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昇格後のある一夜

「聞いたで、ミズキ。4位昇格やってな」

「まあ……そう言うことになった」

「また定着ダンジョンを討伐したってのはSNSで見たが……昇格か。大したもんだな」


 今日は乙類5位同盟の恒例の夜の交流会。

 清里さんと斎会君の第一声がそれだった。


 あの戦いの翌日、魔討士協会の事務所で確認して貰って、正式に4位昇格が確定した。

 ただ、一応高校生初だからということで、発表はちょっと待ってからってことになった。

 でもどうやら、二人には連絡がいったらしい。

 

 魔討士協会……というか木次谷さんとかは大々的に発表したさそうだったけど、それはやめてもらった。

 どうも目立つのは居心地が悪い。


 それに、何となく一抜けしてしまうのは気まずさもある。

 特に清里さんは1番乗りにかなりこだわっていたし。

 


「ミズキ、なにをしけた顔しとるんや。高校生日本一なんやで、もっと喜ばんかい」

「そうだぞ」


 僕の気持ちを察してくれたように二人が言った。


「勘違いすんなや、ミズキならまあええわ……といいたいことろやけど、やっぱ悔しいわ……ホンマにもう。あたしはガチで最速を目指し取ったんやからな」


 清里さんが本当に悔しそうに言って髪をかき上げた。

 別に悪いことをしたわけじゃない……それでも何となく後ろめたいというか、そんな気分になってしまう。


「だけどな、悔しいのはガチでやっとった証拠だとも思うんや。

それに、それにミズキは一緒に戦った仲間やからな、嬉しい気持ちもあるんよな。まあなんちゅうか……アンビバレンツな気持ちっちゅう奴やな」

「ただ、俺も改めて気合が入ったよ。

俺よりも皆が悔しそうだったからね。今まで協力してくれた人たちのためにも、次は必ず君に勝つ」


 斎会君が画面越しにでも伝わるくらいに気迫のこもった口調で言った。

 清里さんが頷いてこっちを指さす。


「そうやで。あたしらはそんなにやわじゃないで、ミズキ。勝ったもんはふんぞり返っとれ。それが勝者の特権や。

あたしたちもちゃっちゃと追いついて高校生乙類4位同盟に看板替えんとな、ショータ」

「ああ、勿論」


 二人が言う。

 2人とも悔しくないはずはない。だから、本当はどう思っているのかは分からないけど……今はこの言葉を素直に受け取るのが先に行った側の礼儀な気がした。

 

「分かった。待ってるよ」

「それと、言っとくわ。3位到達の一番乗りはあたしが貰うからな」

「いや、次は俺だろう。5位は清里さん、4位は片岡君だからな……次は俺だ」


 斎会君がはっきりした口調で言う。

 槍を持っている時は別として普段は割と控えめな斎会君にしては珍しいセリフだ。

 清里さんがちょっと驚いたような顔をして笑みを浮かべた。

 

「ほっほーう、言うようになったやん、ショータ……でもそれがええで。あたしらを抜いてみいや」



 暫く取り留めも無く話をしていたら、もういつの間にか11時近くになっていた。

 そろそろ寝ないと寝不足で明日がしんどそうだな。

 いつの間にか家の中も静まり返っていた。皆もう寝たらしい。


「じゃあ、また今度ってことで」

「ああ、そう言えば忘れとったわ。ミズキ、ホールインワン賞って知っとるか?」

「ゴルフの?」


「そうや。でな、ホールインワンを達成したした人はパーティを開くんや」

「そうなの?」


 確かに珍しいプレーなのは知ってるけれど、そんな話は初めて聞いたな。


「何?皆で祝ってくれるの?」


 大々的に祝われるとかはちょっと面倒だけど……この三人でとかなら嬉しいぞ。


「ちゃうで、した奴が開くんや。で、皆でそれを祝うわけやな」


 画面の向こうでドヤ顔で清里さんが言う。

 意味を理解するのに少し時間がかかった


「……ホールインワンをした人がパーティを開くの?」

「そうや」

「で、皆でそれを祝うわけ?」

「そうや」


「……意味が分からない。なんでやった側がパーティするわけ?」

「美しき日本の伝統やで、知らんのかい」

「知らない」


 清里さんが言うけど、なんでそんなことを知っているんだ。

 それに、普通に考えれば、周りがお祝いしてくれるものな気がするんだけど。 


「まあ幸せのおすそ分けって感じやな。ちゅーことで、パーティ会場はそう、汐留のホテルとかええな」

「定着ダンジョンのダンジョンマスターを倒したんだから結構稼いだだろ?」


 斎会君に清里さんの悪ノリを止めてほしかったんだけど、斎会君が合いの手を入れてきた。

 どう返したものかと思ったけど、斎会君が笑みを浮かべた。清里さんが横を向いて噴き出す。

 

「冗談だよ」

「洒落や、洒落。そんなマジな顔せんでや、ミズキ。やり過ぎたわ、堪忍な」

「それはそれとして、いずれみんなでお祝いはやろう。ワリカンでね。それと、片岡君」


 そう言って二人が言葉を切る。

 部屋が静かになって、遠くの方からパトカーか何かのサイレンが聞こえた。


「昇格おめでとう、片岡君」

「本当におめでとうな、ミズキ」


 画面の向こうで二人がまっすぐにこっちを見て言った。

 どんなパーティよりも、初めての高校生4位とかそういう記録より、お金よりも胸の染みる言葉だな。


「ありがとう」



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― 新着の感想 ―
自分の祝い事で客人をもてなすのは、ある意味立場ある人間の責任みたいなもんですね。 有名人の誕生祭とかそんな感じですし、身近で言えば結婚式とかも、関係者への感謝を示す側面がありますし。 これまで大人の…
私が聞いたホールインワンのパーティは「厄落とし」だとか。 幸運を使い切ってしまったからここで厄を落としましょうという一種のタカリ。
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