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異世界からの久々の来客・上

 セス達からのことは学校でも特に噂になることはなかった。変に騒ぎにならなくてよかったな。

 今後どうするかは本国と相談中らしい。


 そんなこともあった週末の土曜。

 前日に木次谷さんから呼ばれた。檜村さんも一緒にということなので、新宿駅で待ち合わせて魔討士協会の本部に向かう。

 

 着いてみたら大き目の会議室にはシューフェンがいた。

 その後ろに付き従うようにトゥリイさん、それとフォルレアさん。

 

「久しいなカタオカ、それにヒノキムラ」


 シューフェンはいつもの金銀の糸で狼の刺繍が入った豪華な中華風っぽい服を着ている。今日は使者としてきているらしい。

 フォルレアさんとトゥリイさんも、シューフェンよりは控えめだけど綺麗な礼装を思わせる服だ。


 それぞれ胸に狼と兎を対にしてモチーフにした文様が縫い取られている。

 多分二つの士族の協力の証とかそう言うの何だろうな、とは思うけど……何となくペアルック風だ。

 そういえばトゥリイさんは前に来た時は男装のような感じだったけど、今日は女物の服装で化粧もしているっぽいな。


「トゥリイ、元気かい?」

「はい、老子」


 二人がシューフェンと何か言葉を交わしてこっちに来る。

 ふんわりとお香のような香りが漂った。時間的にはそこまで久しぶりじゃないんだけど、最後に会ってから随分間が空いた気がするな。


「二人はすでにいくつもの武功を立てている。道士殿、あなたの指導は実に素晴らしかったようだ」

「お久しぶりです、大風老子様」


 トゥリイさんがペコリと頭を下げてくれた。


「調子が良さそうでなによりだよ」


 檜村さんが言う。

 まあ最後に見た戦い方が実践できているなら活躍してるだろう。


「で、今回はなんでこちらに?」

「あの……実は私、先日の戦いで功があったので、シューフェン様にお願いしたんです。ニホンに行くときに同行させていただきたい、と」


 トゥリイさんが俯き加減に言う。


「なにかあるのかい?」

「老子、あの、できれば、あの一度食べさせていただいたアイスクリームというものを食べてみたいな、と」


 そういえば前に何処かで食べたらしいというのは聞いたけど……外を出歩くのは色々と危険な気がするぞ。

 代々木で撮られた映像が大事にならなかったのは運がよかっただけだと思うんだけど。


「うーん……此処に運んでくるのじゃダメなのかい?」

「できればあの街を、老子と一緒にもう一度歩いてみたいです。できれば私の旦那様……フォルレアにも見てほしい」


 そう言って二人が頷き合った。


「この二人の武功は目覚ましい。可能なら願いをかなえてやってはもらえまいか」


 シューフェンが木次谷さんの方を思わせぶりに見ながら言う。

 木次谷さんがちょっと苦い顔をして頷いた。 


「いいんですか?」

「……魔素の研究チームがサンマレア・ヴェルージャだけでなくソルヴェリアにも派遣されていまして。

なんだかんだでシューフェンは狼士族のお偉いさんの立場でソルヴェリアと日本の協力関係のために尽力してくれていますし……断りづらいんですよ」


 どうやら当初からそう言う目的で呼ばれたらしい。

 木次谷さんが言い難そうに言う。どうやら色々と大人の事情があるっぽいけど。

 

「……お願いできますか?」

「行けって言うなら行きますけど……はっきり言いますけど、何かあっても責任は取れませんよ?」


 トゥリイさんたちを連れて回るのはセスたちをガイドしてるのとはわけが違う。

 セスたちが聖堂騎士なのはバレてもそこまで問題じゃないのかもしれないけど、ダンジョンの向こうの異世界から獣人が来てますなんてことが公になったらとんでもないことだ。


「何人か人員をつけますが……戦闘だけは避けてください。動画さえ出回らなければ何とか誤魔化します」


 木次谷さんが言うけど……それはダンジョン出るなとしか言いようがないぞ。

 要は運任せらしいけど、いいのかな。 

 


「このような装いをするのですか?」

「そうですよ、フォルレア。此処はソルヴェリアではないのですから」


 魔討士協会が準備してくれた服を手に取りながら怪訝そうにするフォルレアさんに、トゥリイさんが諭すように言った。

 トゥリイさんは前に代々木に行った時と同じようにゆったり目のボーダーシャツとこれまたゆったりしたパンツ。それに大き目のキャスケット。

 

 フォルレアさんにはこれまたゆったりしたジャケットとロングコート。

 改めて見ると、シューフェンやフォルレアさんは尻尾が目立つ。

 トゥリイさんはそうでもないからこれは種族の差なんだろう。


 彼らが着ている中華風の豪華な礼服っぽいものは裾が長くてガウンとかみたいになってるけど尻尾はそのまま出ている。

 でもこっちではそういうわけにはいかないわけで。


 女性ならスカートとかで隠せそうだけど、男性はそれはできない。

 季節的にはもうロングコートの時期からは外れるけど、隠すためには仕方ない


「ところで……この装いでは帯刀できないのですが」

 

 見様見真似って感じでベルトを締めながらフォルレアさんが言う。

 手には先端が鈎爪のように曲がった剣が握られていた。


「武器は持ち歩いちゃダメです」

「しかし……あの虫共と遭遇したらどうするのでしょうか。剣無しでは我が妻を護れません」


 真顔でフォルレアさんが言う……どうやら本気で心配しているらしい。


「その場合は僕らが戦います」

「不埒者などに襲われる危険もありますが……その場合は抗戦して差し支えありませんか?」

「ないから大丈夫です」


 シューフェン並みの身体能力を持っているなら武器無しでも強そうだけど

 ……というか、不埒者とはなんなのか。


「これでよろしいでしょうか」

 

 薄手のロングコートにジャケット、それに獣耳を抑えるように頭にターバンのように緩く布を巻いたフォルレアさんが言う。

 正直言って普通だとかなり変というかコスプレに見えかねない組み合わせだと思うけど


 ……顔立ちが日本人とは違うから何となく違和感がない。

 ていうかイケメンだとなんでも似合うな。



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