第35話 炎狐 VS 黒剣
「はあ、なんかどえらい奴が来よったなぁ、これは多分あんたを狙っとるで」
ジョルジュが【狐今亭】を襲撃した直後、玉藻は自分たちがいる場所に向かって、何故か真っすぐ突き進んでくる気配を感じていた。
「あんた、何かマーキングでもされてへんか?」
「マーキング?いや、そんなものは……」
そこまで話してハッと何かを思い出したかのような表情を浮かべるローザ。
おもむろに懐に手を突っ込むと、そこから黒い宝石のようなものを取り出した。
その宝石は現在進行形で不気味な光を放ち続けている。
「ああ、それやなぁ、現在進行形であいつのこと呼び寄せとるわぁ、どうしたんそれ?」
「これは、呪い除けの効果があると教えられてバルバロッサから与えられたものです……」
「やっぱりなぁ、あんたやっぱり騙されとるわ、大方最初からあんたのこと処分してまうつもりやったんかもなぁ」
顔面蒼白のローザに向かって玉藻がニヤニヤしながら語りかける。
この黒い宝石はアランドラへ出向く前に、得体の知れないヤクモたちの対策という名目で、常に身につけておくようにとバルバロッサから渡されたものだ。
「そんな……あの時からそこまで考えていたなんて……」
「とにかく早くそれ捨てて逃げんと、もうすぐしたらヤバいのがこっち来よるでー」
玉藻は用心のために【狐今亭】の至るところに感知用の結界を張っているのだが、その結界が何者かに次々と破られている気配をさっきから感じているのだ。
しかも、その何者かは間違いなく一直線にこちらに向かってきている。
玉藻の言う通り、ローザは黒い宝石を床に投げ捨てる。
「よっしゃ、そんなら逃げるでー」
「はい!」
玉藻の感知では、もうすぐそこまで敵の気配は迫っている。
もう一刻の猶予も無いはずだ。
「あっ、そうや!」
そのギリギリの状態で玉藻は何かを思い出したかのようにローザが投げ捨てたはずの黒い宝石をひょいっと拾い上げた。
「何を!?早く逃げないと!」
「いや、ちょっと良いこと思い付いたんやけどなー」
◆◆◆◆
ジョルジュは黒い宝石に呼び寄せられるままに【狐今亭】の中を突き進む。
道中では、玉藻の部下たちが何とか食い止めようと襲い掛かってきたが、次々に斬り伏せ、時には黒雷で蹴散らしながら玉藻とローザのいる大座敷へと直進していた。
「コロス……」
ジョルジュの頭の中は殺意で溢れている。
「コロスコロスコロス!!!!」
しかし、ほとんど無意識に近いジョルジュにも一つだけ行動原理が設定されている。
「コロスコロスコロスコロスコロコロロロコロスススススス!!!!!!」
それは黒い宝石へと向かい、それを持つ者を必ず殺害すること。
バルバロッサの〈狂化〉によって、狂戦士と化したジョルジュにとって出会う者は全て殺害対象となり得る。
すなわち、黒い宝石まで到達する途中に出会う者はジョルジュにとって全て殺害対象となってしまうのだ。
その衝動に従い、【狐今亭】の中で出会った者を全て殺害しながらもどんどん黒い宝石に迫っていく。
そうして、とうとう黒い宝石が存在している大座敷のすぐ近くまで到達した。
壁一枚隔てたすぐ向こう側から黒い宝石の存在を感知する。
「コロスゥゥ!!!!!!」
黒剣を一振りし、その壁を破壊するとそこには、大座敷の中央で俯き無造作に佇むローザの姿があった。
その手には黒い宝石が握られている。
ジョルジュはローザの姿を視認した瞬間、黒剣を振りかざしながら物凄い速度で飛び掛かり……
ローザを脳天から両断してしまった。
「……!?」
――かに思えたが、その瞬間両断されたローザの姿が炎へと変わり消えてしまった。
そこには、床に転がり落ちた黒い宝石のみが存在している。
目の前で起きた現象に一瞬ではあるが、呆気に取られて動きを止めてしまう。
「隙ありやなぁ……〈蛇炎流〉」
その一瞬の隙を付いて背後から玉藻が放った炎が襲い掛かる。
その炎は蛇の如くうねり上がり、ジョルジュを締めつける。
ジョルジュは身動きを止められ、そのまま炎に巻かれ全身火だるまになる。
「…………っ!!!」
さすがに苦しそうに床に膝をついてしまう。
「さっきのは〈陽炎舞〉、あんたはうちが狐火で作った幻を追いかけ取ったんやでー」
「……ううううぅぅぅぅ」
〈蛇炎流〉により全身を炎で巻かれたジョルジュは一歩も動けず、うめき声を上げるばかりだ。
そうこうしているうちに、どんどん炎は強くなりジョルジュの身を焦がし続ける。
もはや、自らの身を支えられず黒剣を地面に突き刺して体を支えている状態だ。
「あらら、もう終わりかいな、呆気ないなぁ、ローザとかいう小娘もとっくに逃げてしもたわー……ってもう聞こえてへんか」
玉藻はあまりにも呆気ない結末に溜息をついたが、その瞬間……
「…………ゥゥゥゥグォォォォォロォォォスゥウウウウ!!!!!」
その瞬間、地面に突き刺さった状態の黒剣から激しい黒雷が迸り、大座敷中を駆け巡った。
突然のジョルジュの反撃に防御する間もなくまともに雷撃を受けてしまう玉藻。
「ちぃっ!やっぱりそんなオチかいなぁ!〈雷獣の衣〉が無かったら危なかったわぁ!」
雷撃を受けたものの、そこまでダメージを受けていない玉藻だったが、その要因は今現在羽織っている金色の衣だった。
とある筋から裏取引で入手したAランクモンスター〈雷獣〉の素材を加工した皮衣だ。
全ての雷系統の攻撃に絶大な耐性を誇る〈雷獣の衣〉が無ければ、玉藻は間違いなく丸焦げだったはずだ。
しかし、今の黒雷の一斉開放の衝撃で〈蛇炎流〉も消滅してしまった。
目の前には、体中からブスブスと肉が焦げた臭いを放ちながらゆっくりと立ち上がるジョルジュの姿だった。
黒剣の力かどうかは不明だが、少しずつダメージが回復しているようにも見える。
「これは、あかんかなぁ……うちも逃げれば良かったわ」
観念したかのように笑みを浮かべる玉藻。
玉藻とジョルジュでは、ステータスの差が大きすぎる。
魔導士系統の玉藻にとってこの至近距離で向かい合っている時点で敗北は必至であった。
相変わらず虚ろな表情で黒剣を振りかぶるジョルジュ。
間もなく自分の体は両断されるだろう。
どう足掻いても避けられない運命を受け入れようとする玉藻の姿だった。
「……コロスゥゥゥ!!!!」
即座に玉藻に斬り掛かるジョルジュ、その剣の切っ先が玉藻に迫る。
「〈魔王砲〉!!!」
――直後、真横から放たれた闘気の塊がジョルジュを飲み込む。
魔王による全力の闇の闘気を放つスキルである。
ジョルジュはそのままの勢いで大座敷の外まで吹き飛ばされていく。
「……あほやなぁ、逃げぇ言うたのに」
「ふん、未来の仲間候補にこんなところで死んでもらうわけにはいかないだろうが!」
そこには、地下牢から放たれた魔王、ヤクモの姿があった。
その後ろにはガオウとローザの姿も見える。
何が起こったかわからないまま吹き飛ばされ、なおゆっくりと起き上がるジョルジュ。
「さあて、何だかよくわからんが……」
ヤクモはそのジョルジュに向かって剣を突き付ける。
「覚悟してもらおうかぁ!!!」
しばらく地下牢に閉じ込められ、それなりに鬱憤が溜まっていたヤクモは、いつもより高いテンションで戦闘に挑もうとしていた。
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