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第22話 神の介入

バルバロッサ戦、一応の解決となります!

どうぞご覧ください!

 〈大迷宮〉にて神からのギフトとして与えられた〈封印の首飾り〉、実体を持たないため〈大迷宮〉から出られないシオンの魂を運ぶためのアイテム……だったはずだ。


 まあ、あの底意地の悪い神から与えられたアイテムの時点で何らかの細工はされているんじゃないかと、全く疑わなかったわけじゃない。

 だから敢えて言ってやる……


 「案の定だよなぁ……」

 『ん?何か言ったかい?』


 胸元の〈封印の首飾り〉から聞こえてくる声は相変わらず神経を逆なでするかの様なマイペースな口調をしている。


 「……それで、助けてくれるのか?」

 『まあね、このままじゃ君たち絶対に助からないでしょ?せっかく面白くなってきたのに、こんなところで君たちに死なれるのもつまんないしねぇ。特別サービスで助けてあげるよ。もうこれっきりだからね?』


 神がマシンガンのように矢継ぎ早に言葉を並べる。

 相変わらずよくしゃべる神だな。


 しかし、この神の登場に対して、最も驚いているのは俺たちではないようだ……


 「き、貴様は……何故こんなところに現れる!?まだこんなことをしているのかぁ!!!」


 バルバロッサが額に青筋を浮かべながら怒声を発する。

 俺たちと対峙していた時のような余裕の態度はもはや微塵も見られなかった。


 『ああ、久しぶりだねぇ。ちょっとわけあって、ヤクモ君たちにここで死なれるわけにはいかないんだよねぇ。だからちょっぴり介入させてもらうよ』

 「ふざけるなぁ!貴様は一体……どれだけこの世界を弄べば気が済むのだぁ!!!」


 凄まじい威圧と覇気がバルバロッサの体から発せられる。

 大気が震え辺りの空気が重力の如く重くなるのを感じる。


 『いやぁ、久しぶりの再会だってのに連れないよねぇ。僕たちも知らない仲じゃないってのに』


 神の軽口が余程逆鱗に触れたのだろう。

 バルバロッサからの返答は無く、その代わりにバルバロッサの体から強大な闘気が迸り始めた。


 「今度こそ跡形も無く消し飛ばしてくれるわぁ!」


 大剣を上段に構えたまま、更に闘気を練り上げる。

 闘気は俺の〈魔王煉獄神滅剣〉を遥かに上回る練度で上空に向けて立ち昇っていく。


 「ば、バルバロッサ様ぁ!こんなところでそんな技を放ってしまっては!」

 

 第一騎士団長のハーディスが決死の形相でバルバロッサを制止しようとしている。

 これからバルバロッサが放とうとする攻撃の威力を知っているのだろう。

 そしてそれが放たれてしまえば周囲がどうなるかも理解しているからこそ、必死で止めているに違いない。


 「黙れ、ハーディス!あ奴だけは、ここで始末せんといかんのだぁ!」


 しかしバルバロッサは止まらない、憤怒の表情を崩さず、更なる闘気を練り上げ続けるのみだ。


 「……くっ!総員退避だぁ!巻き込まれれば間違いなく死ぬぞぉ!」


 自らの主君であるバルバロッサの激昂ぶりを見て、制止は不可能と判断したのだろう。

 即座に騎士団員たちを退避させようと動きを見せる。


 そうこうしているうちにも、バルバロッサの周囲を渦巻く闘気流は天を貫かんばかりの巨大さに膨れ上がっていた。

 バルバロッサは一瞬、目を瞑り集中したかの様な素振りを見せるが、すぐに目を見開き大剣を振り下ろした。


 「死ねぃ!〈ファイナル・ディザスター〉!!!!」


 ここに来て初めて見せるであろう、バルバロッサの本気の一撃。

 その威力は正に天災級、アランドラの街ごと消し飛ばしてしまいそうな程の、巨大な闘気剣がこちらに向かってくる。


 『うわぁ、僕が知っている頃のバルバロッサよりも遥かに強力になってるねぇ……』


 喰らえば間違いなく即死、どころではなく骨も残らないだろう。

 それは俺の後ろにいる仲間たちも同じだ。


 「うおぉぉぉ!!!本当にこれは大丈夫なのか!?」

 

 どう見ても無事では済まないであろう究極の一撃がこちらに迫っている。

 神の力は強大とは理解しているが、この技の威力を見ていると無事に済むとはとても思えなかった。


 『まあまあ、僕の力を信じてよ。さあて張り切って行こうかな!』


 こちらにバルバロッサの一撃が届こうかとする瞬間に〈封印の首飾り〉が放つ光が更に濃密になる。

 一瞬で光は収束し、俺の目の前で黄金の障壁へと変化した。


 バルバロッサの〈ファイナル・ディザスター〉が黄金の障壁と交差した刹那、大気は弾け、周囲の地面は削れ砕ける。上空では雲が真っ二つに割れていた。


 バルバロッサが膨大な闘気を極限まで練り上げて放った全力の一撃と、神の力で創造された黄金の障壁、その二つがぶつかった爆心地を中心に、周囲に衝撃波と突風が駆け巡った。


 俺たちは神の障壁に守られているため無事だったが、騎士団員たちやエレールたちが衝撃によって吹き飛んでいくのが見えた。


 「……リンネはどこだ!?無事なのか!?」


 確かリンネも障壁の外にいたはずだ。

 無事を確認すべく周囲を見渡すと、リンネの周囲のみに小型のサイズの黄金の障壁が展開されているのが見えた。

 やはり、神の力は凄まじい、この荒れ狂う衝撃波と突風の中で、こんなに正確に一人を守り切れるような障壁を張れるのは、正に神業という他にないだろう。


 結果として、バルバロッサの全力の一撃から俺たちを守り切ってくれた。

 

 ……しかし、俺たち以外の被害は酷いものだった。

 アランドラの街の城門前で起こった衝撃波、城門自体も半壊させていた。


 当然その周囲にいた門番や騎士たちも残らず吹き飛ばされており、その被害は決して軽くはない。

 これだけの被害だ、死者も出ているに違いない。


 「酷いもんだな……」


 俺はその光景を唖然と見つめることしか出来なかった。

 俺の後ろではラセツたちが、少し離れた場所ではリンネが、皆一様に同じような表情を浮かべている。


 先程まで普通にいた場所が跡形も無く消し飛ばされてしまっている。

 門番のおっちゃんたちも今は姿が見えないが、無事だろうか……


 エレールやグライフも今の衝撃に巻き込まれたに違いないが無事だろうか?


 様々なことが頭の中を駆け巡る中、俺の正面でゆっくりと動きを再開させる存在があった。


 ……バルバロッサだ。


 自らの全力の一撃を完璧に防がれてしまったのが信じられないのか、先程までの憤怒の表情が幾分かは軽減され、少しは冷静さを取り戻しているように思える。


 「貴様ら……許さんぞ……」


 そう呟きながら、懐から何かを取り出す。

 どうやら手の平サイズの水晶のようだ。

 その水晶からは何やら赤黒い光が常に溢れ出ている。


 『あ、あれは!?あんなものまで持っているのか……ちょっとまずいかもねぇ』

 「あの水晶を知っているのか?何だあれは?」

 『あれは通称〈破滅の魔晶〉と言ってね、使用すれば自分の周囲の生物を全て死滅させるっていう恐ろしいアイテムさ、確か範囲は半径1キロくらいだったかな?』

 「そ、そんなものをこんな所で使ったら……」

 『アランドラは滅ぶだろうねぇ、出来る限り街とかは残したいのに、参ったなぁ……』


 少しは冷静になった様に見えたのに、とっくにブチ切れ尽くしてたんだなバルバロッサ。

 あんなアイテムを自らの領内で使用するなんて、狂っているとしか考えられない。

 怒りが頂点を突破して、完全に俺たちを殺すことしか考えられなくなっているのだろうか。


 「どうするんだよ!?何とかなならないのか!?」

 『とは言っても〈封印の首飾り〉の状態だと出来ることにも限界が……さてどうしたもんか』


 悠長に打開策を考えている神は置いておいて、あれを使われるのは本当にまずい。

 俺たちは黄金の障壁に守られてはいるが、あのアイテムの効果から免れることが出来るかどうかの保証は全くない。

 何より、あれを使われたらアランドラが滅ぶのは確定だ。

 エレールやグライフたちも、もちろん死んでしまうだろう。


 かと言ってバルバロッサを倒す力は俺たちにはまだ無い。

 やはり、神に何とかしてもらうしか手段は残っていないのだ。


 『……まあ、やっぱりこうするしかないか、せーのっと!!!!』


 神が何かを為すために合図をした瞬間、俺たちの足元から黄金の光が溢れ出す。


 ……いやよく見たら俺たちの足元に出現したのは魔法陣だ。

 シオンの転送用魔法陣(ワープポイント)を彷彿とさせる黄金の魔法陣が、足元に形成されていた。


 その魔法陣は辺り一帯に展開されており、バルバロッサの足元にまで及んでいる。


 「これは……ひょっとして!?」

 『さすがヤクモ君、わかっちゃったかな?ちょっとこの方法以外の打開策が浮かばなかったなぁ、申し訳ないけど頑張ってね』


 ……何を頑張るんだ?


 そんな疑問が頭に浮かぶが、今はそんなことを気にしている時間はない。

 バルバロッサは突如出現した黄金の魔法陣を気にするそぶりも見せずに〈破滅の魔晶〉を発動させようとしている。


 「もう遅いわぁ!これでまとめて全員死ぬが良い!!!」


 バルバロッサが〈破滅の魔晶〉を頭上に掲げようとしたが、それよりも一瞬早く黄金の魔法陣が眩い閃光を放ち始める。


 「ぬう!?これは一体何だ?何をするつもりだぁ!?」


 異変に気付いたバルバロッサが絶叫するが、次の瞬間、バルバロッサの姿が消えてしまった。


 「……やはり、これは転移か!?」

 『その通りだよ、これは僕なりの転送用魔法陣(ワープポイント)でね、バルバロッサに〈破滅の魔晶〉を使われるくらいなら、どこか遠くに飛ばしてやろうかと思ってさ、僕の力でどこかに転移させたんだ』

 「なるほど、それなら皆助かるな!」


 これは神のファインプレーかもしれない。

 何だかんだでアランドラが滅ぶ危機を救ってしまったのだから。


 ……しかし、気になる点が一つある。


 「何故、魔法陣が未だに輝き続けてるんだ?」


 俺の指摘通り、バルバロッサを転移させた後でも黄金の魔法陣は煌々と光を放ち続けている。

 というか、むしろ光は大きくなり続けているようにも見える。


 『あはは、気付いた?いやあ僕の転送用魔法陣(ワープポイント)は少し小回りが利かなくてね。この魔法陣の上にいる者を全て転送させてしまわないと消えないんだよねぇ……しかも転移する場所は選べないと来てる……』

 「……何だと?ということは……」

 『もうすぐ君たちもまとめて転送されちゃうよねぇ』

 「馬鹿野郎!それを早く言え!」


 咄嗟に魔法陣から出ようとするが、足が動かない。


 『ああ、発動時に魔法陣の上にいた時点でもう転移は確定、動けないよ』

 

 何て理不尽な魔法だ!

 じゃあこれで俺たちの転移は確定なのか……

 今、魔法陣の上にいるのは、俺とラセツ、コダマ、オボロ、ガオウ、そしてリンネだ。

 さっき転移させられたバルバロッサの隣にた〈異界送り〉のローザも魔法陣の上で倒れている。


 もうすぐ全員どこかわからない場所へ飛ばされるってことか!?


 『まあまあ、でもこの〈封印の首飾り〉の状態だと、幾分出力が弱くてねぇ。多分この国の領内のどこかにランダムに飛ばされる感じだと思うから、大丈夫!君たちならすぐに合流できるさ!』


 ……ふざけるなよ!

 せっかく出来た仲間とこんな感じで離ればなれになるのかよ!


 『まあ、何とか全滅は免れたから良しとしようか』


 勝手に納得してんじゃねぇ!


 確かに助けてはもらったが、神の勝手ぶりに怒りが込み上げてくる。


 「皆!これから俺たちはこの国のどこかに転移させられる!……とにかく生き延びて合流しよう!集合場所は……〈大迷宮〉だ!」

 「おう!」

 「心得たぁ!」

 「御意……」

 「わかった、必ず合流しようぜぇ!」

 「魔王様、どうぞご無事で!」


 だんだん黄金の光が強まってきている、いつ転移させられてもおかしくないだろう。

 俺は必死で仲間たちに生きて〈大迷宮〉にて合流できるように伝えた。


 そして、とうとう黄金の光が限界を越える程に溢れ出し……


 俺たちは全員ベルンハイムのどこかに飛ばされてしまった。


 

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