫡男、王宮魔導師長の弟など、国の次代を担う壮々たる顔触れが集まり、ジャヴェールと同様の視線をユーフラジーへと向けていた。


 そして彼等に庇われる様に立つのは赤毛に猫の耳と尻尾を持つ少女エポニーヌだった。


 エポニーヌ嬢はテナルディエ男爵家の令嬢なのだが、その生い立ちには少々特殊な事情がある。

 ユーフラジーも詳しい事は知らないが、お家の事情から庶民として育ち、学院への入学を機にテナルディエ男爵家へと迎えられたらしい。


 それ故エポニーヌ嬢はよく言えば奔放、悪く言うなら貴族的な常識に欠ける令嬢だった。

 他者との距離感が近く、婚約者の居る殿方に近付きトラブルになる事も多かった。


 初めは皆、彼女を冷ややかに見ていた。

 しかし、いつの間にか彼女の周りには地位や実力のある殿方が多く集まり始めていた。


 コレはいけない、とユーフラジーは何度もジャヴェールを諫め、エポニーヌ嬢へ貴族の常識を説いた。


 だがその甲斐なくエポニーヌ嬢は多くの殿方との仲を深めていった。

 その矢先に今回の婚約破棄騒動が起こったのだ。


「連れて行け」


 ジャヴェールが冷たく言い捨てるとユーフラジーは衛兵に引きづられる様にパーティー会場から連れ出されて行った。


 そしてユーフラジーは見たのだ。

 全ての視線がユーフラジーに注がれている中、エポニーヌ嬢がニヤリと醜悪に笑む所を。





「どう言う事だ!」


 王都にある屋敷の自室で本を読んでいた私の耳に怒声が聞こえて来た。

 我がレオパルト公爵家の当主たるお父様の声だ。


 私は慌てて本を置くと、急いで父の元へと向かった。


「お父様、如何されたのですか⁉︎」


 部屋に入るとお父様は普段の柔和な表情からはかけ離れた、怒りを押し込めた様な表情をしていた。

 隣に座るお母様も大粒の涙を流している。


 この状況の原因となる情報を持ってきたと思われる公爵家に仕える男性も2人の前で鎮痛な面持ちで項垂れていた。


「お父様……一体何が……」

「…………コゼット」


 私は驚愕の事実を告げられた。

 私の姉であるユーフラジーお姉様が婚約者であるジャヴェール王太子殿下の暗殺を謀ったとして投獄されたと言うのだ。


「そんな!何かの間違いです!お姉様がそんな事をする訳が有りません!」

「あぁ、当然だ。私はこれから登城して国王陛下とお話して……」

「失礼致します!」


 お父様の話を遮る様に男性が部屋に飛び込んで来た。

 彼も公爵家に仕えてくれている者だ。


「お館様、大変です!当家が王家への反逆を企てているとして王太子殿下が兵を集めております!」

「なんだと⁉︎」


 お父様は椅子を倒して立ち上がると血が滲むほど唇を噛み締めて、絞り出す様に口を開いた。


「………………コゼット、よく聞きなさい。

 我々はこれから王太子殿下を迎える。

 おそらく拘束され城に連れて行かれるだろう。

 私はそこで陛下に申し開きをする。

 ちゃんと調べれば陛下は我々の無実を理解してくださるだろう。

 だが……だが、もしもと言う事もある。

 だからお前はすぐに裏口から逃げなさい」


 お父様は真剣な眼差しでそう言った。

『もしも』とは言ってはいるが、その目は何が確信している様な気がした。


「ですが……」

「さぁ、話している時間は無い。

 直ぐに着替えて家を出るんだ。

 お前なら1人でもしばらく身を隠すことが出来るだろう」

「お父様⁉︎」

「ラルーエット、コゼットを」

「はい、旦那様。お嬢様こちらへ!」

「ちょ、ちょっと!ラル!」


 私は侍女のラルーエットに地味な服に着替えさせられると裏口に連れて行かれた。

 屋敷の正面は既に騒がしくなり始めている。


「さぁお嬢様、お早く!」


 私はラルーエットに押し出される様に裏口から屋敷の外に出された。


「此処にも直ぐに人が来ます。お急ぎください」

「ならラルも……」

「そこで何をしている!」


 裏庭から回って来たのだろう。

 屋敷の方から騎士らしき鎧の男がこちらへと向かって来た。


「ここは私が何とかします。お嬢様はお逃げ下さい」

「おい、そこの侍女!動くんじゃ無い!」


 周囲は薄暗く、騎士にはラルーエットしか見えていない様だった。

 ラルーエットは騎士に見えない様に、『早く行けと』手振りで示す。


 一瞬の間の後、私は走り出した。

 持ち出せたのは護身用の短剣と僅かなお金だけ。

 だが、お淑やかなお姉様と違って、私はよく使用人の子供達と屋敷を抜け出しては街へ遊びに出ていたりした。

 その為お父様も私なら外に出ても大丈夫だと判断したのだろう。


 私は闇に紛れる様に見回りの兵士達の目を盗み走り、王都の端にあるスラム街へとたどり着いた。


 ここなら兵士達の目も少ない。

 私はしばらく身を潜めて状況を見定める事にした。




 私がスラムに居着いてから10日程、何とか漏れ聞こえてくる情報を整理していたのだが、とうとう決定的な話を聞く事になった。


 レオパルト公爵家の取り潰しの噂だ。


 お父様とお母様、そしてお姉様は反逆罪として有罪になった。

 数年程投獄された後、大々的に処刑されるらしい。


 現国王陛下は最近体調を崩していて来年にもジャヴェール殿下に王位を譲るだろうと言う話だったはずだ。

 そのタイミングで反逆を謀った罪人を処刑して貴族の引き締めをするつもりなのだろう。


 私自身も王国中に手配書が回っており、スラムを巡回する兵士も増えた。

 何とかしなければいけないが、どうすれば良いのかも分からなかった。

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