血溜まりとわたし
背後からの斬撃を躱し、すれ違いざまに腰の辺りを両断します。
自分の体が上下に分割された事に驚愕の表情を浮かべる男の襟首を掴み、左側から迫って来ていた剣を構えた2人に男の上半身を投げ付けます。
向かって左に居た男は咄嗟に後ろに跳び、右に居た男は上半身男を手にしていた剣で斬りはらいました。
しかし、上半身男を斬りはらった時に血飛沫を受けてしまった様で、目を瞑っています。
「それは悪手ですよ」
「な⁉︎ がはっ」
水龍の戦斧で右肩から左脇腹に掛けて袈裟懸けに切り裂かれた男が崩れ落ちる前に、わたしは上半身を後ろに逸らしました。
数瞬前、わたしの上半身が有った場所に槍の突きが放たれます。
なかなか鋭い突きですね。
しかし、当たらなければどうという事は有りません。
槍が引き戻される前に柄を掴んだわたしは、数秒だけ身体強化を使うと槍を持った男ごと、先ほど後ろに飛んで上半身男を避けた男に叩きつけました。
血みどろになって転がって行く2人を無視して、奪った槍を魔法の詠唱していた男に投擲しまします。
投げ付けた槍は詠唱に集中していた男を壁に縫い付けました。
「がはっ……ぐぅ……【ファイアー……ランス】」
男が瀕死の状態で魔法放ちます。
わたしは魔法と挟み撃ちにする様に駆け込んで来た男の足を水龍の戦斧の柄で払うと、男の胸ぐらを掴み魔法の方に掲げました。
ドゴッ!
「がぁぁあ‼︎」
暗殺者の男の献身的な行動でわたしは無傷です。
これで暗殺者は残り5人、そしてその5人の内、リーダーと思われる男を含めて3人はそれなりに強そうな感じがします。
そもそも、暗殺者は戦士では有りません。
暗殺者の利点は認識の外からの一撃必殺です。
襲撃を仕掛けたわたしと正面から戦ってしまった時点でわたしが有利なのです。
その中に有ってその3人はそれなりの強さを持っている様です。
投擲されたナイフ(毒付き)を受け止めて投げ返します。
投擲した男はナイフを躱されると予想していたのでしょう。バランスを崩した処を攻撃しようとナイフを構えてこちらに駆け寄ろうとしていました。
重心を前に倒していた為、わたしが投げ返したナイフを避けられず、首の下辺りに毒付きナイフが突き刺さりました。
口から泡を吹きながら全身を痙攣させている男を短剣を持った男に目掛けて蹴り飛ばしますと同時に、左右からタイミングを合わせて切り掛かって来た男達の剣を屈んで避けます。
顔がそっくりです。
双子でしょうか?
水龍の戦斧を雷鳴の鉈と烈風の斧に持ち替えると双子Aに烈風の斧を投げつけ、双子Bに雷鳴の鉈で切りかかります。
双子Aは、烈風の斧を躱しましたがすぐ後ろに居た短剣を持った男が先ほどの蹴り飛ばした泡吹き男の体当たりでバランスを崩していた為、烈風の斧の餌食になりした。
これであと3人。
双子Bは、雷鳴の鉈を剣で受け止めますが雷鳴の鉈の雷でダメージを受けます。
双子Bにトドメを刺そうとしたのですが、鉈を振り上げたまま素早く上に跳び上がります。
わたしの足を狙った暗殺者リーダーの薙ぎ払いを避ける事が出来ました。
体勢を立て直した双子Bが連続で突きを繰り出して来ます。
わたしは雷鳴の鉈を左下から右肩に掛けて切り上げます。
双子Bはガードしようとするのですが、わたしが無詠唱で打ち出したウォーターボールに依ってタイミングをズラされた双子Bを雷鳴の鉈で斬り裂きます。
「貴様ぁぁあ!」
双子Aが激怒しながら斬りかかって来ますが、怒りに任せた斬撃など当たるはずが有りません。
「落ち着け、シュウ!」
「ああぁぁあ!」
双子Aは暗殺者リーダーの声も無視してこちらに突っ込んで来ます。
「ごふっ!」
怒りに支配され、隙だらけのボディに【アイスボール】を打ち込みます。
腹からの衝撃にたたらを踏んだ双子Aを水龍の戦斧で縦に両断してやりました。
「はぁ、はぁ、マジかよ……」
あまり広くはないこの空間には、非常に濃い血の匂いが充満しています。
床には巨大な血溜まりができ、歩くたびにピチャ、ピチャと音がしました。
「さて、後は貴方だけですよ。
覚悟は出来ましたか?」
「ま、まて、俺は高き釣鐘の幹部だぞ。
俺を殺れば高き釣鐘を敵に回す事になるんだぞ」
バカが何か喚いていますね。
ヒュッ
「ぎゃぁぁあ!」
水龍の戦斧を一振りし、柄で暗殺者リーダーの頭を打ち据えます。
「高き釣鐘を敵にまわす?
どうやら何か勘違いをしている様ですね。
わたしが高き釣鐘を敵に回してしまったのでは有りませんよ。
高き釣鐘がわたしを敵に回してしまったのです。
まぁ、どちらにしても貴方には関係有りませんよ。
今から死ぬ貴方には……」
「う……ぐ……なっ」
唖然としている暗殺者リーダー改め、高き釣鐘の幹部に水龍の戦斧を振り下ろそうとした時でした。
「その辺にして貰えないか?」
おっと、危ないですね。
いつの間にか部屋の入り口に男が1人立って居ました。
殺気が無かったので気付きませんでした。
「何者ですか?」
「俺はバラン。そこのバカと同じ高き釣鐘の幹部の1人だ」
「つまり、援軍ですか。面倒ですね」
バランと名乗った男は戦闘力の面では、明らかにこっちのバカ幹部より格上です。
「いや、俺は君と敵対するつもりは無い。
それに、君と戦って勝てると思うほど無謀でも無い」
「では、何故現れたのですか?」
「その男を引き渡して欲しい。
その男は高き釣鐘を裏切り、違法薬物の規制を強めようとしていたルクス・フォン・ダインの首を手土産に堅固な水門に寝返ろうとしていたのだ。
俺はボスの命令でその男を確保しに来た」
「なっ……うぐぅ」
「その必要は有りませんよ、このバカは今ここで処分します」
「そこを曲げて頼む、勿論最後にはその男は処分されるが、こちらも組織としてケジメをつける必要がある」
「ひっ!」
「わたしの知った事では有りませんね」
「そ、そそそうだ!おい、漆黒、俺を殺せ、あのガキを切り刻んだのは俺だ、殺せ!」
「何を急に……そんなにケジメとやらが嫌なのですか?
今、ここで殺される以上に?」
「当然だな、組織を抜けようとしただけなら指の数本で済んだ話だが、今回はボスの逆鱗に触れている。
なぁ、アレス。ボスはお怒りだぞ。
苦労して宮廷に潜り込ませた暗殺者を勝手に動かした事や、多くの暗殺者を無駄死にさせた事にも怒っているが、何より掟を破った事にお怒りだ。覚悟しておくと良い」
「ひっひっひっ……あ、あぁぁ!」
バカ幹部改めアレスは手にしていた剣を自分の喉に当て切り裂こうとしたのでわたしはアレスの腕を切り落とし、助けてあげます。
しかし、このままでは出血で死にますね。
ポーションで傷口だけ塞いでおきます。
感謝して欲しいです。
「どうやらよほどボスの怒りとやらが恐ろしい様ですね。
良いでしょう持って行って下さい」
「済まないな、コレはウチのボスからの見舞金だ、このバカにやられたガキがいる孤児院に渡してくれ」
バランが投げて寄越した硬貨を受け取ります。
白金貨です。
「分かりました。
渡しておきましょう」
「嫌だ! 離せ! おい漆黒、俺を殺せ、頼む!」
「では、わたしは帰ります」
「ああ、迷惑を掛けたな」
「まったくです」
わたしはアレスをバランに渡して眠らされているアリスを連れて孤児院に戻るのでした。




