噴水とわたし
「もう、問題有りませんね。完治ですよ」
検査薬に血液を流し込んだ試験管を軽く揺らし反応を確認したわたしは、ベッドで横になり安静にしているルクスさんと、ベッドの周りにいるダイン公爵夫婦や皇帝陛下に告げます。
「そうか、ご苦労だった。
君には約束通り、働きに相応しい報酬を払おう。
高き釣鐘と堅固な水門の件も含めてな」
「ご存知でしたか」
「うむ、この国のイザコザに巻き込んでしまって済まなかったな、赦せ」
「それもこれも依頼の内ですからね。
報酬に期待するとしましょう」
「ははは、報酬は明日渡せる様にしておこう。
楽しみにしておくと良い」
皇帝陛下は足取りも軽く部屋を出て行かれました。
わたしも一旦、退出しましょう。
ルクスさんも家族と過ごしたいでしょう。
「では、わたしも少し休ませて貰いますね」
「ああユウ殿、この度は大変世話になった」
「ありがとうございます、ユウ様」
「わたしだけの力では有りませんよ。
わたしが帝国に来るまで交代で治癒魔法をかけ続けた魔法使いさんや、宮廷薬師長のガボンさん達のお陰ですよ」
「ふふ、謙虚だな、商人ならここぞとばかりに恩を売るだろうに」
「わたしは商人ではなく冒険者ですからね」
「ユウさん」
検査の為、薬で眠って貰っていたルクスさんも目が覚めた様です。
「気分は如何ですか?」
「気分ですか……少し、ぼーっとしますが痛みや苦しみは有りません」
「ぼーっとするのは薬の効果がまだ少し残っているからですね。
もう少しすれば頭もハッキリとして来ますよ」
「そうですか……ユウさん、ありがとうございます」
「はい、では後はご家族で……」
そう言い残しわたしは部屋を出て行きました。
さて、何をしましょうかね?
充てがわれた部屋に戻っても良いのですが、まだ寝るには日が高いです。
当てもなく城の中をぶらぶらと歩いていると中庭に出ました。
色とりどりの花が植えられています。
わたしにはよく分かりませんが花の色なども計算されて植えられているのでしょう……多分。
花畑の中央には3メートルくらいはある大きな噴水があります。
もし、現代日本だったなら観光名所になっていたでしょう。
ベンチに座って花に囲まれながら噴水の水飛沫が生み出した虹を眺めます。
「…………………………」
今です!
今、わたし、すごく絵になってます!
たまたま通りかかった宮廷画家とかにモデルになって欲しいと頼まれたりしたら如何しましょうか?
「今日は、お嬢さん」
「⁉︎」
な、まさか本当に⁉︎
「おや、済まないね。
驚かしてしまったかい?」
振り向いたわたしの視界に入って来たのはお爺さんでした。
華美ではないですが非常に上質な服を着ていることから恐らく高貴な身分の方でしょう。
皺だらけで老木の様な身体に似合わず、背筋はピンと伸びていて、声からはいたずら好きの少年の様な雰囲気を感じます。
そして、老人の耳はエルフ程ではないですが人間に比べると明らかに尖っています。
「失礼致しました。
お目にかかれて光栄です、剣帝様」
まさか、なんの前振りも無く、勇者と共に邪神を封印した英雄であり、グリント帝国初代皇帝、『剣帝』シグナム・フォン・グリント様と会う事になるとは予想外でした。




