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13 ディートリンデのお片づけ作戦

 騎士団で働くようになった最初の数日は、バルトの活動エリアを見学したり見習いたちの様子を観察したりした。


 でもそろそろ手を貸してほしいと言われたので、まずは「バルトの授業の手伝い」と「部屋の管理」を任されることになった。


「部屋の管理についてだが……俺は自分でも、片づけが苦手な方だと思っている」

「自覚あったのね」

「だからできるなら君に、このエリアをより過ごしやすい場所に変えてほしい」


 特に、見習い用の休憩室がすぐに散らかってしまうのだという。

 バルトと一緒に覗いてみたその部屋は確かにものが散らばっていて、いかにも「男の子たちの部屋」という感じがした。


「バルト、掃除の仕方は……教えないわよね」

「……これに関しては、見習いたちに偉そうなことを言える自信がない」

「それもそうね。……分かった。この辺りをもうちょっと過ごしやすい場所にしてみるわ」


 これからバルトは見習いたちと一緒に訓練場に行くそうなので見送って……早速、部屋の掃除と改造開始だ。


 ……まずざっと見渡してみたのだけど、この部屋には問題がある。


 見習いたちは十五人で、彼らの名簿ももらっている。それなのに十五人がくつろぐこの部屋には、「決められた場所」なるものが存在しない。

 ここに服を置く、ここに荷物を置く、という決まりがないので、荷物も何かのゴミもあちこちに散っていた。


「そりゃあ、ものが散らばるわよね……」


 バルトが言うに、授業内容以外については彼が前任の教官騎士からこの仕事を引き継いだときのやり方を変えていないそうだ。


 でも、これだけ散らかっているのを考えると、やっぱり工夫はした方がいいよね。

 それもできれば、なるべくお金は掛けない方法で……。


「……失礼します」


 片づけをしながらうんうん考えているとドアがノックされて、洗濯籠を抱えた女性たちが入ってきた。


「あら、あなたは……?」

「初めまして。バルタザール・リューガーの妻のディートリンデです。先日からここで働いております」

「ああ、あなたが噂のリューガー様の奥方ですね!」


 洗濯担当の使用人たち彼女らは、使用人にしてはおしゃれできれいなドレスを着た私が誰かが脱ぎっぱなしにした衣類を抱えていることで警戒していたようだ。

 でも名乗ると頬を緩め、洗濯籠を足下に置いた。


「あのリューガー様がいきなり結婚を決めたと聞いて、あたしたちも驚きましたよ」

「見習いたちからは、思ったよりもきれいなお姉さんだったと聞いてたけれど、本当に美人さんでびっくりですよ!」

「あ、はは……ありがとうございます」


 ……まさか見習いの子たちからそう思われていたとは知らなかった。

 皆どちらかというと私に対して警戒していて、寄ってこない感じなのだけど。


「でも、奥方があの悪ガキたちの面倒を見てくれるのなら、あたしたちも助かりますよ」

「そうそう。……ほんっとに、片づけのできないガキばっかりで!」

「見てくださいよ、奥様! あの馬鹿ガキたち、何度言っても片づけをしないし散らかすして、困っているんです!」

「かといってリューガー様にあたしたちが物申すことはできなくて、困ってたんです」

「そのようですね。私も夫から、このエリアの環境改善を依頼されているのです」


 私が言うと、女性たちは一様に顔を輝かせた。


「ええっ、本当?」

「そりゃあ助かりますよ! 奥方ならリューガー様にも相談できますし、ガキたちも言うことを聞くでしょうからね!」

「是非とも頼みます!」

「わ、分かりました。頑張ります!」


 女性たちは洗濯した衣類をテーブルに置くと、私にエールを送って去っていった。

 ……まだ子どもとはいえ騎士の卵である見習いたちを「馬鹿ガキ」と言える彼女ら、かなりの大物の予感がする。


 さて、皆からも依頼されたことだし、改めてこの部屋の整理整頓について考えないと。


 掃除は掃除係の使用人がやって、洗濯はさっきの女性たちが定期的に訪れて汚れものを回収し、洗濯したものを持ってきてくれる。

 でもいつもごみごみとしているから、空いているテーブルに置かざるを得なくなって……。


 見習いたち用のシャツは全員共通で、体の大きさに合わせて三種類準備されている。

 洗濯係の女性がせっかくそれらをきれいに畳んで置いておいても、皆は自分のサイズのものを引っ張り出してそのままにしてしまうので、他の人のシャツがぐしゃぐしゃになってしまうそうだ。


 うん、まずはこの洗濯物について問題を改善できるようにしよう。










 その日、屋敷に戻った私はヘルベルトに頼んでいくつかの道具を準備してもらい、自室で作業をすることにした。


「……リンデ、入ってもいいか?」


 夕食の後に部屋に籠もっていると、ドアがノックされた。今日は夜までの勤務だったバルトが帰ってきたみたいだ。


「ええ、どうぞ。ちょっと散らかっているから、足下に気をつけてね」

「ああ。……これは確かに、なかなか散らかっているな」


 ドアを開けたバルトがそう言うのも仕方ない。


 私は床にクッションを置いた上に座って作業をしていて、周りには木の板や筆記用具などが転がっている。まさに、「不潔ではないけれどものが多い」バルトの執務室と似たような状況だ。


「見習いたちの休憩室を改良しようと思って、いろいろ作っているの」

「そういえば今日、洗濯係たちからもあの部屋をきれいにしてほしいと頼まれたとか」


 そこでバルトは凛々しい眉を下げた。


「……悪いな。ここまでしてもらうことになるとは」

「いいわよ。私、こういうふうに何かを考えて作ったり同じ作業を繰り返したりするの、わりと好きだから」


 エルナだったら「なんで私がこんなことを!?」「考えるのが面倒くさいわ!」と最初から丸投げだったかもしれないけれど、私は「どうすればいいアイディアが出てくるだろうか」と試行錯誤するのも嫌いではない。


 もちろん、考えた末に作ったものが必ずしも正解だとは限らなくて……そういうときは虚しくなるけれど。


「まずは、洗濯物や衣類をまとめられるようにしたいの。……ただ、見習いの子たちは面倒くさいって反発すると思うわ」

「そんなに面倒くさいのか?」


 バルトに尋ねられたので、私は今作っているものについて簡単に説明した。

 それを聞いたバルトは、納得したように頷いた。


「なんだ、それなら最初にルールを決めればいいだけの話だ。ずぼらが多くて文句垂れもいるが、そうすることで自分たちにとって……そして周りの者にとってもよい結果になると分かれば、納得するはず」

「そうだといいわね」

「それに、もしあいつらが君のやり方に文句を言うのならば俺の方からも物申す。だから、君は自分が考えたことを胸を張って実践すればいい」


 思わず、バルトの顔を見上げた。

 加工しかけの木ぎれを手にしていたバルトは私を見て、頷いた。


「君に騎士団エリアでの仕事を依頼したのは、俺だ。君が心おきなく仕事をして能力を発揮できるよう、俺が支援する」

「……。……ありがとう」

「……こちらこそ、ありがとう」


 今、何かが胸の奥から溢れそうになった。

 でもそれに無理矢理蓋をした私は、手元に視線を落とした。

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