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第38話 魔王 VS 黒雷剣 ②

 〈黒雷剣・ヴァラク〉から発せられた黒い雷光をまともに受けた俺はそのまま後ろに吹き飛ばされる。


 今までとは比較にならないほどの大出力で放出された黒雷は天井や壁など至るところを破壊し尽くす。


 「何なんやぁ!死んでまうやないかぁ!!!」


 玉藻はギャーギャー言いながら必死で雷撃を回避しているようだ。


 ガオウも、ローザを担ぎ上げて俊敏な動きで片っ端から避けている、超至近距離で喰らってしまった俺とは違い、幾分離れていたおかげか、何とか避けきれているようだ。


 「いってぇ!ゼロ距離で放つとか、何考えてんだよ!」


 さすがにダメージを負ってしまい、何とか立ち上がる俺が見たのは、体中の様々な箇所が焼け焦げ、煙を上げているジョルジュの姿だった。


 「……まじか」


 こんな至近距離で高出力の雷撃を放てば自分にも影響があるのは必至だろう。

 さすがに対策は立ててあるかとは思ったが、まさか無策とは……


 後ろに吹き飛ばされ、少しではあるがダメージを軽減できた俺とは違い、直立不動でまとも雷撃を受けたジョルジュの方が受けたダメージは大きいだろう。

 しかし、ジョルジュは相変わらず虚ろな表情で、まるでダメージなどなかったかのように立ち続けている。


 その姿を見ていると、やはり〈黒雷剣・ヴァラク〉に対して、やはりまともではないという感覚を抱かざるを得ない。


 「やっぱりお前は破壊するしかないなぁ!〈魔王剣〉」


 満身創痍のジョルジュの姿を直視するのはつらいが、その姿を見たからこそ迷いは無くなった。

 持ち主をそんな目に合わせる武器がまともな存在のわけがないじゃないか!


 『……これでも滅せぬか……ならば……』


 ヴァラクの言葉と共に新たな黒雷が発動される。

 その黒雷はジョルジュの体やヴァラクの刀身に纏わりつき、魔法剣のような形態をとる。


 ……しかし、魔法剣のような上等なものではないらしく、黒雷を纏っているジョルジュの体が少しずつ焼け焦げているのがわかる。

 

 「……ほとんど自爆技じゃねえかよ」

 『……私は、どんなことをしてでも目的を完遂しなければならないのだ……』


 再び、ヴァラクを構えジョルジュが突っ込んでくる。

 ここで剣を正面から受け止めて鍔迫り合いに持ち込んでしまったらさっきの二の舞だ。


 かなりのスピードで突っ込んでくるがまずは攻撃を回避することに専念する。

 ジョルジュが放つ高速の縦一文字の攻撃を素早くバックステップで避ける。

 すると間髪入れずに、更に深く踏み込みながら横薙ぎの一閃を入れてくるが……


 「それは読み通りだぞ!」


 一瞬早く俺の〈魔王剣〉が唸りを上げてヴァラクの刀身の根元に直撃する。


 『……ぐぅ!』


 ジョルジュは激しくよろめきながら後退する。


 ん?あれだけダメージを受けても微動だにしなかったジョルジュがあれだけ後ずさるとは。


 これって、ヴァラクの方にダメージ与えた方が効率的じゃね?

 そんなことを思い付いてしまった俺は、その考えが正しいか確認すべくすぐに行動を起こす。


 「ガオウ!ローザを守りながら、余裕があれば援護射撃を頼む!」

 「ああ!わかったぁ!」

 「できれば玉藻も頼む!だが無理はするなよぉ!」

 「ええー、出来たらするから期待せんとってよぉ」

 「ちょっとは期待させてもらうぞ!〈魔影鎖縛〉!」


 俺は仲間に呼びかけながら〈魔影鎖縛〉を発動し、ジョルジュに向かって漆黒の鎖を放つ。

 影の中から放たれた漆黒の鎖はジョルジュを幾重にも絡み取り、雁字搦めに拘束してしまう。


 「今だぁ!〈獣魔弾〉!」

 「特大サービスやでぇ!〈妖尾炎〉!」


 ガオウと玉藻からそれぞれ遠距離攻撃のスキルが放たれる。

 俺はそれを見越してジョルジュへ向かって飛び掛かる。


 二人の攻撃はほぼ同時にジョルジュへ着弾する……寸前に再びヴァラクが動き出す。


 〈魔影鎖縛〉に拘束された状態のまま、ヴァラクの刀身から黒雷が立ち昇り、ガオウの〈獣魔弾〉と玉藻の〈妖尾炎〉を防いでしまう。

 しかし、相変わらずジョルジュの体への影響は無視しているらしく、更に激しく損傷している。


 そして、その黒雷が収まる瞬間を見計らい、隙だらけのヴァラクに向かって攻撃を仕掛ける。


 「〈魔王剣〉!!!」


 漆黒の鎖に拘束されて動けないジョルジュの手に握られている状態で、全くの無防備となっていたヴァラクへ向かって渾身の〈魔王剣〉を放つ。

 狙うはさっきよりも更に根元の部分、ヴァラクの柄にある宝石のような装飾の箇所だ。


 刀身を狙った攻撃では致命傷に繋がる大きなダメージは与えられない可能性は高い。


 狙い通りの一撃がヴァラクの柄の部分にピンポイントで命中する。


 物凄い音がして俺の剣がヴァラクの柄の部分にめり込む。

 俺はそのまま剣を振り抜き、ジョルジュごと吹き飛ばす。

 ヴァラクの柄の部分は刀身までとはいかないまでも、かなりの硬度を誇るらしく、さすがに切断までは持っていけなかったが、手応えは十分にあった、ヴァラクに対して大ダメージを与えることには成功したに違いない。


 吹っ飛ばされたジョルジュとヴァラクは床に転がっている。

 注意深く様子を伺っていると、ジョルジュの体から赤い闘気が立ち昇り始めた。

 

 そして、ゆっくりと立ち上がる。

 その表情は変わらず無表情を貫いてはいるが、体中に負った傷が限度を超えているように見える。

 普通に考えてあの体でこれ以上戦えるわけがない。


 『……オオオオ、貴様ぁ……何故ここまで邪魔をスル……』


 ヴァラクから声が聞こえてくる。

 さっきまでの冷静な口調が少し崩れ、こちらに向けての幾分かの怒りを向けてきているように感じる。

 今、見えている赤い闘気のようなエフェクトは恐らく〈憤怒〉のスキルによるものだろう。

 ヴァラクの怒りに伴って発動しているとみて間違いない。


 ……ということはステータスがどんどん上昇しているはずだ。


 『……早くシナイと……こントんノぉォぉ……邪神ガァァアア!!!』


 そこでより一層赤い闘気が濃くなる。


 しかし、その赤い闘気が強くなるにつれて反比例するようにジョルジュの体が朽ちるように崩れていく。

 またヴァラクの刀身もどんどんヒビが入り、崩壊しかかっていた。


 「これは……何かまずいかもしれないな……」


 只事ではないヴァラクとジョルジュの様子に、間違いなく何かやばいことが起こるのではないかと大きな不安を覚えた。


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