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東村山ダンジョン攻略……その後

「随分早く終わってしまったが、どうするんだい?」

「どうしましょうかね」


 翌週の日曜日、今日も定着ダンジョンの討伐に来た。

 今日は東村山、そして今回も奥多摩系。ただ、ここはまだ2階層だったから割と簡単に終わった。


 今日のダンジョンは森の中の遊歩道を占拠するような場所だったからあまり騒がれなかった。

 事後処理も含めて昼頃から開始して2時にはすべて片付いた。


 駅に送ってもらってそこで解散になった。

 三田ヶ谷とルーファさんは二人でご飯を食べていくと言って、別行動になっている。

 

「しかし、本当に多いね」

 

 檜村さんが言う。

 たしかに、本当に小規模な定着ダンジョンがあちこちで現れている。


 今のところ問題になっていないのは、なんだかんだでライアンだけじゃなくて魔討士が討伐しているからだ。

 ライアンじゃないけど、功績点の稼ぎ時って感じで積極的に戦ってる人もいるらしいし。

 

 この奥多摩系の定着ダンジョンの多発は魔討士協会も問題視はしているようだけど……ダンジョンの発生には謎が多いというか、全く分からない。

 シューフェンたちが門を開けてきている以上、つながりを作る方法はあるんだろうけど。


 まあそれは僕が考えても仕方ない……というか、どうにもならないことではある。

 宗片さんの、僕等の仕事は戦うことで難しいことを考えるのは別の人の仕事、というのは案外的を射ているのかもしれないな。

 時計を見るとまだ3時ごろだ。


「どこかでお茶でも飲んでいきますか?」

「うん、そうだね。それがいいと思う。

せっかくだから吉祥寺あたりまで出てみないか?まだ時間もあるし、新しい服も少し見てみたい……せっかくだから君と一緒に」


 檜村さんが言うけど……服の買い物は長くなりがちなのは経験があるし、女性ものの服のスペースだ男には居心地が悪い。

 ……とはいえ、たまにはいいか。 



 西武国分寺線の電車は割と空いていた。半分くらい埋まった座席ではそれぞれみんながスマホを触ったり窓の外を見ている。

 国分寺までは直ぐだったはずだ。


『次は恋ケ窪……』


 車内アナウンスが流れたところで、ポケットの中のスマホから甲高い鈴のような音が鳴った。

 同時に檜村さんのスマホと、あと他に何人かのスマホからも同じタイミングで音が鳴る。


 席に座っている人たちがそれぞれスマホを見た。

 興味なさそうな表情を浮かべたり、嫌なものを見たって感じでスマホをポケットにしまったり、それぞれだ。

 

 スマホを見ると画面に黄色いラインで強調された通知が来ていた。

 魔討士アプリからの通知だ。


『定着ダンジョンへの援護要請』



「援護要請か……場所は立川だね」


 檜村さんがスマホを見ながら言う。

 討伐要請じゃなくて援護要請ということは、誰かが戦っているってことだろうか。


 檜村さんと顔を見合わせる。

 檜村さんが小さくため息をついて眼鏡の位置を直した。


「行ってみるかい?」

「そうですね」


 見なければよかったんだけど……見てしまったら放っておくわけにもいかない。

 東村山のダンジョンでは大して消耗もしてないし、国分寺で乗り換えれば立川は直ぐだ。


「まあ、着いたころには終わっているかもしれないよ」

「だといいですね」


 立川の定着ダンジョンも、多分今のと同じく新しくて階層が低いダンジョンだ。

 援護要請は他の魔討士にも行ってるはずだし、行った時点ですでに終わってる可能性も普通にある。


「立川には中国の人がやっている美味しい中華の店があるんだよ。折角だからそっちに行ってみないかい?」


 檜村さんがちょっと重くなった雰囲気を変えるように明るく言った。


「相変わらずよく知ってますね」

「紹興酒が美味しいんだよ、少し飲んでも構わないかな?」

「ええ、いいですよ」


『次は終点、国分寺です。お乗りの皆さんはお忘れ物の無いように……』


 話しているうちに、普段通りの車内アナウンスが流れた。



 立川駅に着いた時には4時を回っていた。

 立川にくるのは久しぶりだけど、相変わらずにぎわっていて、交差した歩道橋には沢山の人が行きかっていた。

 援護要請なんてものが来たから来てみたけど、なんか普段通りの光景で変な気分になる。


「どっちですか?」

「北口の……公園の方だね。こっちだ」


 檜村さんがスマホを見ながら大き目の車道を指さす。


「歩いて行けそうですか?」

「近いようだね。この距離なら歩いたほうが早いだろう」

  

 歩道橋を降りたところの広めの歩道は大き目の街路樹が植えられていて公園のようになっていた。

 緑が多くて何とも綺麗だな。

 横の車道をけたたましいサイレンを鳴らしながら救急車が走って行った。

 

「もうすぐ着くよ……その信号を」

 

 そこまで言ったところで檜村さんが言葉を切った。


◆ 


 信号を挟んだ公園の入り口には人だかりができていて、歩道に乗り上げるように救急車が3台止まっていた。

 赤い回転灯が物々しく光っていて、後ろのドアが開け放たれている。一台がサイレンを鳴らして走り出して行った。


「ここは立ち入り禁止です!皆さん下がってください」

「定着ダンジョンが出現しています。危険です!」


 警官の人がマイクで大きな声を上げている……ただ事じゃないことは分かった。

 目の前の車道では車が行き交っている……信号が変わるまでの間がもどかしい。


「どいてください!」

「そこ、道を開けて!」


 信号を渡ったところで、大きな声が聞こえて人垣が割れた。

 公園の奥から白い制服を着た救急隊員の人が担架を運んで走ってくる。


 担架には血まみれの男の人が寝かされているのが見えた。

 救急車が担架を載せてすぐに走り出していく。

 

「何があったんですか?」


 傍に居た警官の人に声をかけると、鬱陶しそうな目で睨まれた。


「なんだ、君達は?今忙しい……」

「乙類5位、片岡水貴です。支援要請を見てきました」

「丙4位、檜村玄絵」

 

 名乗ると硬い表情を浮かべていた警察の人が姿勢を正して敬礼した。


「よく来てくれました……感謝します。定着ダンジョンの討伐で怪我人が出ました」

「すぐにあちらへ……急いでください」


 警官の一人が先導するように公園の駆け出して行った。


 大きめの木が植えられた石畳が敷かれた道を走る。

 向こうから担架を持った二人の救急隊員とすれ違う。その担架にも血を流している人が載せられているのが見えた。


 灰色の曇り空の下の広い芝生に人だかりができていた。

 あとあの相模原でも見たテント。そのテントの前にはマリーサが真っ青な顔で立っていた。

 



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― 新着の感想 ―
なんだか悪い予感がしますね。他に何も思いつかない。
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