剣帝とわたし
「はっはっは、『剣帝』か。
そう呼ばれるのは久し振りじゃな。
しかし、わしはもう一線を退いた老いぼれよぉ。
畏る必要はないぞ、シグナムとでも呼んでくれ」
「は、はい。シグナム様。
えっと、そ、れで……」
「ん? ああ、済まぬ、済まぬ。
特にこれと言った用は無いのだよ。
たまたま、中庭にお主の姿が見えたのでな。ひ孫を救ってくれた礼を、と思っての」
「そうでしたか。
ダイン公爵様にもお伝えしましたが、わたしの力だけでは無く、治癒魔法使いさんやガボンさんの力も大きかったのですよ」
「うむ、勿論それは心得ておるよ。
彼らの尽力無くしてはルクスの命は既に無いであろう。
しかし、お主が居なければジリ貧となっていたことも事実じゃ。
謙虚は美徳ではあるが、己の功績はきちんと誇るべきじゃよ」
「功績を誇る……ですか。
そうですね、その言葉を心に留めておく事にします」
「ほっほっほ。さて、本当なら明日、ハイランドの奴が褒美を取らせてから渡すつもりだったのだが……折角ここで会ったのだからな、お主にコレを受け取って欲しい」
「コレは……」
シグナム様がマジックバッグから取り出したのは、わたしの水龍の戦斧よりも一回り小さな斧でした。
銀色の刃と金色の柄の美しい斧には繊細な装飾がされています。
「実戦用の武器ではありませんね」
「そうじゃ、その斧は言わば装飾品、インテリアの類いじゃ。
しかし、ただの飾りでは無い」
「確かに……マジックアイテム……じゃ無いですね。
でも、何か力の様な物を感じます」
「ほう、なかなか鋭いではないか、その斧は依り代……器みたいな物じゃよ。
精霊の加護を得る為のな。
斧の銘は『ピースフル』精霊の加護を受けておる」
おお、なんだかよく分かりませんが、なんとなく凄そうです。
「精霊の加護とは何ですか?」
「精霊の加護には様々な効果があり一概には言えないが、この斧の効果は、家を守ると言う効果じゃ」
「家を守る?」
随分とアバウトな効果です。
「精霊の加護はマジックアイテムの様に魔力を込めたら効果が発動すると言う訳ではない。
この世界の至る所に満ちる精霊によって様々な力を得る事が出来る物じゃ」
「よく分かりませんね?」
「はっはっは、無理に理解しようとしてもしょうがないわい。
わしも完全に理解している訳ではないからな。
まぁ、御守りの様な物じゃよ。
家に飾って置くと良い」
御守り……ですか。
「しかし、わたしは宿屋暮らしです。
家は有りませんよ」
「ん? そうなのか? まぁ、お主の実力なら、その内家を持つ事もあるじゃろう。
それまでは持っていれば良い。
少々デカくて邪魔かも知れぬが、お主のアイテムボックスなら問題あるまいて」
「そうですね、マジックバッグと違って容量とかを気にしなくても良いですし………………え⁉︎ な、なんで……」
「はっはっは、やはりお主は『ニホンジン』だったか」
「し、シグナム様……貴方は一体?」
「わしは正真正銘、この世界の人間じゃよ。
なに、黒髪に黒目、彫りの浅い顔立ち、小柄な体格そして、目立つ行動、ニホンジンは実に分かりやすい」
何故日本人について知っているのでしょうか?
一応、敵対はしていないので構いませんが、あまり言いふらされたくは無いです。
するとシグナム様は手品のタネを明かす様に説明してくれました。
「なに、そこまで驚く事はない。
ただ、わしはかつてニホンジンと会った事があるのじゃ。
異世界からやって来たニホンジン、『勇者』ヒロシ・サトーとな」
ある程度予想はしていましたが、500年前に邪神を封印した勇者は、矢張り日本人だった様です。




