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昇格後、ある日の放課後

 仕事が落ち着いたら今度は色々あって引っ越しする羽目になりました。

 ようやく新居に落ち着きました。

 

 ということで区切りまで連投します。

 お待たせしました。待っていてくれた皆さまにこころからありがとう。

「片岡君、校門のところでまたファンが待ってるよ」


 放課後、そろそろ帰ろうかと思ったけど

 ……窓の外を見たクラスメイトの室田と宮崎、それに学級委員の高木さんが教えてくれた。

 

 壁の時計は5時過ぎを刺している。

 部活に行ったか帰ったかで、がらんとした教室には僕等しか残っていない。

 室田と宮崎は部活があったはずだけど……サボりだろうか。


 窓から校門の方を見ると、確かに10人ちょっとの見覚えのない制服の男女がたむろしていた。

 女の子の方が多いだろうか……しかし、めんどくさすぎる。


 6月の頭に正式に4位になることが発表されて、何度かテレビだのネットニュースだののインタビューを受けさせられた。

 学校名とかは伏せてもらったけど、結局SNSを介してあっさりとバレて、最近はあんな風に待ち伏せされたりする。

 しばらく待っていたらいなくなるかと思ったけど、全然減る気配が無い


 ああいう風に待たれていると帰りにくい。

 ていうか、戦ってる時を見たいというならまだ分かるんだけど、僕が普通に学校に行ってる様子を見て何が楽しいのか分からない。


「4位昇格ってマジで凄いな、アイドル並みじゃん」 

「あんまり自分としては変わった気がしないんだけどね」


 これは割と正直な気持ちだ。

 ランクが上がったのは確かなんだけど、誰かに勝ったとかそういうのじゃないから今一つ変わったという実感がない。


 それこそ宗片さんから試合で一本取ったときの方が余程達成感があった。 

 あの時の、勝ちを告げられた時の高ぶりは今も覚えている。


「仕方ないだろ、高校生の乙類最強って、それこそ甲子園優勝投手とかそんなんじゃない?」

「日本一なんだから、注目されて当然だと思うが」


 室田と宮崎が気楽そうに言ってくれる。

 そうかもしれないけど、どうにも面倒なのは変わらないわけで。


「その割にはみんなはあんまり変わらないよね」

「だって4位になったとたんにキャーキャー言うの、なんかおかしいでしょ」

「突然転校してきて現れたとかなら兎も角として、今までずっといたわけだしな、今更ファンになりましたって言ってもな」


 高木さんと室田が言う。

 正直言ってクラス内でゴタつかないのは個人的には助かっている。

 気が休まるというか、気にしなくていいのはありがたい。


「あ、でもさ。サインくれない?

俺の弟に頼まれたんだわ。弟の友達が魔討士で乙の9位なんだけど、どうしてもって言われてさ。頼むわ」


 室田が鞄から色紙を取り出して言う。

 まあこのくらいはいいか



「ただ、片岡君。あなた、一年生には狙われてるわよ」


 高木さんが窓の外を見ながらからかうような口調で言う。

 グダグダ話をしているうちにそろそろ6時近いけど、校門のところの集団はまだいた……昔の漫画のように塀を乗り越えるとか、グラウンドのどこかからこっそり帰ろうか。


「ああ、それは俺も部活の後輩に聞かれたよ」

「一年生にとっては、入学してみたら上級生に魔討士高校最強の人がいるわけだからね」

「俺たちは気にしてないけど、普通にスターだぞ」


 宮崎と高木さんが言うけど。


「全然そういう感じがしないんだけどね」

「少しは自覚した方が良いぞ、片岡。高校生乙類のトップなんだからよ」


 一年生とかからはかなり珍しがられているというのは分かる。視線を感じる時もあるし、時々クラスを覗いてきている子もいる。

 放課後退魔倶楽部は随分新入部員が入ったらしく、藤村は嬉しそうだった。


「後輩の子に、片岡先輩は付き合ってる人はいないのかとかも聞かれたわよ」

「それは無理だろ。学祭であの綺麗な大学生の彼女さんも見てるしさ」

「あの間に割り込むのはちょっと大変だよな」


「ところで、あのお姉さんとは……その、どうなってるんだ?」


 室田が声を潜めて言う。

 何を言わんとしているかは分かるんだけど、それをここでどう言えというのか。

 高木さんが冷たい目で室田を見ているけれど、あまり気付いていないらしい。


 そんな話をしていると、スマホの着信音が鳴った。

 檜村さんとの連絡用に使っているアップデイツの着信音だ


『校門の前で待っている』


 ……檜村さんの短いメッセージがスマホの通知の一番上に出ていた。

 校門の前って、なんで来ているのか……何となく意図は分かる気もするけど。


 

「やあ、片岡君」


 校門のところで、いかにも大人って感じの格好の檜村さんがいた。

 いつもの魔法使いのローブを思わせるロングスカートのワンピースとは違う、黒の薄手のジャケットと細身のパンツ。


 青の細いネクタイを緩く締めていて、濃いネクタイの青色が白のシャツに映えている。

 眼鏡も縁が目立たないお洒落なやつで、いかにも大人の女性って感じだ。


 普段より背が高く見えるのはヒールが高い靴を履いているからっぽい……最近はそう言うところも何となく分かるようになってきた。

 しかし、なんか以前にも見たようなシチュエーションだな、これ。

 

 周りにいる知らない制服の女の子たちが檜村さんを見ながら何か囁き合っている。

 周りの注目を集めながら檜村さんが近づいてきて僕の手を取った。


「次の討伐はどうするか、考えないかい?

それに君の4位昇格のお祝いもまだしていない気がするから、それについても二人で話そうじゃないか」


 周りに聞こえるように、芝居がかった感じで檜村さんが眼鏡を取るけど

 なんか周りの空気が妙だ……


「やっぱりこの人が檜村さん?」

「あの魔法使いの人よね」


「凄い素敵……あの、檜村さん、写真撮らせてもらっていいですか?」

「私も魔討士で丙類なんです……9位ですけど。あのSNSとかお持ちじゃないですか?フレンド申請していいんですか?」


 僕よりも早く檜村さんがあっと言う間に女の子に囲まれた。

 

「いや……ちょっとまってくれ」


 あからさまに動揺した感じで檜村さんが一歩下がった。


「片岡さん、あの、よかったら連絡先とか教えてください」

「動画見ました。本当に格好いいですよね」

「片岡さん、俺を弟子にしてくれませんか?一緒に戦わせてください!」


 そうこうしているうちに、こっちにも何人かが寄ってきた。

 中には男の子もいる。襟の校章を見る限り中学生っぽい。 


「いこう、片岡君」


 周りを囲んでいた女の子を振り切るようにしてきた檜村さんが僕の手を取った。



 逃げるように一緒に走って、住宅街のどこかに着いたところで檜村さんが足を止めた。

 夕焼けに照らされた細目の道には誰もいなくて、周りには立派な家が立ち並んでいる。

 普段は来ない道だな……結構走った気がするけど。というか、ここは何処だろう。


「きっと君は注目されてるだろうからと思って来てみたんだが……案の定だったね」


 檜村さんがネクタイを緩めてため息をついた。

 走ったからなのか頬が上気してほんのりと赤い。


「いや、でも……結果的に檜村さんの方が目立ってませんでした?」


 一緒に長くいると感覚がマヒするけど檜村さんは丙の4位なんだから、そりゃ注目されても当然だとは思う。

 普通に上位帯だし。


「それはね……心配だったから、どうしても来たかったんだが、やれやれ……まったくこんな風になるなんて予想外だったよ」


 もう一度ため息をついて、檜村さんがジャケットの裾をつまんだ。


「ところで、その……これはどうかな?」

「似合ってます……大人っぽくていいです」


 普段の魔法使いのようなゆったりしたワンピースと違って、すらりとした感じだ。

 背もちょっと高く見える。服装で随分雰囲気が変わるな。いつも年上な感じはあるけど、いつもよりも大人っぽい。

 

 綺麗だな、とは思うけれど……こういう風なことを口に出すのはやっぱりどうにも照れ臭い。

 檜村さんがはにかむように笑みを浮かべて眼鏡を直した。

  

「うん……やっぱり君が言ってくれると嬉しいね。ちょっと頑張った甲斐があったよ」


 檜村さんが言って、僕の手を取った。

 

「さて……ちょっと予想外の展開ではあったけれど、どこかでお茶でも飲んでいかないかい?」

「そうしますか……と言いたいところですけど、またさっきみたいになるかもしれませんよ」 

「大丈夫さ、学校から離れれば気付かれないよ」

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