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17.魔法騎士


「姉さま、今日は剣術のお稽古を一緒にしようよ!」

 ブライアンが朝から元気に言った。

「いいわね! もうすぐマクシム叔父様がいらっしゃるから、審判を頼んで試合をしない?」

「やったあ! 僕、もう姉さまより強いよ!」

「まあ、ブライアンったら。まだまだわたしから一本を取るのは早いわよ!」

 二人できゃっきゃしながら、屋敷の裏手の庭に出た。庭といっても花など何も植えられていない殺風景な更地である。しかし広さだけはあるし、地面は踏み固められているため、剣の練習にはもってこいだ。


 たぶん今日はブライアンから剣術のお稽古に誘われるだろうなあと思っていたから、朝から女性用の騎士服、サーコートにぴったりしたズボンを着用していた。準備は万端である。

 木剣を手に、気合を入れて素振りをしていると、わたしたちの剣の師匠、マクシム叔父様が裏庭にやって来た。


「マティルド! 先ほど兄上から君が帰ってきていると聞いたが、本当だったんだな! 驚いたよ」

「叔父様、お久しぶりです」

「叔父上! 姉さまと剣の試合をするので見ててください!」

 マクシム叔父様は、父によく似た薄紫色の瞳を細め、笑って頷いた。


「わかったわかった、それではまずは一本、やってみなさい」

 叔父様の言葉とともに、わたしとブライアンはザッと距離をとり、木剣を構えた。

 おお、二、三週間しか離れていなかったのに、ブライアンの構えがよくなっている。


「始め!」

 叔父様の合図とともに、わたしとブライアンの剣がぶつかる。剣の重さはさほど変わらない……、けど、キレが良くなっているような?


 へえ、とわたしは感心してブライアンを見た。

 元々ブライアンは剣が大好きで熱心に稽古をしていたけど、このまま伸びていけばいずれはお父様より強くなるかも。


 しかし、

「ハッ!」

 わたしは『俊敏』のスキルを使い、素早く剣を払ってブライアンの脇を突いた。

 そのままブライアンの苦手な角度を集中して狙い、足元がくずれた瞬間、ピタリと喉元に剣を突きつける。


「……まいりました」

 悔しそうにブライアンが言う。

 いやいや、しかし、これは中々。

「少し見ないうちに、強くなったわね、ブライアン」

「負けたのにそんな風に言われても、うれしくありません」

 ブライアンは拗ねたように言ったが、マクシム叔父様も感心した様子だ。

「いや、ブライアンは本当に強くなっている。真面目に稽古に励んでいるようだな」

 そうでしょうか、とやっぱりブライアンは納得していないようだけど、それでも少し気分が浮上したようだ。


「けど、やっぱりまだ姉さまには勝てないです……」

「姉として、そう簡単には負けられないわよ!」

 わたしの言葉に、でも、とブライアンは口を尖らせた。

「クロードもエズメも、シャーロット様に剣で勝てるようになったんです。シャーロット様は姉さまより年上なのに、僕だけずっと、姉さまに勝てないままなんです……」

 クロードとエズメは、ルブラン家と領地が隣接するドゥニ子爵家の兄弟で、ブライアンと仲がいい。シャーロット様はクロードとエズメのお姉様で、わたしより二つ年上だ。クロードはブライアンの一つ上だが、エズメとは同じ年齢だ。仲良しながらも剣に関しては互いにライバル視しているのだろう。

 しょんぼりするブライアン。可愛い。


 マクシム叔父様はハハハと笑った。

「マティルドと比べられてはシャーロット嬢も困るだろう。このまま鍛錬を積めばマティルドなら王宮騎士団にも入れるだろうが、そんな女性は……、いや、男性であってもそれほど優れた剣の使い手はなかなかいないからな」

 えっ、とわたしとブライアンはマクシム叔父様を見た。


 王宮騎士団に入れるだろう、とランドール様も言っていたけど、それはマクシム叔父様から見ても同じ評価なのだろうか。

「……本当ですか? 叔父様は今まで、一度もそのようなことをおっしゃらなかったのに」

「それはまあ、言ったところで詮無いことだからな。兄上が君を結婚以外で王都へ行かせるとも思えなかったし」

 つまり、事情が変わったのか。結婚以外でわたしがルブラン領を出る可能性がある、ということ?


「マティルドは魔術師の塔に入れるかもしれない、と兄上がおっしゃっていたからな。……しかし、そうなるとどちらにしても騎士にはなれないか……、いや」

 マクシム叔父様は、いたずらっぽい笑みを浮かべてわたしを見た。


「騎士であっても魔術師の塔に入れる者もいる。……せっかくだからぜひ、マティルドにはその道を目指してほしいものだな」

 騎士であり魔術師でもある。それって、


「もしかして、魔法騎士、ですか……?」

 わたしの問いかけに、ブライアンが「えええ!」と大声を上げた。


「そうだ。かつては魔術師の塔と王宮騎士団、それぞれに魔法騎士が在籍していた。今は王宮騎士団だけだが」

「副団長のサヴィニー伯爵ですよね」

 魔術、剣術どちらにも秀でていたがゆえに、サヴィニー伯爵をめぐり、魔術師の塔と王宮騎士団による熾烈な勧誘合戦があったと言われている。わたしでも知っているくらい有名な話だ。


「そんな御方と比べられるのはちょっと」

「何を弱気なことを。マティルドはユニーク魔術の使い手ではないか」

 ハハハと明るくマクシム叔父様が笑う。いや、笑いごとじゃないんですけど。


「姉さま、魔法騎士になるのですか!?」

 ブライアンが瞳をキラキラさせている。

「いや、うん……、なれればいいなあ、とは思うけど……」

「すごいです!」

 姉さま、かっこいい! と憧れの眼差しで見られ、ちょっと嬉しくなってしまった。

 われながら単純。



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