小者とわたし
「これで手続きは終了です。
この許可証を店内の目に付く所に置いて下さい」
「ありがとうございます」
わたしは許可証を受け取ります。
王都の商業ギルドでの申請はあっさりと終わりました。
さて、どうしたものでしょうか?
メイさんに頼まれた届け物も渡しましたし、今日は学院は普通に授業があるのでマーリンさん達は授業中です。
社交シーズンの為王都に滞在している筈のフレイド様も今回は連絡を入れて居ません。
いきなり訪ねるのは失礼ですね。
今日はもう帰りましょうか?
わたしは早速王都から出る為に門の列に並びます。
王都の滞在時間、約3時間です。
外に出ると他の人を驚かさないようにシリウスに乗って少し王都から離れてからオリオンを呼びます。
空に舞い上がって数時間、街道が何だか騒がしい気がします。
王都から辺境に向かう街道と別の方角に向かう街道に分かれる辺りです。
辺境に向かう街道ではない方の街道から剣戟の音や叫び声が聞こえますね。
「オリオン」
「キュー」
ちょっと寄り道する事にしました。
街道の上を飛ぶ事数分、盗賊に襲われている馬車を見つけました。
よく見かける光景です。
護衛らしき、4人の冒険者が応戦していますが、盗賊の方が数が多いですね。
わたしは手助けする事にしました。
4人の冒険者の内の1人に見覚えがあったからです。
2年前にガナの街で一緒にゴブリン討伐戦に参加した治癒魔法使いのティナさんです。
「キュキュー!」
オリオンのサンダーブレスで盗賊の半分が消し飛び、わたしも着地と同時に2人を叩き切ります。
「え⁉︎ ユウちゃん!」
「お久しぶりですね、ティナさん。
お元気でしたか?」
「何だ!敵か⁉︎」
「誰ですか⁉︎」
槍を持った男性と剣と大盾を持った女性がこちらを見て驚きの声を上げます。
ティナさんのパーティメンバーでしょうか?
「大丈夫!味方よ!…………味方よね?」
「はい、味方ですよ」
わたしはティナさん達に手を貸し、盗賊共を殲滅し始めたのです。
「ふう、終わったかしら?」
「まだですよ、林に4人隠れています。
おそらく、後詰兼荷物運びでしょう」
「まだ、4人もいるのか」
「わたしが潰して来ます。
この場の始末をお願いしますね」
わたしはティナさん達に盗賊の死体の始末を頼み、林の中に駆け込みました。
林の中、少し開けた場所に4人の薄汚い服を纏った男たちが隠れていました。
そして、男たちの側には奪った馬車を改造したのか、手作り風の台車が有ります。
わたしの出現に驚いている盗賊共ですが、わたしもその盗賊を見て驚いて居ます。
わたしは慌てる盗賊共を無視して盗賊の内の1人に話し掛けます。
「まさかそこまで堕ちているとは思いませんでした。
せめてもの情けです。
降伏するなら犯罪奴隷として衛兵に引き渡すだけで勘弁してあげますよ?」
「だ、黙れ! 貴様が!貴様が居なければこんな事に!」
「全て身から出たサビでしょう」
「黙れ!子爵家後継の俺にそんな口を利いて良いと思っているのか!」
「いえ、今の貴方は薄汚い盗賊ですよ」
「だ、黙れ!黙れ!黙れ!黙れぇぇえ!」
見る影もなく落ちぶれたランスロットさんが叫びます。
「おい、嬢ちゃん、俺たちを無視するとは余裕じゃねぇか」
盗賊の1人がわたしに斬りかかって来ましたが、雷鳴の鉈で軽く受け止めます。
「貴方こそ、わたしを相手に忠告なんて随分と余裕が有るのですね?」
「な⁉︎」
盗賊をいくつかのブロックに切り分けると同時に烈風の斧を2本連続で投擲しました。
烈風の斧は狙い通り、ランスロットさんの隣にいた盗賊2人に命中し、斧に纏わり付いていた風が盗賊をズタボロに引き裂きます。
「ひっ!」
隣に立っていたランスロットさんは飛び散った盗賊の血を浴び、全身を赤に染めました。
ガクガクと震えるランスロットさんの左目の下辺りをナイフがかすめ、背後の木に深々と突き刺さりました。
「さぁ、ランスロットさん。
これが最後の忠告です。
その盗賊共と同じように死ぬか、犯罪奴隷として罪を償い生きるか。選んで下さい」
「あ、あ、あぁぁあ!」
お?
ランスロットさんが背を向けて逃げ出しました。
しかし残念。そっちは崖です。
とても高い崖の下には凄い勢いの川が流れており、その先は滝です。
落ちれば命はないでしょう。
つまり、そっちに逃げても助からないのです。
わたしはゆっくり歩いてランスロットさんを追い詰め投降を促します。
わたしとて人間です。
一応、知らない人でもない彼を問答無用で殺すのは忍び無いと思います。
まぁ、どうしてもダメなら殺しますが。
「ひっひっ来るなぁぁあ!」
ランスロットさんは崖の縁で叫んで居ます。
わたしは足を止め、尋ねます。
「投降しないのですね?」
「うるさい!死ね!死ね!死……っ!」
狂ったように叫ぶランスロットさんでしたが、不意に言葉を止めて自分の胸に突き立ったナイフをポカンとした顔で見つめます。
「ランスロットさん、最後くらいは元貴族らしく潔く死んでは如何ですか?」
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!
なんで俺がこんな目に!
痛い、痛い……全て、ごほっ!全て貴様の所為だ!貴様のせっ!」
「あ!」
ガラガラガラ!!!
「あぁぁぁぁあ!」
哀れランスロットさんは最後の言葉も全て言えないまま、脆くなっていた崖から足を踏み外してしまいました。
天罰でしょうか?
いえ、あの神様はいちいちそんな事をしないですね。
ランスロットさんの悪事よりアイドルの選抜発表の方が神様にとっては重大でしょうし……
となるとやはりこれは偶然ですか。
盗賊として討伐される事もなく事故死とは情け無いにも程がありますね。
最後まで小者でしたね。
「まぁ、どうでもいいですね」
わたしはティナさん達が待つ街道に戻る事にしたのでした。




