代々木訓練施設・グラウンドの攻防・3
おはようございます、朝更新。
「だが、危険な戦いになる。行くのは俺とパトリス、それにお前の相棒の魔法使い、ヒノキムラとか言ったか。それだけで行く」
セスティアンが言ってカタリーナの方を向いた。
「カタリーナ、お前はフィッツロイ卿をお守りしろ」
「いえ、それは……」
「あの騒がしい連中の言う事は必ずしも間違ってはいない。一番人が多い此処の防御を薄くし過ぎるわけにはいかないからな」
カタリーナが言い返すのを無視して、セスティアンがまだ騒いでる連中を一瞥する。
「それに弱きものは戦場に出るべきではない。弱い命は無駄に失われるだけだ。
戦場は名誉ある場、其処に立つのは相応の力と覚悟がある者のみ」
セスティアンが静かだけど強い口調で言う。
これは前も言ってたな……なんというか強い思いを感じた。意地悪とか馬鹿にしてるとかそういうのじゃない。
「聞いてくれ!
今からここにいるカタオカと我々が打って出て皆を救い出す」
セスティアンが大声で言った。
ホールのざわめきや外の戦闘音を圧する良く通る声で、皆がこっちを見る。
……部外者なんだけど、堂々たるもんだな。学校で見た姿もなんだけど、こっちの方が本当の姿なんだろう。
セスティアンがこっちを向いた
「次はお前だ、カタオカ」
「僕が?」
「お前は日本の魔討士で、ここの最上位だろう。ならば、今ここの皆を勇気づけるのはお前の務めだ」
セスティアンが当たり前って顔で言う。全員の注目がこっちに集まった。
こんな風に突然言えって言われても困るんだけど。
「……僕は行くので……此処の守りは皆さんにお任せします!勝ちましょう!」
とっさに言ってはみたけど、こんなんで良かったのか。
でも僅かな間があって、正直言って驚く位の大きな歓声と拍手が周りから上がった。
「頼むぞ!」
「すまない、よろしくお願いします」
「頑張って!片岡さん!」
「此処は俺達が守るぜ」
「アンタみたいにはいかないが、精いっぱい戦うよ!」
「友達がいるかもしれないの、助けてあげて」
大騒ぎの中でさっきのスーツ姿の二人が居心地が悪そうにしてるのが見えて、ちょっと気分が晴れた。
「我らは同じ戦列に並ぶ戦友。邪なるものが阻もうと我らの敵ではない。ともにこの危機を乗り越えよう!」
セスティアンが言ってまた周りから歓声が上がった。
◆
「ねえ、カタオカ」
カタリーナが僕の袖を引いた。
「何?」
「オネガイ、アイツを説得して……アタシも行けるように言って」
カタリーナが真剣な顔で僕を見て言う。
「アタシの能力は世俗騎士のなかでも強くない……こんな戦いに出してもらえる機会はもうナイかもしれない。
ここで戦績を上げて力を証明すれば……今が絶好の機会なの。アタシは聖堂騎士になるためなら何でもする。お願い」
カタリーナが真剣な口調で言う。
「もし聞いてくれるなら……アタシを好きにしていいから」
カタリーナが体を寄せてくるけど。
「……そういういい方は好きじゃない。そういうのにつられるって言われてるみたいでさ」
「いや、アノ……そう言うつもりじゃ」
カタリーナが慌てたように一歩下がる。
カタリーナは綺麗だし下心が無いかと言われれば全くないとは言わないけど……そう言う風に言われるのもいい気分はしない。
カタリーナが真剣な目で僕を見た。
学校で言っていたことを思い出す。きっとこれはカタリーナにとっては挑む価値があることなんだろう。
「セスティアン、カタリーナと僕は一度一緒に戦った。彼女はきっと力になってくれる。一緒に行ってもらおう」
「そいつは弱い、死ぬだけだ」
「戦いは単純な能力じゃない。僕が保証する」
そう言うとセスティアンが顔をしかめた。
「銃を借りたとはいえ弾は多くないだろう。弾が切れたらお前は何もできない。
あの敵が弱い者を狙ってくるというなら猶更だ。足手まといになって生き恥を晒したいのか?」
セスティアンが冷たく言った。
カタリーナが辺りを見回して師匠の方を見る。
「センセイ、そのカタナを貸してもらえませんか?」
「なんでだ?」
「アタシの能力は自分の持ったものに魔素を纏わせる能力なので……弾が尽きたらそれで戦います」
カタリーナが言って頭を下げる。
セスティアンが余計なことをするなって感じで師匠を睨むけど。
「ああ、勿論構わねぇ。俺が持ってるよりいい」
師匠が袴の帯に挿した刀を鞘ごと抜いてカタリーナに渡した。
「いいか、これは業物の戦場刀だ……結構価値のある代物だからよ、必ず返しに来いよ、お前の手でな」
カタリーナが腰のベルトに刀を吊るして一礼した。
「死ぬなよ」
「はい、必ずお返しします」
◆
「で、どうする?」
鐙さんと待っていた檜村さんと合流して窓から外を伺う。赤い光はますます濃くなってきている気がするな。
外を見ながらセスティアンが聞いてくる。
「ダンジョンマスターは……多分二体いる。一つはアレだと思う」
広場の一角、普段はベンチがあって一本の木が立っているところに、ドームのような巨木のような茂みが見える。
植物系の魔獣だろう。あのアラクネみたいな奴だろうな。
もう一体はアプリに反応はあるんだけど、それらしい姿が見えない。
屋上で戦ったような、人間サイズの奴だとここからは見えないか。
「作戦は?」
「僕と檜村さんであの木を倒す。この人の魔法ならダンジョンマスターも倒せる」
「俺達はどうする?」
「セスティアンとパトリス、それにカタリーナは鐙さんの馬でグラウンドにいる敵を片付けて一般の人を少しでも助けてほしい」
グラウンドにいる人を助けて施設に戻れれば、あとは籠城してもいい。
待っていれば援護は来るはずだ。
「戦力の分散は危険じゃないか?」
パトリスが言うけど。
「それはそうなんだけど……今は急いだ方がいいと思う」
本当はじっくり戦いたいけど、孤立してる人たちはそう長くはもたないだろう。
それにダンジョンマスターを倒さないと状況は悪化する一方な気がする。
「分かった、お前の指示に従おう」
なにか言いたそうなパトリスを制するようにセスティアンが言った。
「あと、もう一体のダンジョンマスターが出るかもしれない。
見た目は人間っぽい部分がある蟲はまず間違いなく知性のあるやつだ。手強いし回復力がけた外れに高い。それと卑怯者だ。背中を取られない様に注意して」
「それは俺が相手しよう。任せておけ」
「巻き込んでおいて言うのもなんだけど……大丈夫?」
「剣で切れる相手なら、なんであろうが問題ない」
セスが平然と言う……その位の能力をもってるってことか。
今は彼を信じよう。
「あと、悪いけどカタリーナ、パトリス。君達の攻撃じゃあいつらにはトドメはさせない。援護に徹して」
この二人の能力は強いとは思うけど、銃や矢とかの点の攻撃だ。
あの知恵がある蟲に致命傷を与えるのは難しい気がする。
「了解だ」
「分かったわ」




