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アメリカの乙類5位・下

「しかし、日本語上手いね」


 マリーサはまだ癖があるけど、ライアンとケーシーの方は話だけ聞いたら日本人と思うくらいに完璧だ。


「そりゃあ日本でのし上がろうとするんなら日本語は必須だろうさ」

「なんでアメリカで戦わないの?」


 ダンジョンは世界中に現れているから魔討士……というか、ダンジョンで戦う能力を持つ者の需要はどこでも同じだ。

 だからこそ台湾に胡さんのような誅師がいるわけだし、欧州には聖堂騎士団(テンプルナイツ)がある。

 これだけの能力ならアメリカで活躍できそうだけど。


「ああ、そうか。アメリカのダンジョンの事なんて知られてないよな」

「申し訳ないけど」


 ライアンが言う。

 SNSとかのおかげで他所の国の事も知りやすくなったけど、それでも知らないことは多い。

 それに旅行にでも行くんじゃない限り、そこまで詳しく調べたりもしないし。


「アメリカは日本とはかなり違うんだよ」

「というと?」


「アメリカでは今は定着ダンジョンを討伐することはほとんどしないんです。余程都市の厄介な場所に現れた場合は別ですが」


 ケーシーが言う。


「なぜ?」


 日本だと定着ダンジョンはなるべく討伐すべきものと言う扱いになっている。

 とはいっても、魔討士の数的に手が回らなかったり、深くなると攻略も難しいから、理想通りにはいっていないけど。

 ただ、討伐をあえてしない理由は分からない。


「魔獣を倒して得られるライフコアを資源と見做しているんです。ダンジョンは鉱山のようなもので、そこからライフコアを回収してエネルギー源にしています。だから定着ダンジョンは討伐しない」

「むしろダンジョンマスターの討伐なんてことをしようとすると止められるんだよ。そこからライフコアが取れなくなるからね」

「……そんなのあり?」


 なんか聞いている分には、小説とかで出てくるようなダンジョンのドロップアイテムを目当てに町ができるとかそんな感じだ。

 言われて見れば合理的って気はするけど、定着ダンジョンがあると野良ダンジョンも発生しやすいらしい。

 そんなことをしていたら野良ダンジョンの被害が増えそうだけど。

 

「個人的にはアリだとは思わないよ……ダンジョン事故(インシデント)で死んでる人もいるからね」

「ただ、事故を起こさないためにすべての車を無くすのが現実的じゃない様に、ライフコアが資源になっている以上、そういう事故が起きても仕方ない、という考えなの」


「はあ……なるほど、ちょっと驚きだね」 


「というわけで、アメリカでは俺達は余り活躍の場所がないんだよ。適正な階層でライフコアを取るのが俺達の仕事ってわけさ」

「ダンジョンは深層へは立ち入り禁止です。ダンジョンマスターとの戦闘はリスキーだし、そもそもダンジョンを討伐する必要はないという考えですから」 


 ケーシーとライアンが説明してくれた。

 マリーサは話に入れないのか、所在なさげにスマホをいじっていた。

 しかしいろんな国があるもんだ……というかセス達によればヨーロッパも定着ダンジョンは積極的に討伐する方針らしいから、むしろアメリカがかなり変わってる気がする。

 

「この能力でダンジョンで戦うなら、日本で活動するのが一番アピールになると判断したの。インターネットに国境はないからね」

「欧州は色々と聖堂騎士団(テンプルナイツ)の制約がうるさかった。日本が一番多様性があるよ。戦うも戦わぬも自由」

「ホントよ。配信一つするのもウルサクって困ったわ」


 暇そうに話を聞いていたマリーサが割り込んできた。


「まあこういうわけです」

「日本に来る前はこんなの皆がバカな試みだって笑ったけど……俺はそうは思わない。それに今のところは順調だしね」


 ライアンが言ってケーシーが頷く。

 マリーサがスマホを見てケーシーに何か囁いた。


「私は明日は千葉の東金の定着ダンジョンを討伐に行きます」

「というわけで、片岡。君たちに恨みはないが、抜かせてもらう。最初に4位に行くのは俺達、チームOZだ」

「ジャアネ、カタオカ……ところでさ、よかったら今度デートしよ」


 マリーサが顔を寄せてきて言う。

 かすかに香水っぽい甘い香りが漂った。


「アタシは本気よ。考えておいてネ」

「じゃあまた会おう」


 ライアンが言って駅の方に歩き去っていった。

 時計を見ると6時過ぎになっていた……結構長話になったな。


 なんとも色々と情報量が多い話ではあった。

 ただ、なぜそこまでして日本に来てまで戦おうとするんだろうか……次にあったら聞いてみるか。 


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