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彼らの代理人・上

「ミスター片岡。少しいいかな」


 ライアンと会って3日後。

 夕方の荻窪駅で声をかけてきたのは縞のスーツに赤いネクタイの男の人だった。 


 少し額が後退した金髪の男の人だ。外人さんの年は分かりにくいんだけど、40歳過ぎくらいだろうか。

 体格はいいけど、ちょっと少し頬とかが緩んでいて太目な印象だ。人当たりのよさそうな雰囲気はあるけど、目つきは鋭い。


 スーツとかぱっと見で高そうなのは分かる。時計もなんかキラキラしていた。

 エリートサラリーマンっぽい。


「待ち伏せのようですまない。君はSNSもやっていないようだし、連絡先が分からなくてね、こういう方法になってしまった。

ああ、怪しいものではないはないよ」


 その人が淀みない日本語で言う。


 いや、この待ち方は怪しいでしょ、と言いかけたけど。

 よく考えれば僕の電話番号とか連絡先は知り合いとか魔討士協会以外には知らせていないな。

 魔討士協会や学校が勝手に教えるはずも無いし。


「私は、アンドリュー・スミス。チームOZの代理人(エージェント)を務めている」


 スミスさんがスーツの襟元を指さす。

 そこには動画で見たライアンたちのチームのロゴのバッジが光っていた。


「先日はチームのメンバーが不躾な真似をしたと聞いてね。お詫びに来た。

それと、良かったら君と少し話をさせてくれないかな?」



 スミスさんに連れられて荻窪駅の近くのチェーン系のカフェに移動した。

 白い壁に黒い柱の高級感がある店だ。パーテーションで仕切られた店内は少し薄暗い。

 コーヒーの香りがほんのり漂っていた。


 ここは値段も高めだから高校生には敷居が高い印象の店だ。僕は入ったことがない。

 静かな店内には何組かのお客さんがいて、パソコンを触ったり何か話合っている。 

 

 スミスさんが店員さんに話をして、広い店の一番奥のテーブルを指さす。

 僕に奥の席に座るように促して、僕が座るの待つようにしてスミスさんも椅子に腰かけた。

 ソファもなんか高級感がある。


 座るのに合わせるように店員さんがコーヒーを運んできてくれた。もう注文済みなのか。

 なんか卒がないというか、いかにも優秀なビジネスマンって感じだな。

 

「時間を取ってくれて感謝する。ミスター片岡」


 ウェイターの人が完全に離れるのを待って、スミスさんが机の上に名刺を置く。

 英語と日本語で名前や肩書が書いてあった……弁護士の人らしい。


そう言ってスミスさんがコーヒーを一口飲んだ。


「まずは謝罪させてくれ。編集前の動画を見たが、君の権利をいくつか侵害している。動画の公開前には法的に問題ない様に私が責任もって確認するよ。

それにマナーとしても違反だった。彼等に変わってお詫びする」

「いや、別にそれはいいですけどね」


 法的にとか言われるとなんか偉く大袈裟な話な気がする。

 肖像権とかそういうのだろうか……詳しくは知らないけど。


「それより、高校生に大人の代理人がつくんですか……しかも弁護士の?」

「勿論さ。優れた専門家(プロフェッショナル)が専門外の些事に囚われずに本来の分野で能力を発揮してもらうためにサポートするのは当然だ。高校生だろうが関係ない」


 スミスさんが当たり前って感じで言う。

 ちょっと日本の高校生魔討士の感覚では考えられないな。伊達さんの会社や伊勢田さんは分からないけど。


 あの動画もそうだけど、あらゆる意味で本格的だ。

 日本でもプロ野球とかのスカウトされる高校生にもそういう代理人が付くんだろうか。


「もし必要なら君の代理人も務めさせてもらうよ。乙類5位ならすでに有名人だ。ビジネスに交渉、専門家は必要な状況はあるんじゃないかな?」


 スミスさんが言うけど……あんまりそう言うのは思いつかない。

 今のところは割と好きに戦っているだけな気がする。


「必要ならいつでも依頼してくれ。高名な風使いの代理人になれたら光栄だよ」


 スミスさんが爽やかな笑みを浮かべる。白い歯が覗いた。


「それで、僕に何の用ですか?」

「そう。今日来たのはビジネスの話だ、片岡君」

「ビジネス?」


 黒い革の鞄から机の上に細かい文字が並んだ書類が置かれる。


「ああ、ビジネスだ。片岡君、魔討士としての活動をしばらく控えてほしい。

期間は彼らのチームが4位になるまで。報酬は三万ドルだ」



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