14.ユニーク魔術
「まあ、あなたはとても変わった魔力を持っているのね。質は……、そうね、これなら魔術を使えるでしょう」
バベット先生の言葉に、わたしは安堵のあまりその場に座り込みそうになった。
よ、よかった。わたし、魔力があった……。それに、魔術も使えるんだ。よかった!
「変わった魔力?」
なぜかガブリエル様がバベット先生に質問している。
「ええ、五属性のどれにも属さない魔力だわ。……ひょっとしたら、あなたユニーク魔術を使えるんじゃないかしら?」
ワッと前にも増して教室がうるさくなった。「ユニーク魔術だって!?」「ミレー家やユニーク魔術の使い手までいたんじゃ、魔術師の塔に入るのはもう無理だな……」等々。
いや、まだわたしがユニーク魔術を使えると決まったわけじゃないんですけど。
でも、もしバベット先生の言うとおりならすごい事だ。ユニーク魔術の使い手なら、間違いなく魔術師の塔に入れるだろう。
ユニーク魔術とは、その名のとおり、唯一の魔術だ。使用者本人にしか使えない、世界にたった一つの魔術を指す。
この世に魔術が編み出されて数千年。大陸、王国ごとに魔術は独自の発展を遂げてきた。魔術師年鑑に載っているだけでも魔術師の数は数万を下らないが、その中でユニーク魔術を使える魔術師となると、十人もいない。
わたしが、そのユニーク魔術の使い手!?
保有魔力量だって多分それほどでもないし、家系的に見ても先祖に大した魔術師はいない。
とすると……、やはりわたしが転生者だからだろうか。だからマティルドの魔力が変質したんだろうか。
「マティルド嬢!」
いきなりガブリエル様の顔が間近に迫り、わたしは仰け反った。
「な、なんですのガブリエル様」
「君はユニーク魔術の使い手だったのか!? どんな魔術を使えるんだ!? 教えてくれ……、いや、見せてくれないか! 頼む!」
そういえばガブリエル様は魔術オタクだった。すごい食いつきっぷりに思わず後ずさる。
「さあ、皆さんも早く前に出て! 拒否するなら、この授業を受けることは認めませんよ!」
バベット先生の言葉に、皆しぶしぶ前に出て並びはじめた。
「マティルド嬢、いったいどんな魔術を……」
「いや、だから何の魔術も使えないんです。自分の魔力属性を見ていただいたのも、これが初めてですし」
「そうなのか!」
なぜかガブリエル様はより一層興奮した様子だ。
「まだ本人も知らないユニーク魔術……。それを目にすることができるなんて! 学院に入ってよかった!」
だから、まだわたしがユニーク魔術を使えると決まったわけでは……。ガブリエル様の期待に満ちた瞳に、わたしはちょっと不安になった。やっぱりユニーク魔術は使えませんでした! なんてことになったら、わたしよりガブリエル様のほうがガッカリしそう。
「初めて魔術を使うというなら、そうだな……、僕が簡単な魔術を使ってみせるから、それを参考にしてみてくれ」
いや、魔術の使い方ならバベット先生に教わります。と言いたかったが、ガブリエル様がわたしの横にぴったり付いて離れない。
「足を肩幅に開いて立って。背筋を伸ばして、力を抜いて」
「はあ……」
「うん、いいぞ。体内の魔力を練り上げて、使いたい魔術をイメージするんだ。例えば……『炎』!」
簡単な詠唱と同時に、ガブリエル様の手の平にポッと小さな炎が浮かんだ。
「まあ」
すごい。一瞬で炎を生み出し、しかも難なくそれをコントロールしている。やっぱりガブリエル様って魔術の天才なんだな。
「君もやってみろ」
無理です。
でもまあ、うん……、魔力を練り上げる、か。マンガでもそんなシーンがあったな。体内を巡る魔力を感じ、その流れを掴んで一か所にあつめて……。こんな感じかな。
「何でもいいから使いたい魔術をイメージするんだ。それを言語化し、魔力を乗せる。マティルド嬢は何をしたい? 竜を呼ぶなんてどうだ? いや、一角獣でもいいかも……」
何も呼びたくなんてないよ。ていうか、それは魔術ではなく『召喚』というスキルじゃなきゃできないんでは。
気づけば、魔力鑑定を受け終わった生徒たちがこっちをじっと見ている。あああ、もうここから逃げ出したい。
「創造系の魔術もいいんじゃないか? いっそダンジョンを創ってみるとか……」
無茶言うな!
ガブリエル様はぐいぐい来るし、クラスの皆の視線は痛いしで、わたしはもう半泣き状態だった。
しかも、中途半端に練り上げた魔力が、体の中で出口を探して暴れているようで気持ちが悪い。
魔術を使えば、この気持ち悪さはなくなるんだろうか。しかし、そもそも魔術についてろくな知識も持っていないのに、いきなりユニーク魔術を使えと言われても、何をどうすればいいのか。
ガブリエル様の『炎』。あれは声に魔力が乗っていた。あんな風にすれば、魔術を発動させられるんだろうか。使いたい魔術を言語化し、魔力を乗せて……。
ああ、なんだか頭もお腹も痛くなってきた。もう嫌だ、逃げたい。ここから逃げ出したい!
「『逃走』!」
訳もわからず、わたしは叫んだ。
その瞬間、魔力が凄まじい勢いで体内を駆け巡り、パン! と音を立てて弾けた。ぐらりと視界が揺れる。
「マティルド嬢!?」
「まあ、大変」
ちっとも大変でなさそうな、どこか面白がっているようなバベット先生の声を最後に、わたしは気を失ってしまった。




