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前に進むために

「ところで……どうしようか」


 檜村さんが少し落ち着いた顔でコーヒーを一口飲んだ。


 檜村さんの昇格のためには定着ダンジョンの攻略をしないといけない。

 ただ低階層であっても定着ダンジョンを攻略するのはリスクがある。それに、攻略できそうなダンジョンなんてものがどこにあるかもよくわからない。

 

 でも、幸いにも手伝ってくれそうな人は結構いる。

 サポートがあっても危険なことには変わりはないのだけど。

 

 三田ヶ谷やルーファさん、ライアンやセスとかも頼めば手を貸してくれそうだし、清里さんや斎会君も頼めば手助けしてくれるだろう。

 ただ、定着ダンジョン攻略で一番頼れそうな相手は伊達さんたちだ。

 冬に仙台で戦って以来だから、結構久しぶりな気がする。


 こっちに話をするなら漆師葉さんから話を通してもらうほうがスムーズな気がするから電話してみた。

 すぐにビデオ通話に漆師葉さんが出てくれたから、簡単に事情を話す。


「……ということで協力してもらえる?」

「まったく、定着ダンジョンの攻略なら真っ先にあたしたちを呼ぶべきでしょ。仙台フォレストリーフ・ウイザーズギルドをね」


 画面の向こうで漆師葉さんが芝居がかった口調で言って髪をかき上げる。

 そして、どうやら漆師葉さんにも動画は見られたっぽいな。そのおかげなのか、すんなりと話が通って助かった。


 漆師葉さんは、前に見たときと同じく、金色の縦ロールのお嬢さま風で黒の軍服風の隊服姿だ。

 どうやらいるのはギルドの事務所っぽい。今日は土曜日だけど、なにかの活動中なんだろうか。


「そのつもりで電話してる。手伝ってくれる?」

「ちょうど社長もいるからね、ちょっと待ちなさい」


 漆師葉さんが言って今度は画面に伊達さんが映った。

 ギルドのエンブレム付きのジャケットに眼鏡姿で、前と変わらない大人な雰囲気が画面後にも伝わってくる。


「久しぶりです、片岡君。高校生初の乙類4位昇格おめでとうございます。本当に素晴らしいですね」


 伊達さんが画面の向こうで一礼してくれた。

 落ち着いた話し方も前のままだけど、心なしか表情が明るい……会社が上手く行っているんだろうか


「ありがとうございます。ご無沙汰しててすみません」

「いえいえ、こちらこそ。そして檜村さんもはじめまして。仙台フォレストリーフ・ウイザーズギルドの代表、伊達です。

話は聞きました。片岡君には恩がある。勿論協力しますよ」

「ありがとうございます」

「ただ……申し訳ないんですけどお金が払えるかは分かりません。いくらくらいかかります?」


 伊達さんの会社がいくらで仕事を受けているのかしらないけれど……この間のスミスからもらった報酬で足りるだろうか。

 こうなるとお金はあった方がいい、というあの時の言葉が身に染みる。

 伊達さんが小さく笑って首を振った。 


「何を言っているんですか。ダンジョン討伐の依頼元は自治体です。今から話をまとめますが、こちらはゲストのあなたたちに報酬を払う立場ですよ。

噂の高校生4位と丙の4位が討伐に参加してくれるならわが社としても、おそらく自治体にとっても広報のネタになるからメリットがあります。安心してください」


 伊達さんが言う。

 そう言われると有難いな……でもいくらぐらいなんだろうか。


「早いほうがいいのでしょう?いま宇都宮に討伐の打診を受けているダンジョンがあります。早急に話をまとめて連絡します。その時は来てください」

「宇都宮……分かりました」


「宇都宮の定着ダンジョンは階層は7階層。系統は新宿系。7階層なら功績点もかなり大きいですから、檜村さんの昇格には足りるかと思います。

それに周囲で行方不明者が出ています。未確認ですが、ダンジョンに入っていく人を見たという情報もある。早急に討伐しなくてはいけないようですから」

「分かりました、お願いします」

「では……また今度……」


 伊達さんが話し終わるより前に、画面がまた揺れて漆師葉さんが映った。


「あたしもあの動画はみたけど、あんたが腑抜けて無くて安心したわ、片岡。

ヒーローはみんなのために戦うからヒーロー。隠居して配信者なんて魔討士の風上にも置けないわ、そうでしょ?」

「隠居して配信者にはならないよ……ヒーローなんて柄じゃないけどね」


 答えると、漆師葉さんがうなづいた後に顔をしかめた。


「何を言ってるの、あんたはヒーローじゃない、片岡」

「そうかな?」

「そうよ。仙台でのあの熊男との戦いを忘れたの?あんた、あの時は本当に格好よかったわよ」

 

 グイユウと戦ったときか。あれも今となっては懐かしい。

 彼は今どうしているのか。フェンウェイさんにプロポーズしているんだろうか 


「いい、待っていなさい。私は甲の4位になってあんたの前に立ちはだかるわ。最強のライバルとしてね。

乙の斎会とか清里とかじゃない、あたしがあんたの唯一無二の、最強のライバル。だからあんたも格好いいヒーローでいてもらわないと困るのよ」


 漆師葉さんが力強く言う。

 あの時は色々あったけど……もう大丈夫っぽいな。


「じゃあ、また今度ね。強くなったあたしをみて驚きなさい。檜村さんも会えるのを楽しみにしてるわ。よろしくね」

 

 そう言ってビデオ通話が切れた。檜村さんが小さくうなづく。

 とりあえず、やることが明確になって良かった。



 



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