その動画の影響
「ミーズーキ……まさかとは思うけど、乙類5位同盟を抜けようなんてつもりはないやろうな。4位になったから動画配信者に転身や、なんて許さへんで」
伊勢田さんと話した翌日の昼。
学校で昼ご飯を食べていたら、今度は清里さんから電話が入って、第一声がこれだった。
クラスでもなにか聞きたそうな視線を感じた。
……結構見られてるな。昨日の今日だっていうのに。
「知ってるの?」
「あいかわらずぽやっとしとんな、ミズキ。知らんわけあるかいな。
あの感じ悪い女がSNSで触れ回っとるで、片岡と自分がペアを組むとかなんとか。なんや、檜村さんと別れたんか?でも、あれはやめた方が良いと思うで」
「違う」
「ならよかったわ。児玉のにーちゃんも心配しとったで」
昨日あの後、檜村さんとは普通にメッセージをやり取りした。
どうやら檜村さんはまだあの動画を見ていないらしい。あの人はあまりSNSとかを見ないタイプっぽいからだろう。
とはいえ、見つかるのも時間の問題だ。
「とはいっても、どうしたものか」
ダンジョンの敵とかなら切り倒せばいいんだけど、SNSのインフルエンサーなるものはどう対処したらいいのか分からない。
スミスさんに頼んで対策するくらいしか思いつかないぞ。
木次谷さんに相談してみたけど、かなり初期から活動している魔法使いで、魔討士協会のスポンサーの関係者というのは事実らしい。
いつもは歯切れのいい木次谷さんがなんか言いにくそうにしていたところを見ると、結構影響力があるのも本当のようだ。
「ミズキはホンマにバトル以外はぽやっとしとんなぁ。
あれは3位だからでかい顔しとるんやろ、そんなんアンタが玄絵の姐さんと一緒に戦って姐さんを3位に上げれば問題解決やんけ」
清里さんが呆れたって感じであっさりと言った。
「姐さんなら審査通らんはずないんやから、あとはポイントだけの話やで」
楽そうに言ってくれるな……でも、それは確かにそうかもしれない。
前に木次谷さんが言っていたけど、同ランク内での序列差はない。昇格間近でも、昇格したてでも3位は3位だ。
そうすれば何の問題もないか
それに前には4位に上がるための功績点稼ぎを手伝ってもらった。次は僕の番だな。
ただ、檜村さんが3位に上がるためにはおそらく定着ダンジョンの攻略が必須になる。
そこが最大の障害だ。
◆
さすがに話さないわけにもいかなかったから、土曜日に時間をとってもらった。
昼時の新宿のチェーン系のカフェは9割がた埋まっていて、店内は明るくにぎやかだったけど、こっちは空気が重い。
机の上のコーヒーは全く減っていないまま置かれていた。
机に置かれたスマホにはあの動画が表示されている。
次の動画と、評価を促すウインドウが開いている。胡散臭いあいつの笑みが画面に映っていて鬱陶しいからアプリを閉じた。
「この動画は……知ってた」
そういって、檜村さんが何か問いかけるように僕を上目遣いで見た。
何を聞きたいかくらいはわかる。
「もちろんあんなのと組むつもりはないですよ」
そういうと檜村さんが深くため息をついてうつむいた。
心配をかけていたらしい……もっと早く言うべきだった。
あれからあいつから何度かショートメールがきているけれど、それは無視している。
……どこから電話番号が割れたんだろうか。
ただ、メッセージは無視しているけれど、動画の再生数とコメントが増え続けているから、さっさとケリをつけたほうがいい。
放っておくと多分面倒ごとが増える。
「それなら……協力してくれ、片岡君。私は3位に上がりたい」
檜村さんが意を決したって感じで言った。
騒がしい店の中だけどその声をやけによく聞こえた。
「そうすれば、あの女にも言い返せるはずだ。私だって3位だって。君にふさわしいのは私だって」
「実は同じことを考えてました。ただ……おそらく定着ダンジョンに行かないといけないので」
「そんなことは……もちろんわかってる」
わずかな間があって、うつむいたまま檜村さんが口を開いた。
「……君と離れるのは絶対に嫌だ。絶対に……それだけは」
檜村さんが静かに言って机の上に手を置いた。
僕も手を添えると、檜村さんがぎゅっと握ってきた。
「そのためなら定着ダンジョンでもどこでも行くよ」
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