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第43話 全てを掛けた5分間

 俺が玉藻へ使用した魂の共有(ソウルシェアリング)を完遂させるための約5分間。

 その時間をガオウに託し、俺と玉藻は眷属化と進化に入ってしまった。

 泣いても笑ってもここからは時間との勝負、魂の共有(ソウルシェアリング)が終わるまでの時間をガオウが稼げるかどうかの勝負となった。

 相手はランクA、現在ランクBの魔物であり進化してそれほど日も経ってないガオウからすれば明らかに格上の相手となる。


 「はあああ!!!〈金剛体躯こんごうたいく〉!!!」


 体術のスキルレベル5で習得できる〈金剛体躯〉、身体能力を強化すると共に筋肉を金剛と化し防御力を上昇させるスキルだ。


 「ふん、ぬるいわぁ!〈ダークスフィア〉!!!」


 アシュタリテが〈ダークスフィア〉を放つ。

 ガオウの背後には俺たちいるため、回避はできない。


 「ぬうん!〈獣魔弾〉」


 〈獣魔弾〉で迎撃しようとする……が撃ち落とせない。


 ステータス差があるためか、明らかにアシュタリテの〈ダークスフィア〉が出力が違い過ぎる。

 迎撃のために放ったガオウの〈獣魔弾〉の方が弾かれて消滅してしまった。


 「ふん!それならばぁ!!!」


 ガオウは両手を前に出し、一瞬気合を入れた後に再度〈獣魔弾〉を放つ。

 ――が、今度は連射だった。

 一発放つだけでもかなりの消費を伴うはずのスキルをガオウは有らんばかりの力で何発も何発も放ち始めた。


 「ぐぬぬぬぅ!!!止まれぇ!!!」


 幾発も放たれ続ける〈獣魔弾〉とアシュタリテの高出力の〈ダークスフィア〉がぶつかり続ける。

 すると徐々に〈ダークスフィア〉の速度が落ち始め、さらには大きさも縮小し始め、最後には跡形も無く消滅してしまった。


 「……はあ!……はあ!どんなもんじゃい!!!」


 何とか〈ダークスフィア〉を撃ち落とすことに成功したガオウが誇らしげな表情を見せる。

 

 しかし、アシュタリテはすぐに次の一手を放っていた。

 ガオウの頭上からヴァラクより放たれた黒雷が襲い掛かった。


 「くぅぅぅ!!!卑怯なぁ!〈獣魔咆哮覇〉!ガアアアアア!!!!」


 すぐさま、黒雷に向かって咆哮を放ち、相殺に持ち込もうとするが、黒雷の威力も高く相殺しきれない。

 結局、黒雷の一撃を喰らってしまいダメージを負うガオウ。


 「ぐうう!それならばぁ!!!」


 一瞬よろめいたが、すぐに体勢と立て直したガオウがアシュタリテに向かって突っ込んでいく。


 「馬鹿が!八つ裂きにしてくれるわ!」


 アシュタリテはヴァラクを構えガオウを待ち受ける。

 そして正面から飛び込んでくるガオウに向けてヴァラクを振り下ろすが――


 ガオウは華麗にその身を翻し回避する、と同時にそのまま回し蹴りをアシュタリテの顔面に直撃させた。


 「……!?貴様ぁ!」


 一瞬、何が起こったか理解できない様子のアシュタリテだったが、すぐに怒りを見せながらヴァラクによる斬撃を連続で放ち始める。


 ……しかし、ガオウは全ての斬撃を見切っているかのように回避し、的確に反撃を叩き込み始めた。


 

 ガオウは格闘家系統の魔物だ。

 理由は後述するが、とある縁で体術の真髄をその体に叩き込まれている。

 そのため、その辺りの格闘家たちが裸足で逃げ出す程度の技巧には達しているのだ。


 一方アシュタリテは魔人、生まれた時からの高ステータスのまま好きに生きてきた部族だ。

 剣の使い方は一応心得てはいるが、技巧が優れているかといえばそこまで極めているわけでもない。

 その技巧を磨き続けてきたガオウとは根本から強さの種類が違うのだ。


 そして現在二人のステータス差を補う形で、ガオウの技巧が輝きを放っていた。


 「くっ!何故だ、何故……俺の攻撃が当たらんのだぁ!!!」


 怒りのままにヴァラクを振り回すが、その都度回避され反撃を喰らってしまう。

 何故自分の攻撃は当たらないのに、奴の攻撃だけは喰らってしまうのだ。

 ステータス差があるため、それほど大ダメージにはならないが、これだけ攻撃を喰らえば間違いなく蓄積はされてくる。

 ダメージの蓄積はもちろんだが、それよりもアシュタリテに蓄積し続けるもの、それは怒りだ。


 アシュタリテが所有する〈憤怒〉の効果で、先程からステータスがどんどん上昇している。

 そのため、ガオウの技巧でも補いきれないほどのスピード差が生まれつつあった。

 さっきまでは完全に避けられていたはずの斬撃で、微妙に傷を負い始めたのである。

 最初はかすり傷程度であったが、徐々にその傷は増えてきており、さらには傷の深さも段々とひどくなってきている。


 アシュタリテの斬撃は怒りの量と比例して加速度的に鋭さを増してきているのだ。


 「……ぐ、ぐぬぅ!!!」


 体中に斬り傷を刻まれながら何とか耐えているガオウだが、そろそろダメージ量も無視できないものになってきた。

 このままではやられるのも時間の問題だろう。


 「……ちぃっ!」


 ガオウは止む無く一度距離を取る。

 距離を取れば闇魔法や黒雷で狙い撃ちにされるため、上策とは言えないがこのまま近距離で嬲り殺されるよりはマシだと判断した結果だった。


 「……ふぅ……ふぅ、さすがにきついなぁ」


 ガオウは現状に弱音を吐くがその眼光は少しもあきらめてはいない。


 「ちょこまかと逃げ回りやがってぇ!さっさと……死ねぇぇぇい!!!」


 ヴァラクは怒りを隠そうとはせず、特大の黒雷を放ってくる……が、ガオウはそれを狙っていた。

 ガオウの周囲に黒雷が着弾する瞬間、素早くジャンプし回避すると同時にそのまま、アシュタリテの方へ飛び込んでいく。


 「ああん!今更何をしようってんだよぉ!?」


 ガオウの行動に更に怒りを募らせたアシュタリテは飛び込んでくるガオウに向かってヴァラクを全力で振り抜くが――


 「もらったぁ!〈大星海落とし〉!!!」


 空中でその身を翻しながら斬撃を避けながらアシュタリテの胴体を両手で掴むと、そのまま回転しながら地面に叩き込んだ。


 体術スキル、レベル8で習得できる〈大星海落とし〉。

 隙は大きく、なかなか決まることは少ないが、その分ダメージ量は体術スキルの中でも最大級を誇る大技だった。


 「がはぁっ!!!」


 ガオウの起死回生の一撃により、体が地面にめり込んだアシュタリテはそのまま激しく吐血し苦しそうな表情を浮かべる。


 「……よし、決まったぁ!!!もうそのまま寝ててくれると有難いんだがなぁ!」


 満身創痍の状態で何とか大技を決めることが出来たが、すでにガオウの体力も限界に達しようとしていた。

 恐らくもう少しでヤクモと玉藻の進化も終わるだろう。

 かなりの傷を負ってしまったが、何とか時間を稼げる目途が立ったと多少安堵の気持ちを持ってしまった瞬間、アシュタリテがピクリと動く。


 「……やはり、こんなもんでは倒せんよなぁ」


 今の一撃で一瞬意識が途切れたのか、先程までアシュタリテの体を包んでいた赤い闘気は霧散してしまっている。

 その状態でゆったりと立ち上がったアシュタリテは両手をガオウの方に向けると一言だけボソリと呟いた。


 「〈ダーク……インフェルノ〉!!!」


 ガオウの足元に漆黒の魔法陣が出現し、そこから天に向かって暗黒の魔力が一気に吹き上がる。


 「ぐおおおおおお!こ、これはぁ!?」


 闇魔法のスキルレベル9、即ち最大の魔法である〈ダークインフェルノ〉。

 相手を闇の魔法の中に閉じ込め際限なく苦痛を与える最凶の魔法である、


 まともに喰らってしまったガオウは元々残り少なかった魔力を一気に持っていかれそうになり、脱出もままならなかった。


 「く、くそぉ、これまでか……」


 とうとう限界を迎え、〈ダークインフェルノ〉の影響を受けたままの状態でその場に膝をつくガオウ。


 体からは力が抜け、今にも命運が尽きようとしていた。


 「くははぁ、多少手こずらされたが、やはり取るに足らん雑魚だったなぁ」


 アシュタリテが直接とどめをさそうと近付いてくる。

 確実にガオウを殺さんと、ヴァラクを持つ手に力を込める。


 しかし、それより先に――


 「……〈獄炎牙〉」

 

 ガオウの背後より何者かが、凄まじい勢いの炎を放つ。


 「何だぁ!?」


 その炎は上下二手に分かれ、アシュタリテに襲い掛かる。

 まるで猛獣の牙のような形状の炎だ。


 ガオウは、その炎自体は知らないが、何が起こったかは理解できる。


 「……遅いではないか。待ちに待ったぞ、全く」


 「すんませんなぁ。あんたのおかげで命拾いしたわぁ」


 それはとても聞き覚えのある声だった。

 気付けば魔王ヤクモと玉藻を包んでいた輝きは収まっており、そこに二人の人物が立っている。


 片方はもちろん魔王ヤクモ、そしてもう一人は……


 九本の尾を携え、炎を纏う美獣へと進化した玉藻が立っていた。


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