乱入とわたし
ワイバーンの群れに襲われている飛空船を観察します。
もしかしたら軽く撃退するかも知れません。
襲われたばかりなのか、飛空船の甲板にはまだ負傷者の姿無く、揃いの鎧を着けた騎士達が魔法や弓で応戦しています。
飛空船はほぼ全て国の所有物なので、乗り込んでいるのが騎士ならば、多分あの飛空船は国の物ですね。
この辺りは国営の定期飛空船の航路から外れている筈ですから、何かの物資の運搬をしているのかも知れません。
そもそも、ワイバーンは群れる魔物では無かったはずです。
あのワイバーンの群れは誰かが使役しているのでしょう。
国の飛空船なら狙っている国や組織も多いに違いありません。
さて、飛空船の防衛している騎士達ですが、かなり苦戦している様ですね。
空が飛べると言うのはそれだけで大きなアドバンテージです。
騎士の練達の剣技も上空のワイバーンには届かず、魔法や弓矢で攻撃するしかありません。
騎士からは大した攻撃ができず、ワイバーンからは一方的にブレスを浴びせられる状況です。
飛空船の甲板にはワイバーンのブレスや鉤爪、尻尾の毒棘によって戦闘不能になり倒れる騎士達が増えてきました。
撃退出来そうなら関わりたくありませんでしたが、このままでは騎士達が全滅してしまいますね。
「あまり面倒な事にならないと良いのですが…………オリオン、行きますよ!」
「ギュッ!」
オリオンがスピードを上げて、ワイバーンの群れに近づくと、わたしは呪文を詠唱します。
「貫け 凍てつく槍 【アイスランス】」
手始めに氷の槍8本を1番近いワイバーンに向けて放ちました。
「落ちろ蚊トンボ、です!」
「ギガァ!」
流石にアイスランスで最下級とは言え竜種であるワイバーンを落とす事は出来ませんでした。
ですが飛空船を襲っていたワイバーン達の注意を引く事はできました。
作戦通りです………………本当ですよ?
飛空船の甲板にはすでに2頭のワイバーンが降り立っています。
1頭はなかなか強い騎士を中心に、連携を取って抑え込んでいます。
しかし、もう1頭は周りにいた数人の騎士を尻尾で薙ぎ払い、足を痛めたのか這いつくばったまま逃げようとする騎士に鋭い牙を向けています。
「オリオン、此処は任せます!」
「キュー」
わたしはオリオンの背中から船の甲板を目指して飛び降りました。
「グルルゥ!!」
空中に居るわたしに大きな口を開けたワイバーンが迫ります。
「行きがけの駄賃です」
水龍の戦斧に2層の魔力を纏わせ、ワイバーンの体を転がる様に切り裂きます。
胴体をズタズタに切り裂かれたワイバーンは下の森に落ちて行きました。
後で回収出来るでしょうか?
甲板に降り立ったわたしは、先ほどの危機的状況の騎士に向かって駆け出します。
もう1頭のワイバーンを倒した騎士が倒れている仲間に駆けよろうとしていますが、アレでは間に合いません。
わたしは身体強化を使い騎士とワイバーンの間に身体を滑り込ませ、水龍の戦斧と双斧を入れ替えると、大口開けている間抜けなワイバーンに痛烈な連撃を加えます。
「ギィイ!!」
ワイバーンが反射的に後ろに下がったところに水龍の戦斧に持ち替え、3層の魔力を纏った斬撃をお見舞いします。
魔力の層を纏った水龍の戦斧は強靭な鱗を断ち切り、ワイバーンの首を落としました。
「ヘインズ! 無事か!」
「う、ぐっだ、団長」
わたしの後ろでは、倒れていた騎士を団長と呼ばれた騎士が助け起こしています。
「負傷者を船内に移動させろ!」
「はっ!」
仲間の騎士に肩をかり、倒れていた騎士が船内に移動します。
「くそ! 次から次に‼︎」
指示を出し終えた団長さんの前に新たなワイバーンが降りたちます。
そして、わたしの前にもワイバーンが降りたちました。
それも2頭です。
その内1頭は降り立った瞬間の一瞬の隙を逃さず、縦に真っ二つにしました。
やはり、自分がする分には真っ二つは良いものです。
次の1頭の鉤爪を捌いていると、同じく鉤爪を捌きながら団長さんがこちらに話しかけてきました。
「君は何者だ⁉︎」
「通りすがりの冒険者です」
「とお……まぁ良い! かなりの強者とお見受けした。
このまま助力を願えるだろうか?」
「わたしは安く有りませんよ?」
「無論、相応の報酬は支払う」
「ありがとうございます。
あと、サンダーバードは、わたしの従魔です。攻撃しないで下さい」
「本当か⁉︎ 了解した。
おい! サンダーバードは友軍だ‼︎攻撃するな‼︎」
「「「り、了解!」」」
飛空船の周りのワイバーンは次々とオリオンの餌食となり、甲板に降り立ったワイバーンはわたしの戦斧の露となりました。
そして、わたしの乱入から10分ほどで20頭のワイバーンを討伐する事が出来ました。
「はぁはぁ、す、済まない、君の助力に感謝する」
「いえいえ、報酬を約束して貰いましたからね。これもお仕事です」
「今回は高貴な方を乗せていたからな。
この船にもしもの事があると大変な事になるところだったんだ」
「その言い方だと私が面倒な客の様に聞こえるわよ?」
そう言って、団長さんの後ろにある船室に続くドアから出てきたのは、美しい金髪をセミロングにした美人と無表情ではあるがこちらも十分に顔立ちの整ったメイド服の女性でした。
金髪の美人さんはレイピアを、メイドさんはショートソードを手にしています。
素人目に見ても、どちらも相当な業物だとわかります。
そして、持ち主の2人も相当な強者です。
この2人が居たのならわざわざわたしが乱入する必要は無かったですね。
「い、いえ、私は決してその様なつもりで発言した訳では……」
団長さんが急にあたふたとしています。
「冗談よ。ご苦労でした、一旦着陸して負傷者の手当てと飛空船の点検を行ないなさい」
「はっ!」
彼女が先ほど言っていた『高貴な方』なのでしょうか?
美人さんはわたしの方に向き直ると、団長さんへの砕けた物言いとはガラリと変わり、丁寧な言葉で話しかけて来ました。
どうやら下々の者とは話せない高貴なバカ貴族の類では無さそうです。
「冒険者様、危ないところをお助け頂きありがとうございました」
「いえいえ、報酬を頂く約束をしましたから、これはお仕事ですよ。
あ、申し遅れました。わたしはユウと言います。Bランクの冒険者です」
「お初にお目にかかりますわ。
私はミルミット王国第1王女、テスタロッサ・フォン・ミルミットでございます」
貴族ではなく王族でしたか…………




