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令和ダンジョン!~高校生風使いが挑む、東京ダンジョン討伐戦記~  作者: 雪野宮竜胆
7章・誰かに求められて戦うこと~仙台宮城野ダンジョン攻略戦
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7日目・宮城野ダンジョン、深奥の戦い・下

 振り返ると、四宮さんが崩れるように倒れた。

 地面からわずかに顔だけ出した蔦の先が見える。

 

「四宮!」

「四宮さん!」


 体に何本も棘が刺さっている。マズイ。

 地面に倒れた四宮さんを出水さんが起こそうとするけど。


「抜くな。血が噴き出すぞ。急所じゃねぇ。その程度ならすぐには死なねぇ」


 熊男が強い言葉で制した。


「お前等も戦士だろうが。今は戦え。そいつの為にも」


 強い口調で熊男が言う。

 四宮さんは僕をかばってくれたんだ。今はアイツを倒すことを考えないと。

 ただ、四宮さんが倒れるのはまずい。防御が崩れる。地面をたたきながらまた蔦が迫ってくる。


「一刀!破矢風!蛇颪!」


 渦を巻いた風の刃が蔦を切り落とす。でもこの風を連発はできない。広範囲を斬るから消耗が激しすぎる。


「あっち行け、バケモン!」


 出水さんの光弾が周りの蔦を吹き飛ばすけど……この状況は宗方さんと戦った時と同じ状況だ。

 こっちの攻撃は届かないから相手にプレッシャーを掛けられなくて、やりたい放題される展開。

 四宮さんが倒れた今、この距離で戦っていたら押し切られるぞ。

  

「どうにかあいつの近くまで寄らないと」

「その通りだ。おい、大風老師(ダイフォンラオシィ)、お前の風で俺を守れ。もう一度切り込んで俺が叩き切る」


 熊男が言うけど。

 手数が多い上に四方八方から蔦の攻撃が飛んでくる。あのガスと棘は風の壁で止めれるけど、蔦そのものは風ではとめきれない。

 そもそも本体が高い所にいる。シューフェン並みの体術がないと届かないぞ。


「あの本体を……切ればいいわけ?」


 漆師葉さんが熊男を一瞥していう。


「そうだ。だが、お前の道術程度の威力では話にならん」


 熊男が漆師葉さんをに言い返した。さっきからの影の斬撃はあまり効果がない。

 切った端から埋まってしまっていて、さっきまでの傷跡ももう消えていた。


「分かってないわね、デカいの。こういうときに道を切り開くのがエースよ」


 漆師葉さんが鼻で笑って一つ大きく深呼吸する。

 サーベルを握って漆師葉さんが僕の方を見た。

 

「……行ってくるわね。片岡、信じてるわよ……ブルーロータス!」


 何をする気かと聞くより早く、漆師葉さんがサーベルを逆手に持ち替えて影につきさす。

 影に溶けるように姿が消えた。


「え?」


 何が起きたかわからなかったけど、足元にあった影が赤い壁を這うようにして天井に延びた。

 天井の影から漆師葉さんの姿が現れる。黒い外套が翼のようにはためいた。


「食らいなさい!」


 声に気付いてアルラウネが上を向く。

 避けるより早く、サーベルの切っ先が肩口を貫いた



 サーベルが根元までアルラウネの本体に突き刺さった。

 耳を劈くような長い悲鳴が狭いダンジョンにこだまする


「止めよ!ブラックローズ!」


 追い打ちをかけるようにそいつの体の中から影の刃が伸びた。

 切り刻まれた体の破片が飛び散る。巨体が足を踏み鳴らす。鼻の奥を突き刺すような嫌なにおいが立ち込めた。


「どう!」

『人間如きが!この私に』


 アルラウネの本体の蔦がほどけた。手の部分に棘が生えて触手のように伸びる。


「何?死んでないの?」


 漆師葉さんが驚いたように言う。

 あの影で戻ってくるかと思ったけど、そんな素振りは無い。何してる?


「漆師葉さん!飛んで!一刀、薪風!白繭!」


 こういう無茶は宣言してからやってくれ。風が漆師葉さんにまとわりつく。

 振り回された触腕が当たるより早く、間一髪、漆師葉さんがサーベルを引き抜いて飛んだ。


 追うように振り回された触腕が漆師葉さんにぶち当たる。

 空中を飛んだ漆師葉さんが地面に転がった。


 アルラウネの人型の部分は片腕が落ちて頭のような部分も半分切れていた。

 体中が影の斬撃に切り刻まれて粘液があふれ出ている。でもあれでも死んでないのか。

  

『餌の分際で!!頭から食らってやる』  


 何本もの蔦が漆師葉さんめがけて飛んだ。一本が足に絡みつく。


「させんぞ!」

「一刀!破矢風!」


 風の斬撃が蔦を切り飛ばす。僕と並ぶように熊男が斧を構えて突進した。

 かばうように漆師葉さんの前に熊男が回り込んで斧が蔦を切り払うけど、周りから次々と蔦が伸びる。

 間に合うか。

  

「一刀!破矢風!蛇颪!」


 走りながら鎮定を振る。風が渦を巻いて蔦が風の刃で切り裂かれるけど、肩に強烈な痛みが走った。

 視界の端に太い蔦が振り上げられたのが見える。風をすり抜けてきたか。


 振り回される鞭のように蔦が飛んでくる。

 鎮定を振り上げるより早く、熊男の斧が一閃して蔦が切り落とされた。


「無事か?」

「ありがとう!」

「さがってろ!こいつ!」

 

 出水さんの魔法が白い軌跡を残して飛んだ。

 アルラウネの巨体に次々と光弾が命中する。アルラウネが地響きを上げて下がった。 


 打たれた肩には焼けつくような痛みはあるけど……刀を振れないほどじゃない。外套の分厚い生地が少しは衝撃を和らげてくれたのか。 

 漆師葉さんが自分の体を抱くように大きくため息をついて立ち上がった。


「ありがとう、片岡、助かったわ」


 どうやら怪我は無さそうだ。

 あの防御の風、白繭は大して強い防御じゃないけど、直撃じゃなかったから逸らすことくらいはできたらしい。


「どう、片岡、あたしの力は」

「……さっきのあれでなんで戻ってこないわけ?」


 多分影に飛び込んで移動するとか、そういう類の技なんだろうけど。

 刺したらさっさとあれで戻ってきて欲しかった。


「ブルーロータスはタメが必要なのよ」


 しれっとした顔で漆師葉さんが言う。


「ああいう無茶をやるときは事前に言ってくれ」

「アイツの懐に飛び込むにはあれしかなかったし……それに、あんたが守ってくれるんでしょ」


 確かにあの方法じゃないと至近距離までは近づけなかった。というか僕や熊男じゃ無理だったけど。

 ……ああいうのは、こっちとしては心臓に悪いことこの上ない。


「やるではないか、娘!」

「エースだからね、当然よ」


 熊男が言って、漆師葉さんが胸を張る。


『やってくれたな、人間め。だがこれならどうだ』


 球根からまた何本もの蔦が伸びた。先端に花が付いたやつだ。威嚇するように花が口のように開いたり閉じたりする。

 また何か吐いてくるのかと思ったけど……何もしてこない。

 何のつもりかと思ったけど……切り刻まれた上半身の傷が少しづつ埋まっていくのが見えた。


『かかってくるがいい、獣よ、どうした?』


 こいつ……威勢のいいこと言ってるけど時間稼ぎしてるな。その程度の知恵は回るか。

 こっちもさっきと同じ手は通じないだろう。回復される前に、ケリをつけないと


「畳みかけよう」

「その通りだ。まさか疲れて風が使えんなどとは言わんだろうな、大風老師(ダイフォンラオシィ)ともあろうものが」


 熊男が言う。

 一体その呼び方は何なのかと言いたいところだけど。


 風の使い過ぎでかなり疲労感があるし、何か所か蔦で殴られて痛みはある。

 でも、熊男はあちこちから血が流れていて黒い衣装がドス黒く汚れている。かばってくれた四宮さんや、捨て身でこの状況を作ってくれた漆師葉さん。


 僕が弱音を吐いている場合じゃない。

 地面を蹴って気合を入れなおす。


「勿論!一刀、破矢風!群雀(むらすずめ)!」 

「行くぞ!」

 

 小さく分割した風の刃が蔦を切り払う。

 熊男が斧を振り回しながら突進した。案の定、何も罠とかは無い。


『くそ、獣めが!』


 アルラウネの巨体が地響きを上げて下がろうとするけど、熊男の追い足の方が早い。

 戦斧が胴体を薙ぎ払って、斧が深々と食い込こむ。どろりとした粘液が球根からあふれ出した。

 二度三度と叩きつけるような斬撃にアルラウネの悲鳴が上がる。

 

 僕もまっすぐ踏み込む。

 僕を追い越すように出水さんの魔法が雨のように降り注いで、光弾が球根のあちこちに穴を穿った。


 強烈な刺激臭がして、目が刺されるように痛むけど、風を体の周りに吹かせると少し痛みがやんだ。

 戦えないほどじゃない。


 飛んでくる蔦を刀で切り払って横に回り込む。

 熊男にざっくりと切られて斜めに傾いた球根、その先端の人型の上半身が見えた。これなら射線が通る。

 刀を長く伸ばして断ち切るイメージ。

 

「食らいなさい!ホワイトジェイティン!」

「一刀!断風!高梢(たかこずえ)!」


 踏み込んで刀を振り下ろす。風が渦巻いて切っ先から見えない風の刃が伸びた。

 タイミングをあわせたように壁を伝った影から巨大な黒い刃が飛び出す。

 十字の斬撃がアルラウネの体を切り裂いた

 

 

 球根から切断された上半身がごろりと地面に転がった。

 涙が出そうになるような刺激臭と、生ごみのような腐敗臭が混ざって吐きそうになる。

 巨大な球根がぐらりと崩れて巨体が壁にもたれかかるように倒れた。


 地面に転がった体がもがいていたけど、動きが少しづつ弱くなった。流石にこれでとどめになったか。

 鎮定を構えて近づく。

 近くで見ると、緑の蔦が絡まった人間の顔の目に当たる部分の黒いガラス玉のような目が僕らを見た。


『何者だ貴様ら……人外の力をつかうものがなぜ……獣共に与しているのだ』


 絞り出すような声でそいつが言う。


『あの獣だけなら……こんなことには』


 与しているわけではなく、たまたま一緒に戦っているだけではあるけど。

 シューフェンもこの熊男も、身体能力は確かに高いけど、それでも単独でこいつらを倒すのは無理だろうとおもう。そもそも本体までたどり着くのは至難の業だし、再生能力も高い。


 丙類や甲類の遠隔攻撃があるのとないのじゃ全然違うだろうな。

 乙類だけでこいつらを倒せるか、と言われると多分難しい気がする。


 確かソルヴェリアは道術というか魔法使いが少ないって話だったし、エルマルとかの魔法使いがいる国とも関係が良くないっぽかったし。

 魔法使いと連携しているのは想定外だったんだろう


『お前が……いなけれ……』

「死ね。ムシケラめ……我が部下の仇」


 絞り出すように言ったところで、熊男の斧がアルラウネの頭をたたき割った。

 植物が枯れるように姿が崩れて行く。

 巨大な球根もどろどろと形を失ってそのまま消えていった。巨体が消えて、いつも通りライフコアが残る。

 まるで何事もなかったかのように、さっきまでの強烈なにおいも消えた。



 







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