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幕間・現れた最後の敵

 またもや如月視点です。



 壁のように並んだ巨大なアリがまた迫ってきた。槍を振り回してアリをなぎ払う。

 隊列が崩れたアリを鈴森の盾が押し返して、黒川の剣がアリを切り倒した。


 アリの群れが波が引くように後退した。

 アリがこっちの様子を伺うように間を開ける……いやな感じだな。


「大丈夫か?」

「なんとか」


 黒川が疲れたように手を上げる手応じる。

 鈴森が盾で体を支えながら小さな声で答えた。まだ実戦経験ないのによく戦ってるが……

 森下と遠藤は足を噛まれてもう動けない。

 

 アリも面倒なんだが、この蔦が厄介だ。棘だらけで絡みついて動きを止めてくる。

 これがいる限り逃げようにも逃げられない。


 アリがまたじりじりと間を詰めてきた。

 黒川が大きく息を吐いて剣を構える。

  

「クソが!援護は来ねえのか、何してやがる」


 後ろには戦えない連中もいるってのに……このままじゃ全滅するぞ。


「おい、如月、あれ見ろ」


 黒川が指さした先、グラウンドの入り口の方から地響きを立てて巨大な馬が走ってきた。

 それには黒い鎧がまたがっている何だありゃ。


 馬の向こうから白い光が次々と舞い上がった。放物線を描いて光が雨のように振り注いできくる。

 矢のような光に貫かれてアリがバタバタと倒れた。


 突進してきた馬の蹄がアリと蔦を踏みつぶして、こっちのすぐそばまで来る。

 ようやく援軍到着か。


 アリが甲高い鳴き声を上げた。

 同時に口から液体を吐き出すが、その鎧が射線に立ちふさがるようして盾を構えた。


 盾の表面で液体がはじけて白い煙が上がるが、怯む様子も無く鎧が剣が一振りした。

 剣が蔦とアリを薙ぎ払う。ダメージは無さそうだ。

 アリがおびえたように後退する。


「無事のようだな」


 その鎧を従えるように、デカい馬からデカい図体の外人が下りてきた。



 馬が踏みつけた道をたどるように魔討士達と一般人共が合流してきた。

 殿しんがりのように最後に白く光る弓を持った黒人と、銃を持ったこれまた外人の女がいる。


「此処が最後か?」

「はい、多分」


 金髪の外人がポニーテールの女と話している……日本語が上手えな。

 まあ言葉が通じるのはありがたい


「助かったぜ、ありがとよ」

「ありがとうございます」


「礼には及ばん」


 その外人が言って俺達が守っていた連中を一瞥した。 


「此処は不利だ。まずは市民を逃がす算段をすべきだな」


 その男が言う……しかし見ない顔だ。

 というか、外国人の魔討士がいるなんて聞いたこともないぞ。


「外には出られないのでしょうか?」


 鈴森が疲れた声で聞くが。


「生垣と言うか木の壁みたいなのが出来ている。乗り越えるのは難しいだろう」

「外でも戦っているようだが、あの壁がある限り援護は難しいかもしれないね」


 その外人と黒人が応じた。

 逃げられないうえに、援護も来ねぇのか。厄介なこったな。


「アブミ、お前は女子供を乗せられるだけ乗せてあの施設に戻れ。走り抜けるくらいならできるだろう」

「多分なんとか……そのくらいなら」


「今からこの馬で施設に避難する。いいか、女子供、怪我人が優先だ」


 その外人の男が言うと、不満げな声が上がった。


「私を乗せなさい!私は女よ。そもそもこんなことになってるのは貴方たち魔討士の不手際でしょう!責任を取ってもらいますよ」

「ふむ、元気そうだな。ならばそこで黙って座っていろ。それとも子供を押しのけて逃げたいのか?」


 一人の女が立ち上がってその外人に食って掛かるが、素っ気なくその外人が言い返す。

 そのやかましい女が気圧されたように黙った。


「無論恐ろしいのは分かるが……いいか、大人として強きものとして此処は矜持を示せ。心配するな。我らが守る」


 そいつが言うと戦えない連中が黙り込んで相談を始めた。

 揉めるかと思ったが、すぐに話が纏まったらしく、何人かの親子連れが抱き合いながら進み出てきた。

 膝を折ってしゃがんだ馬にそいつらが乗り込む。


「じゃあ皆さん、また戻ってきます!」

「任せるぞ、アブミ」


 バカでかい馬が地響きを立てて施設の方に走り去っていった。

 後ろを見ると、まだ30人ほどが取り残されている。魔討士は10人ってところか。

 アリの群れが俺達の周囲を丸く囲んでいる。 


「よし、残りはここで防御陣形を敷く。武器を使える者は二人一組になり円陣を組め。魔法使いは後列で備えろ。もう少しだ。皆、くじけるな」


 その外人が強い口調で言う。

 リーダー面した命令口調はなんか気に入らねぇが、周りはまだ蔦と蟲がいて、当分は援軍も期待できない。

 この状況で強い奴がいるのは歓迎できる。

 

 黒川と鈴森がそれぞれ剣と盾を構えてアリたちと対峙する。

 俺も槍を握りなおしたところで不意に、スマホが甲高い音を立てた。



 耳を劈くような不快な金属音……これはアプリの警告か。


[きわめて強力な個体の接近を確認しました。7位以下の交戦を禁止します]


 聞いたことのない警告メッセージとダンジョン出現の時より大きい警告音に、誰かが怯えたように悲鳴を上げる。


[速やかに退避してください。6位以上の魔討士も自衛を優先し……]

「なんだこれは?」


 それなりに長くたたかってるが、それでも初めて聞く警告だ。

 ていうか、退避ってそれが出来れば苦労してねぇよ。

 スマホの画面を操作して鳴り続ける警告を切る。


『そこの何人かは手練れの様だ。殺しておこう』


 唐突に声が聞こえて顔を上げる。

 5メートルほど離れた蔦とアリの群れの前に、背の高い人のような奴がいつの間にか立っていた



 一瞬何が起きたのかわからなかったが……少し考えて目の前のこいつが話したと言う事が分かった

 言葉を使う魔獣だと?

 

 ひょろ長い腕と足の2メートルほどの背丈。スカートのように透明なものが腰の周りについている……羽根っぽいな。

 左右の手には1メートル近い棘だらけの鎌が付いている。

 人間を思わせる顔だが複眼のような目が四つついていて、口に当たる部分には蟲のような顎と牙が生えていた。

 

 見た目は細くて槍でぶっ叩けば簡単にへし折れそうだが。

 ……何度か野良のダンジョンマスターを倒したこともあるが、そいつとは格が違うことくらいは肌で感じる。


「人型で知性がある……カタオカが言っていたのはこいつだな」


 その外人が言う。

 鎧が音もなく剣を大きく掲げた。盾を構えてそのカマキリと対峙する。

 弓を持った黒人と銃を持った女が、そいつを左右から挟むように立った。

 

「こいつは手ごわいと聞いている。弱きものは俺の後ろに下がり民を守れ」


 その外人が言うが……何か見下されてるようで腹の立つ言われようだな。

 ヤベェ相手なのは分かるが、舐められるのはムカつく。

 槍を持って一歩進み出るとその外人が俺を見下ろした。


「お前の序列(ランキング)は何位だ?」

「甲の五位だ、ボケが。なめんじゃねぇぞ」


 そう言うとその外人が頷いた


「手練れか。それは心強い。ならば、強者の責務を果たせ」


 槍を構えてその外人の横に並ぶ。

 黒川と鈴森も一緒に来ようとしてくれたが。


「いや……お前らは下がってろ。こいつはヤベェぞ……後ろの連中を守れ」


 近くに立ってみると肌を刺すような張り詰めた空気が伝わってくる。

 万全じゃない黒川と、まだ駆け出しの鈴森にこいつと戦らせるのは危なすぎる。

 

 カマキリ野郎が小首をかしげてこっちに顔を向けた。

 複眼だからどこを見てるんだか分からねぇが。俺達を見ているのか、その後ろの市民を見ているのか。


『我々は今までお前等を観察していた。お前らは個体としては我らにははるかに劣るが団結すると中々に手ごわい。それにあの獣どもよりは強くはないが、人外の力を操るのも厄介だ』


 そいつが甲高い軋り音のような耳障りな声で言う。

 獣って何のことを言ってやがるんだ?


『だがお前等には致命的な欠陥がある。それは、戦う力をごく一部しか持たない事。そして愚かしくもやたらと仲間を守りたがることだ。

多くの者を巻き込めば効率よくお前らの戦士を殺せる。狙い通りだ。我らの巣をこれ以上壊されるわけにはいかん』


 そのカマキリ野郎が威嚇するように腕を広げた。

 来るか。


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