彼らのその先・上
あの戦いから1週間ほどしてして、スミスから連絡がきた。
魔討士協会を経て10万ドルを口座に振り込んだという連絡と、慰労会的なものを開くから、檜村さんと一緒に出てほしい、というのだった。
会場に指定されたのは四谷の小さめのイタリアンレストランだった。
木のテーブルとカウンターに白い壁、それと天井からランプのような照明が吊るされた店内は、古い映画で出てくるカフェのようなレトロな雰囲気だ。
店に行ったらすぐにテーブルに案内された。
貸し切りになっているらしく20人程は入れる店内は僕等と、ライアンたちとスミス、それに見慣れない何人かの大人たち。
席のうち4つはまだ空いているからまだだれか来るっぽい。
しばらく待っていると、4人の男の人たちがレストランに入ってきた。
ライアンやケーシーが拍手をして、スミスが大きく手を広げて4人の方に歩み寄っていく。
「よく来てくれた。怪我の具合はどうだい?」
「お陰様で……もう平気です」
誰かと思ったけど、あの時に僕の前にダンジョンに入ってライアン達を救出に行った魔討士の人たちだ。
あのダンジョンで怪我をした魔討士たちもわりとすぐに退院できたというのは聞いていた。
彼らの慰労会とかそういうのをひっくるめてのパーティってことらしい。
「改めてありがとう。君たちの勇戦に心から感謝する」
「……いや、俺達は何もできませんでしたけど?」
「なあ……だってダンジョンマスターまでたどり着けなかったし」
スミスが言って4人が顔を見合わせていた。
気まずそうな雰囲気がこっちまで伝わってくるけど。
「何を言っている。ライアンのため、チームのために戦ってくれたじゃないか。結果だけが全てじゃないさ。これからもチームOZのためによろしく頼む」
「はい」
大げさというか、感情的な口調でスミスが言って、4人の魔討士と握手してそれぞれとハグをする。
「勇気ある彼らに盛大な拍手を。
そして、カタオカ、ヒノキムラ、改めて君達に感謝するよ。まさに君達こそ真の勇者だ、本当にありがとう」
スミスがまた大袈裟な口調でいって一際大きな拍手が店内に響いた。
目の前ではライアンとケーシーが笑顔で拍手してくれている……とりあえず無事でよかった。
◆
最初のそのセレモニーっぽいものが終わったらあとは乾杯して食事会になった。
机の上には大きめの皿が並べられて、色とりどりのって感じの華やかな料理が載っている。
肉とトマトソース、それとチーズの匂いが漂っていて食欲をそそる。
僕等の近くにはライアンやケーシーたちが座っていた。
こっちのテーブルは高校生組ってことだろうか。
テーブルの向こうにはスミスやさっきの4人の魔討士たち、それと見たことが無い大人の人が何人かいた。
日本でこれだけ色々と活動するなら他にもスタッフがいるんだろうし、多分そういう人たちなんだろうな。
皿の料理の一つをフォークで刺して口に入れた。
どうやらタコらしい。歯ごたえのあって、噛むとオリーブオイルとハーブの香りがふんわりと広がった。
「しかし、俺を助けに来てくれた戦いで4位になってしまうとはね」
向かいの席でパンをかじりながらライアンが言った。
あの時の傷は大したことはなかったっぽい……とはいえ、怪我は簡単には治らないから、やせ我慢しているだけかもしれないけど。
そして、今回の討伐は僕と檜村さんだけでやったということになった。その分功績点が大きかった。
それが昇格の決め手になった……というのはあとで木次谷さんが教えてくれた。
「先を越してしまって悪いね」
「いや、それは何とかなるようだよ」
ライアンがあまり気にして無いように言う。
「というと?」
「ミスター・キジタニが外国人初の高校生5位、それと外国人最速の5位昇格と言う形でアピールしてくれることになってね。スミスとしてもスポンサーへのアピールとしては悪くないんだそうだ」
ライアンが言うけど……そんなんだったら最初から無理しなくても良かったんじゃないか、とは思った。
とはいえ、結果論だな。
◆
「ほんとうにありがとう、カタオカ」
ライアンと並んで向かいに座っているケーシーが言った。
椅子が近づけられていて、ライアンと寄り添うように座っている。
「大丈夫だった?」
ケーシーのことはライアンとは別の意味で心配だった。
正直言ってあの時ダンジョンの中まで一緒に来るとは思わなかった。
僕はもういい加減慣れたけれど、あの戦いの場の空気は初めてだとかなり怖いと思う。
しかも今回はあの知性のある蟲が相手だったし。ただ、見た感じ影響はなさそうだ。
「あの時は勢いで行ったけど……本当はものすごく怖かったし、あの後は何日か悪い夢を見たわ。でも彼を助ける力になれてよかった」
ケーシーがしみじみという。
ライアンがケーシーの肩を抱き寄せた。二人の頬が触れ合って見つめあう。
一応人前なんだけど、愛情表現が割とストレートだな。
これは文化の違いだろうか……キスでもするんじゃないかと思ったけど流石にそれは無かった。
「そういえばあの機械、あれはどういう仕組みなの?」
「ライフコアは魔素の結晶体であり電力に変換できる。なら逆も出来るんじゃないかと思って。電気を魔素に変換して放出しているの」
ケーシーがしれっというけど……良く分からない。ただ凄そうなのは分かった。
とりあえずダンジョン内で魔獣と戦える装備ってだけでかなり凄い。
「ただ、まだ電力との変換効率が悪すぎて、バッテリーの持ちが厳しいから長いダンジョンでは戦えないわ。
それに出力にもかなり問題があるし、攻撃に使うには制御的にも課題が多い。あのカマキリにもあっさりやられちゃったし」
ケーシーが悔しそうに言った。
確かに現状ではあの知性のある蟲に対抗するのは厳しいかもしれない。
「ねえ、ミズ・ヒノキムラ、あの時の魔法は本当に凄かったわ。もし機会があったら、また見せてほしい」
「その位は構わないよ」
「それにカタオカ、良かったらあなたやあなたの師匠の動作解析をさせてほしいの。日本の古武術を解析すれば、きっともっとスーツの性能も向上させられるわ」
ケーシーが言う。
前も思ったけど、遠慮が無いというか、言いたいことをズバズバと言ってくる。
研究者はこんなものなんだろうか。
「でも……やっぱりオウギは他人には見せられない?日本の武道はそういうものだって聞いたけど、イッシソウデンっていうんだっけ」
「どうかな……」
師匠は聞けばなんでも教えてくれるから、その辺はあまり気にして無い気がする。
「ところで……アナタたちは恋人同士なのよね」
僕の横に座っていたマリーサが口を挟んできた。手にはワイングラスが握られている。
ライアンと同じ高校生かと思っていたけど、この人だけは違うのかな。
「そうだよ」
ここははっきり答えた方が良いだろうと思った。
檜村さんがアピールするようにテーブルの上で僕の手に掌を重ねてくる。僕も手を握り返した。
マリーサがため息をついて首を振った。
「なんかもう……お似合い過ぎて割り込む隙が無いわ。ワンチャンあるかなーとかと思ったんだけれど……残念。アタシもカタオカみたいなステキなパートナーが欲しいわ」
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