第26話 暴君の帰還
Cランクモンスター、ゴブリンイーター。
こいつの攻撃方法は大きく分けて二つ。
一つは触手攻撃、攻撃範囲はかなり広く、それぞれの触手の攻撃力も侮れないものがある。
そして、もう一つは毒霧攻撃だ。
体全体から紫色の猛毒の霧を散布してくる。
触手攻撃は俺が防げば良いが、毒霧攻撃ともなると俺の背後で熟睡しているローザが心配だ。
毒霧を放たれる前に倒してしまうのが最善だろう。
「……というわけで行くぞ、〈魔王剣〉」
〈魔王剣〉を発動した瞬間、ゴブリンイーターが触手を放ってくる。
何本もの触手が様々な角度から襲い掛かってくるが、全て見極め斬り裂いていく。
やはり、今更Cランクモンスターと戦ったところで、手間取る道理などない。
そのまま、触手の間隙を縫うように飛び回り、最終的にはゴブリンイーターの頭上に到達すると、〈魔王剣〉を真上から叩き込む。
幹の中央に〈魔王剣〉を叩き込まれたゴブリンイーターは大ダメージを受けたようで、目に見えて動きが遅くなる。
……すると、ゴブリンイーターの全身が紫色に染まっていくのが見えた。
「しまった!毒霧か!?」
くそ!出来るなら剣での攻撃のみで倒したかったが仕方がない。
俺は両手をゴブリンイーターへ向けて突き出した。
「吹き飛べぇ!!!〈魔王砲〉!!!」
ガオウを仲間にした時に新たに入手したスキルを発動させる。
その瞬間、両手から闘気の塊が放たれ、ゴブリンイーターに直撃する。
「ピギィィィィィィ!!!!!」
巨大な爆発音と共に断末魔を上げながらゴブリンイーターは息絶えてしまった。
「……よし」
「……今の凄い爆発音は何ですか?」
……よしじゃなかった。
やっぱり起きるよな。
後ろに振り向くと眠たそうに目をこすりながらこちらを見つめるローザ姿があった。
「ああ、ちょっと通りすがりのゴブリンイーターが襲い掛かってきたんで倒してところだったんだ……」
「いや、通りすがりのゴブリンイーターって意味がわからないです!」
まあ自分が眠っている間に巨大な魔物に襲われて、しかも倒してまったんだから驚くのも無理はない。
「いやぁ、疲れてそうだったから眠ってる間に倒しちゃおうかと思ったんだけどなぁ……さすがに無理だったよ」
「あんな獰猛そうな魔物相手に近くで眠っている私を起こさないように倒そうとするのが間違ってるんです!」
ローザが頬を膨らませながら怒っている。
こうして見ると本当にただの少女って感じだなぁ……
「ごめんごめん、でもあいつを倒したことで収穫はあったよ」
「収穫ですか?」
「ああ、ここがどこか粗方検討がついた」
俺の『NHO』の知識では、ベルンハイム王国領内であのゴブリンイーターが出現する場所は限られている。
しかも山の中で出現するスポットといえば一つしかない。
「俺たちがいる場所は〈ブレンダ山〉に違いない」
「……〈ブレンダ山〉ですか!?ということは、アランドラからは……」
「ああ、かなり遠いな、転移が使えない今では徒歩だと相当時間が掛かるんじゃないか?」
「はい、普通に行けば一ヵ月は掛かるんじゃないかと……」
……一ヶ月かぁ、まあ仕方ないんだがこれだけのタイムロスは痛いな。
「確か〈ブレンダ山〉の麓には村があったはずだ、一先ずそこを目指そうか」
「はい!」
「明るくなったらすぐに発つぞ、それまで少しでも体を休めるんだ」
……こうして、思わぬところから俺たちの現在地が判明した。
〈大迷宮〉の近くならば良かったんだが、〈ブレンダ山〉はベルンハイム王都を挟んで反対側に位置する。
はっきり言ってベルンハイム王都には立ち寄りたくはないので、〈大迷宮〉を目指すためにはベルンハイム王国領内を大きく回り込む必要がある。
そうなると、更なるタイムロスは避けられない。
それでも俺たちは一歩一歩進んでいくしかないか。
ローザが言っていた近くで発生した次元の揺らぎの情報も気になる。
明朝一番に〈ブレンダ山〉を抜けて麓の村を目指す。
そうと決まればそれまでゆっくり休もうか……
俺は焚火の近くに座り、少しでも体力の回復を図ることにした。
◆◆◆◆
ヤクモたちがゴブリンイーターに遭遇する時より少し時間は遡る。
ベルンハイム王都にある王城では文字通り激震が起こっていた。
バルバロッサが帰還したのである。
「ば、バルバロッサ様!?どうか落ち着いてください!」
「これが落ち着いていられるかぁ!!!」
バルバロッサは王城へ帰還してからというもの、怒りのままに王城内の目につく物を片っ端から破壊している。
今回のアランドラでの騒動で自らの行動により、ベルンハイムが誇る騎士団に相当の被害をもたらした。
自らが管轄する街で行われた愚行にギルドも黙ってはいないだろう。
その結果、得られた成果は何もなく、自らも強制転移でどこかへ飛ばされてしまうという屈辱を味わった。
これらのことを考えるだけで怒りが頂点に達し、抑えようのない破壊衝動が湧きおこってしまう……
しかし、最もバルバロッサの心中を怒りに染めてしまっている要因は……
「神の奴めぇ……絶対に許さんぞぉ!!!」
神の存在である。
バルバロッサと神の間には、切っても切れない因縁が存在している。
その因縁がバルバロッサの心を憤怒に染め上げる。
長い間、バルバロッサ自身も心の奥底に封印してきた激しい感情が、アランドラでの久々の神との再会によって再び呼び起こされたのだった。
「うおおおお!!!」
怒りのままに王城の壁を殴りつけ、巨大な穴を開ける。
「あ、あわわわわ」
見たこともないような主君の取り乱しように、ベルンハイム家臣たちは言葉も出せないようだ。
「はあ、はあ……セラフィリアを呼べ……」
「は、はあ?」
「聞こえなかったのか!?今すぐ通信魔法を繋げよ!相手は〈リーンクラフト〉の〈セラフィリア〉だ!さっさとしろぉ!!!」
感情の昂ぶりに身を任せるままに、家臣たちに指示を出した内容は……
同じく九大英雄の一人、〈神教国・リーンクラフト〉の〈聖女・セラフィリア〉との連絡を繋げることだった。
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