第32話 狂戦士
ベルンハイム城・玉座の間
その時、ベルンハイム城の玉座の間には、ベルンハイム騎士団の騎士団長が全員集められていた。
……いや、正確にいえば現在無事な者だけだが。
今回は後日開催される予定の【英雄会議】に向けて、バルバロッサの名に置いて全騎士団長が召集されたのだった。
現在は、バルバロッサが玉座に腰掛けている眼前に騎士団長たちは整列している。
「バルバロッサ様、全騎士団長、ご覧の通り揃いましてございます」
ベルンハイム第一騎士団長のハーディスが報告と共に跪き、他の騎士団長たちもその動きに追随し跪く。
「うむ……それでは早速始めるか、ルカンよ、用件を説明せよ」
「はっ!それではこのルカン、説明させて頂きます!」
バルバロッサから指名された男は、ルカンといってベルンハイムの宰相を務めている。
ベルンハイム王国はバルバロッサの下に直轄の騎士団が存在するが、基本的に国内の内政はベルンハイムの家臣たちで作られている〈評議会〉にて動かされている。
ルカンはこの評議会のトップに当たる人物だ。
今回、【英雄会議】の開催にあたり、バルバロッサの意志を汲み取りながらもセラフィリアの【神教国・リーンクラフト】との交渉に当たっている。
その件もあり、今回の騎士団長たちの集まりにも概要を説明する役目としてバルバロッサから指名されたのだった。
「今回、バルバロッサ様と【神教国・リーンクラフト】の〈聖女〉セラフィリア様との会談の結果として、後日【英雄会議】が開催されることとなりました」
未だその事実を知らなかった各騎士団長たちはその言葉を聞いて驚嘆する。
【英雄会議】とはその名のとおり、九大英雄が顔を合わせる一大行事だ。
開催時は間違いなく世界を揺るがす事態が発生しているといっても過言ではない。
その【英雄会議】が今回の召集の議題とわかった途端、騎士団長たちの間に緊張感が高まる。
「聞いての通りだ、現在セラフィリアが他の九大英雄たちとの調整に当たっている。恐らく開催地はリーン・クラフトになるだろう。久しぶりの開催となるが、何が起こるか正直わからん。それぞれ警戒を強めよ。そして、ハーディス……」
「はっ!」
「お前は、ルカンと共に同行せよ、他国の者とトラブルになっても面倒だからな。お前はそれらの露払い役として連れてゆく」
「はっ!このハーディス、バルバロッサ様のお供として全力を尽くします!」
【英雄会議】には各国に何名かの同行者が許される。
軍隊などをそのまま連れてくれば戦争が巻き起こる可能性が高まるため、あくまで何名かの同行者に限られるが、それらもまとめて開催国の国主が決める権利を持つのだ。
今回は、セラフィリアが会議に参加する面々の関係性を見て総合的な判断を下すに違いない。
「他の団員たちは、我らが留守の間にベルンハイムの守護を担当してもらう。各騎士団の担当地域に関しては、後ほど新たな割り当て表を配布するからそのつもりでな、大きな変更点は、第二騎士団が受け持っていた地域を第三騎士団と第五騎士団でそれぞれ受け持ってもらう形になる」
ルカンの説明は続く、そう、アランドラで壊滅的な被害を被った第二騎士団は、現状全く機能していない。
当面はその空いた穴を他の騎士団で埋める形となるのだ。
しかし、その件に対して納得ができない人物がいた。
……第三騎士団長、ミストである。
「バルバロッサ様、一つよろしいでしょうか?」
「……何だ?ミストよ、申してみよ」
「はっ、此度のアランドラの一件で第二騎士団が事実上崩壊したということある程度の情報としては知っています。しかし、我らにその詳細を聞かせて頂けはしないのでしょうか?」
今回の件で大枠の情報としては聞き及んではいるのだが、一体何が原因でこんな事態になってしまったのかは、その場にいる者以外は知らない。
バルバロッサの指示により箝口令がしかれており、それらの情報を探るだけでも罪となってしまうためだ。
しかし、アランドラの一般の民はもとより、仲間である第二騎士団にもかなりの数の被害者が出たばかりか、ベルンハイムの秘蔵っ子ともいえる、〈異界送り〉のローザまでが行方不明となってしまっと聞く。
詳細を知らされないままで、はいそうですか、とはとても言えないのがミストの本心であった。
「……ミスト」
「はい」
「二度とその件を我に問うな。次に質問した瞬間首を刎ねる」
「……は!?そ、それは一体!」
「元はといえば、貴様の騎士団員だったソフィアとかいう小娘が原因なのだ。そういう意味では貴様にも相応の責任があるということだけは教えてやろう。今後は、その辺りを肝に銘じて言葉を発するんだな」
バルバロッサの言葉と共に凄まじい威圧が叩き込まれてくるのを感じる。
「……は、承知いたしました」
バルバロッサは首を刎ねるといえば、躊躇なく実行する男だ。
そのバルバロッサに次に質問をすれば首を刎ねると断言された上で実行するほどの馬鹿な人間はいないだろう。
「……それでは、ジョルジュの消息だけでも教えて頂けないでしょうか?」
その隣で新たに口を開いたのは、第五騎士団長のフォルカだった。
このフォルカは第二騎士団長のジョルジュとは親友と呼べるほどの間柄だった。
その親友がアランドラの一件以来、消息を絶っているのだ。
死んでしまったのか、それとも生き残りどこかで療養しているのか、誰に聞いても教えてはもらえないため、たまらずここで質問をした次第である。
「……ああ、あいつは死んではおらんぞ」
「本当ですか!?」
バルバロッサの言葉に思わず表情を明るくするフォルカだったが、その後の言葉に地獄を覚えることになる。
「だが、瀕死の状態だったのでな、我が自ら〈狂戦士〉へと変えてやったわ」
「何ですと!?ば、狂戦士とは!そんな、それではジョルジュは……」
「死ぬまで戦い続ける戦士となるだろうな……まあ、あのまま死ぬよりかは遥かにマシだろう」
バルバロッサのスキルの一つに〈狂化〉というものがある、これは基本的には自らの意志と引き換えにステータスを大きく上昇させることが可能なスキルだ。
しかし、その〈狂化〉を最大のレベル9まで上げた時には、もう一つの効果が得られる。
それは他人に〈狂化〉の状態にすることが可能となることだ。
〈狂化〉によるステータスの上昇値、またダメージの回復は凄まじいものがあるが、その分、生半可な精神力では自我が破壊されてしまう。
ましてや、瀕死の重傷を負ったものであれば、間違いなく意思を持たない、破壊だけを目的とした狂戦士と化してしまうのだ。
そしてそれは第二騎士団長ジョルジュに実行されてしまった。
「それでは、今はジョルジュは……」
「ああ、ローザの奴を居場所がわかったのでな、そっちの方面へ送ってある、確かインヴェルノだったかな?」
「そんなことをすれば!?」
「間違いなくインヴェルノごと滅ぶだろうな。まあこの国を守るためだ、小さな犠牲は仕方があるまい」
その言葉に各騎士団長たちは絶句する。
たった今、この国のトップであるバルバロッサが、国を守るためであれば一つの町が滅ぶとしても問題がないと宣言してしまったのだ。
以前から強硬的な手段を取ることが多いバルバロッサだが、さすがに今回ほどの事案を見たことは無かった。
……いったい何を焦っているんだ?
ミストとフォルカは同じことを考えていた。
ひょっとしたら、今回の【英雄会議】開催の理由に関しても関わっているのかもしれない。
「今ごろ、インヴェルノに到着している頃合かもしれんな……まあ、派手に消し去ってくれれば最善だな」
そう言ってニヤリと微笑むバルバロッサに対して、他の騎士団長たちは戦慄を覚えざるを得なかった。
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