第37話 魔王 VS 黒雷剣 ①
〈鑑定〉によってジョルジュが保有していることが判明したスキル〈憤怒〉。
これは以前、ゴブリンキングが保有していた〈暴食〉と同種のスキルと見て間違いないだろう。
ゴブリンキングの〈暴食〉は神が与えていた、ということは今回の〈憤怒〉も神が与えたのだろうか?
どう見ても神とバルバロッサは敵対していた。
そのバルバロッサの刺客であろうジョルジュに対して神がスキルを供与するのは考えにくい。
……いや、あの神ならやりかねないか?
いずれにせよ、目の前のジョルジュが厄介なスキルを持ってしまったのは間違いない。
〈暴食〉は食べれば食べるほど能力が上昇するというゴブリンキングにピッタリのスキルだった。
それでは〈憤怒〉は怒れば怒るほど能力が上昇するということだろうか、だとすれば目の前の虚ろな表情をしたジョルジュからはかけ離れたスキルに見える。
……とにかく何が起こるかわからない、最大限に警戒しなければならないだろう。
「シオン、これは一体どういうことだ?」
さっきのシオンの様子だと、何か心当たりがあるようだったが……
『はい、まさかとは思いましたが予想通りでしたね。まず、あのジョルジュとかいう男の様子は〈狂化〉の状態異常を付与されているからに間違いないです、しかもかなり強力な影響を受けてしまっているので最早自分の意志なんて無くなっちゃってるんでしょう』
「やはりそうか、それではあの黒い剣は?」
『あの黒剣は〈黒雷剣・ヴァラク〉、確か神が作り出した武器の一つです』
「神が作りだした武器?ということはあの〈憤怒〉のスキルは……」
『それは多分、あの武器を作る際に剣自体にスキルを付与したってことじゃないですか?』
「あの黒剣にか!?そんなことが可能なのか?」
『理論的には可能ですけど、普通はびっくりするくらいの魔力が必要になるので難しいはずなんですけど、あの神ならば実現しちゃいそうですねぇ』
……なるほどな、『NHO』での〈黒雷剣・ヴァラク〉にはそんなスキルは備わってなかったからな。
「ジョルジュの狂化状態は治せるのか?」
『うーん、見る限り相当重度の〈狂化〉を受けちゃってますからね……そこは何ともです」
「……ということは、とりあえずあの黒剣を破壊してから考えるか」
『そうなりますね……あっ、一つ注意事項があります!私の記憶が確かならあの剣には……』
『……邪魔をするな、死にたくなければな……』
突如、聞き覚えのない男性の声が周囲に響いた。
聞き間違いじゃなければ、その声が聞こえてきた先にあるのは……
「何や、あの剣、今喋りよらんかったか?」
そう、玉藻の言う通り〈黒雷剣・ヴァラク〉から聞こえてきた。
「あの剣、言葉を話すのか?」
『はい、あれも神が与えた機能の一つで、意思を持つ剣として作られているんです!』
……そんなことがあるのか。
だとすれば、現在ジョルジュを操っているのは……
「おい、ジョルジュを操作してここまで連れてきたのはお前なのか?」
『ジョルジュとはこの男のことか?それならば答えはイエスだ……』
「はん!今までコロスコロスとかあほみたいに喚いとったのがその男で、陰で方向性を操作しとったのがその剣ってことかいな!いよいよわけわからんやないか!」
玉藻がイライラを隠さずに突っ込む。
「お前は一体何が目的なんだ?」
『私の目的は……あくまで〈邪神の因子〉の破壊……それが全てだ』
「〈邪神の因子〉だと?それは一体何なんだ?」
『〈邪神の因子〉、邪悪な存在が残した残穢ともいえるものだ。そこに転がっている黒い宝石から〈混沌の邪神〉の穢れが発せられている。私はそれを滅せなければならない』
……〈邪神の因子〉?〈混沌の邪神〉?
初登場のセリフばかりで混乱してしまう。
横目で見るとガオウとローザは口を半開きにして上の空だ、完璧に置き去りにされている。
「シオン、何のことだかわかるか?」
『〈混沌の邪神〉……それは遥か昔に封印された存在とは聞いたことがあります。この世界を滅亡寸前まで追い込んだとか……』
何そのやばい存在。
『NHO』でももちろん聞いたことがない。
こっちのスフィアースってそんなにやばいことになっているのか?
『わかったらそこをどくが良い、さもなくばまずは貴様らを先に滅することになる』
〈黒雷剣・ヴァラク〉がそう言葉を発すると同時にジョルジュが剣を振り上げる。
……くそ、一体どうすれば?
話を聞く限りは〈黒雷剣・ヴァラク〉は邪悪な存在を滅ぼす武器ということになり、そこに転がっている黒い宝石から邪悪なものが封じられているみたいだ。
しかし、どう見てもまともな判断力を持ち合わせているようには見えない。
そこが俺の判断を迷わせる要因となっている。
「その宝石を破壊させてはダメです!」
そこへローザが突然声を張り上げた。
「ローザ、何か知っているのか?」
「詳しいことはわかりません!しかしその宝石はバルバロッサから譲渡されたものです。その宝石を破壊しれば恐ろしい存在が出現するので決して破壊されないように……と聞かされています!」
「何だって!?バルバロッサがそんなことを!?」
バルバロッサの言うことは基本的に信用はできないが、この黒い宝石がバルバロッサが用意したものというところにとてつもない不安を感じる。
あのバルバロッサが用意したものがまとも存在のはずがないのだ。
ローザの言うような恐ろしい存在が本当に封印されているのかはわからない。
だが、ローザの言う通りにこの黒い宝石を破壊させない方が良いのは間違いないだろう。
恐らく碌なことが起こらないのだから。
『さあ、さっさとここから立ち去れい!』
……とは言ってもあの黒剣が素直に言うことを聞くとは思えない。
黒い宝石を破壊されずに、あのジョルジュを抑える方法……
あの剣を破壊するしかないじゃないか!
「ちょっ!早くなんとかしーなー!あいつまた襲ってきよるでぇ!」
「魔王様、来ます!お気をつけください!」
玉藻とガオウが叫ぶと同時にジョルジュ……いやヴァラクが業を煮やしたのか、剣を振りかぶったまま辺り一帯へ黒雷を放ち出した。
「いきなりかよぉ!〈魔王の盾〉!!!」
ヴァラクから放たれた黒い雷光は大座敷を激しく破壊しながら迫ってくる。
俺は素早く〈魔王の盾〉を発動し、雷を防御する。
「何やのぉ!?またかいなぁ!」
玉藻は何とか回避したみたいだが、何発かは雷撃をくらってしまったみたいだ。
しかし、羽織っている衣に耐性があるのか、何とか防ぎ切ったようだ。
ローザの方を振り向くと、ガオウが身を挺してかばったようで無事だった。
代わりにガオウがダメージを負ってしまっているが、まあ頑丈なやつなので大丈夫だろう。
『これを防ぐか……ならば、この手で直々に滅してくれよう……』
ジョルジュがヴァラクを構え、凄まじい速度で突っ込んでくる。
表情こそ虚ろなままだが、ヴァラクの意思通りに動きは軽快そのものだ。
俺は自分の剣でヴァラクを受け止め、鍔迫り合いのような形になる。
ジョルジュの力はかなり強かったが、ステータス的には俺が負けるほどではないので、ジリジリと押し返していく。
『……ふん、これで終わりだ』
その言葉にこれから何が起こるのか一瞬だ把握した俺は周囲に向かって大声だ叫んだ。
「みんなぁ!気を付けろぉ!!!!」
その瞬間、鍔迫り合いの姿勢の状態で刀身から特大の黒雷が発せられた。
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